初めから終わりまで一気に読んだ。
小手鞠るいさんは、『エンキョリレンアイ』や『欲しいのは、あなただけ』など、せつない恋愛小説の名手だが、この『炎の来歴』は、身を焦がすような恋愛小説であると同時に、戦争とそれが人々に与える深い傷を鋭く描き出した作品でもある。
主人公は少年だったため太平洋戦争に徴兵こそされなかったものの、戦争末期の空襲や米軍機の機銃掃射で殺されかけるなど、壮絶な体験をする。
ヒロインはナチスによる虐殺を避けるためアメリカに逃げたユダヤ人女性だ。
ふたりとも戦争によって大きな傷を心に負っていて、それゆえに平和運動や労働者の権利を求める運動にのめりこんでいく。
いわば、戦争が彼らに押した“刻印”によって、ふたりともそれ以外の生き方を選ぶことができなくなっているのだ。
そんなふたりが文通を通じて、恋に落ちた。
現代と違って、EメールやSNS、スカイプもなく、海外旅行など一般庶民には夢のまた夢という時代――。
会うこともかなわぬのに、いや、会えぬからこそいっそう、燃え上がる恋心……。
これは恋愛小説なのだが、恋のゆくえがどうなるのか、と思いながらページをめくるうちに、太平洋戦争や朝鮮戦争、そしてベトナム戦争までの戦後史が、たんなる歴史としてでなく、血の通った人間が生きた時代の物語として、腹の深いところまで入ってきた。
2014年の小手鞠作品『アップルソング』は戦場カメラマンである女性を主人公にしていたが、今回は男性の1人称で語られていることも新鮮だった。そして「女性なのに、よくここまで男の気持ちがわかるなあ」と感心もさせられた。
人間の愛と、崇高な理想と、わがままさ、すれちがい、孤独……さまざまな要素の詰まった、実に濃厚な物語。
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