面白かった。現代小説にありがちな、ただ登場人物がその場その場に合わせて話をしているだけという構成ではなく、芸人とはどうあるべきかという哲学が盛り込まれ、憧れの人に対する葛藤や嫉妬、失望等が、克明に描かれていた。なかなかにぎっしりと「詰まった」感のある小説であり、もっと紙幅を使ってたくさん読みたいと思わせてくれた。
それだけに、Amazonレビューにおいて低評価が目立つのは残念だ。「期待はずれ」「賞を獲るほどではない」という意見があるが、こういった方々は例年の文学賞受賞作など読まれていないのだろう。はっきり言って、受賞作など大したことはない。高尚なものでもない。こういったレビューが多いということは、それだけ読書習慣のない人々を本書が引き寄せたということだろう。他作も読めば、いかに本作が純文学とエンタメ小説の垣根なく面白いか、お分かりいただけるかと思う。
もっと書くと、著者を太宰治と比較して批判するレビューもあるが、全く的を射ていない。太宰治の真似をして書いたと著者が一度でも述べただろうか。ただ好きなだけである。好むと、それに影響され、作風が似ないといけないのだろうか。賞を獲ったからとか、偉大な文学者と比較してどうだとか、本書の評価とは何の関係もない。
(ちなみに、偉大な文学者との比較はそれ自体が名誉であることにレビュアーは気付かれているだろうか。著者は恐れ多いと謙遜するだろう。★は二つということだが、五つでも足りないくらいだ。)
私は率直に面白いと感じた。本書はその話題性から、これからも無要の反感を買い続けるのだろうが、どうぞ賢明な読者諸氏におかれては、余計な予備知識に惑わされず、本書それ自体の内容を堪能されたい。
Kindle 端末は必要ありません。無料 Kindle アプリのいずれかをダウンロードすると、スマートフォン、タブレットPCで Kindle 本をお読みいただけます。
無料アプリを入手するには、Eメールアドレスを入力してください。
