心がすっと楽になる、ゆるゆる人生訓。と帯に書いてある。
不思議とこの本を読んだあと「足りている」ことを知った。私たちは十分足りていて、「過ぎる」のだと。
カヲルさんの言葉には、経験と会得、そして慧眼無双なる野性のような機知が詰まっている。
神憑りな言葉の操りで攻撃したり、愛という言葉をあれやこれやと着飾って濫用する類い本の騒々しさに嫌気がさした者にとって、この『いーからかん』はいかなるときも、いかなる自分をも待っていてくれる本だ。なにも急かさないし責めもしない。だからといって言葉そのものに悟りの魔力があるわけでもない。ならばどうしてこんなに私を置き去りにしないのか。。
音痴が故宴席で困ると悩む者に対して、
「ジャズを歌えばいいな、わかんないから」
一見無責任で適当だと受け止められても、ご長寿クイズ張りの可愛らしいユーモアだと締め括られても不思議ではない返答。
しかし、噛めば噛むほど味が出る干しダコのような珍重さが漂う。
それは読者である私たちが、カヲルさんの人生を想像しこうであったであろうエピソードの舞台裏を妄想し彼女と関わったすべての人たちに感情移入せしめることで功を成し、いつのまにかそこでこだわりのない『いーからかん』なこころの国の住人になってしまっているからだろうか。
有名人でも、世界レベルの大きな賞を獲ったわけでもなく、地方の村で炭を焼き子供を育て牛を飼って生きてきた一人の婆さんの、お茶目でリズミカルな言葉の流れにときどき地につけた足の裏が語っているような芯の太い一言に目を覚まされる。
私たちはこんなにも持っている。今日明日がひっくり返るようなものごとを望む必要はないと。
愛を急いで知る必要はない。
他人を癒すことに躍起になる必要はない。
それらが単に欲そのものだと責める必要もない。
十分足りているし、過ぎている。
だから減らして肩の荷を降ろせって言われているよう。
『いーからかん』
この世に生きる92歳の婆さんの宇宙が見えた。
ずーっと炭を焼いてきた軽妙洒脱な一人の婆さんの
それはほんとうに可愛らしい宇宙。
そんな宇宙に芯から緩めてもらい教えてもらった。
だからこの『いーからかん』にカヲルさんの宇宙をとじこめてくれたカヲル組という3名の女性クリエイターに心からありがとうと言いたい気分だ。
表紙の写真、見るたびほんとにいい気分。
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