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熱い映画である。だが絶望も深い。
本作は前作『黒い神と白い悪魔』のラストカットから続くように海の空撮から始まる。やがて映像は海から陸へ。まるで鳥の目線である。このファーストカットはひょっとするとコンドルの目線だったのかもしれない。
『街は人民、大空はコンドルのもの』（サラの台詞）
･･･だが街もまた人民のものではなかった。
本作は当時、カンヌ映画祭でルイス･ブニュエル賞と国際映画批評家連盟賞を受賞するなど高い評価を得た。『黒い神と白い悪魔』と『アントニオ・ダス・モルテス』の間に発表された長編映画である。しかし、砂埃の中から暴力的で土俗的ともいえるエネルギーで迫ってくる両作と比べると、洗練されていることに驚いてしまう。（根底には南米ならではの湧き上がるような熱気というかリズムが溢れているのだが）
ヌーヴェルヴァーグを彷彿とさせる編集は、巧みで構成にも無駄がない。今回一斉に発売されたローシャ5作品のなかでもっとも政治的でアナーキーなのだが、同時に洗練された作品であるとも言える。だがそれは表面のことだ。
本作が発表されたのは1967年。それは世界同時革命という幻想にリアリティがあった時代。燎原の火のごとく広がった政治の季節のピークの前年だ（翌年のカンヌ映画祭は五月革命の余波で中止に追い込まれる）。そんな時代にローシャは本作でなにを描いたか。
舞台は架空の国エルドラド。保守派の大物政治家ディアスと対立している革新系政治家のヴィエイラが、レジスタンス運動解散を決定するところから始まる。
主人公のパウロは詩人でありジャーナリストであり政治運動家。ヴィエイラ側の運動家であったパウロは武力闘争を主張するが、決定は覆らない。怒りに震えながら車を飛ばすパウロとサラ。
『涙で歴史は変わらない』『僕の狂気は僕の良心』
吼えるパウロ…。だが、検問を突破し白バイに追われ狙撃されてしまう…そして。
…そこから物語は四年前にさかのぼる。
その頃のパウロは（なんと）ディアスに仕えていた…。
この映画は、主人公パウロが保守と革新という二人の政治家の間で信念に従って動き…失望し、また動き…失望し…そして追い詰められていく姿を描いている。情勢は目まぐるしく変化していく。
そのなかでパウロはディアスの娘シルヴィアとヴェエイラ側の運動家サラという二人の女性と心を通わせるが、実を結ぶことはない。失望を繰り返し精神的に荒れていくパウロはマスコミを握る資本家のフエンテスに近づき再びマスコミの側から運動を再開するのだが…。
パウロは有能な人物である。（二人の政治家と一人の資本家に重用されるのだから）
だが、結局彼は全てに失望していくことになる。そして全てに敗れ全てを失う。彼の怒りと失望は何処に向ければいいのか。
『今日は昨日のウソを肯定し、明日は今日の真実を否定。これが民主主義という美徳』
この全てを失う姿をローシャのそれと重ねるのは単純すぎる連想かもしれない。だかそう思えてならない。
そして…『以前は変わる事を望んだが…もし僕らが変わるなら…何のために？どこへ向かうんだ…どんな武器をもって？』
印象的な空に向けて銃を構えるカット。それはパウロ…いやローシャか？。
だが、空はコンドルのもの。銃を向ける方向がちがう…。引き金を引くことはできない。
この‘絶望’がローシャが描いたもの。おそらくそうだろう。このペシミズム。1967年という時期にローシャは一度はある種の絶望に達していたのだ。そして、結果として本作はローシャの曲がり角の一つになったように見える。
非常に重い映画である。だが傑作『黒い神と白い悪魔』と『アントニオ・ダス・モルテス』を（その違いを）より理解する為にも本作は外せない。なぜなら…
本作の絶望をへてローシャは再出発するからだ…。街を人民に取り戻すべく銃の向きを変えるからだ…。
空から大地へ。狂乱の大地へ。『アントニオ・ダス・モルテス』という激烈なファンタジーへ向かって。
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