ダンス・シリーズの中では、ラストの意外性、少なくとも前作よりは楽しめました。ただ、最後に恋人が別れを告げるまでの経緯、オニールとの関係にまったく説得力がありません。相変わらず、著者は男女の恋愛の機微を描写するのが不得手のようです。唐突な描写に、読んでいるこちらが気恥ずかしくなります。
気になる表現もあります。p41上段〈裏手の駐車場に出て一メートルと進まないうちにセラーノにつかまった〉とあるけど、〈つかまっ〉てはいないでしょう。セラーノが煙草に火をつけようとしていたところに、〈ダンスが飛び出していったのだ〉とあり、〈何気なく顔を上げたセラーノは驚愕に目を開いた〉とあるのだから。
ささいなことですが、p84下段〈その朝、ビリー・カルプを襲おうとした〉とあるが、〈その朝〉じゃなく〈この朝〉でしょう。〈その朝〉とは、この日の朝のことであり、これを描写しているのは、p88の描写から同じ日の午後二時半前後のことです。同日の午後から、同日の朝のことを指しているのだから、〈この朝〉じゃないとおかしいような気がします。
ほかにも、あれっと思う箇所があります。p117下段〈ほかの土地に移る気がまるでない〉は〈移る気《は》〉でしょう。p134〈分離『ママ、命に関わる病気の治療薬、恋人などがから引き離される不安』〉とあるが、この文の《ママ》とはなんなのか、理解できませんでした。なんなんでしょう。
p171上段〈人から言われすぎて自分がうんざりするほどハンサムだ〉は、〈自分でもうんざり〉でしょう。p205下段〈やっぱり……マーチのはらわたが身をよじらせた〉って、この表現、なんかなあ。p208上段〈モニターやレコーダーに接続されて〉は〈モニターやレコーダーに《は》接続されて〉でしょう。p239〈心臓は破裂しそうな勢いで打っている〉も独特といえば独特です。p276下段〈きみにほかに選択肢はなかった〉は〈きみに《は》ほかに〉でしょう。p268下段〈引き上げようとしてるところ〉は、地の文章だし、これまでの表現から〈引き上げようとして《い》るところ〉でしょう。p289上段〈子供たちはもう食事をさせた〉は〈子供たち《に》はもう食事〉でしょう。p299上段〈うめき声も一つもはさまなかった〉気になる表現です。
p337上段〈エーテルは患者を木っ端みじんに吹き飛ばすことはあっても、麻酔薬としてひじょうに優秀な物質であることは間違いない〉とあるが、ここは〈優秀な物質であること《も》間違いない〉だろう。〈物質であること《は》〉とするなら、〈吹き飛ばすことは《なくても》、〉としなくては、意味が通りにくい。p399下段〈ろくにシャワーを浴びない大柄で不潔なネイサンは〉は、〈ろくにシャワー《も》浴びない〉でしょう。
p460下段〈当然だ。火が消えきらないままの練炭が〉とあるが、〈火が消えきらない〉違和感を感じました。おそらく、個人的な受け取りかたかもしれませんが、〈空気が冷え切った朝〉とか、それが常態であることよりも違っていて、はじめて〈何々しきった〉と使うような気がします。普段、あまり耳にしない表現だから、違和感があるだけかもしれませんが。
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