面白かった。現代小説にありがちな、ただ登場人物がその場その場に合わせて話をしているだけという構成ではなく、芸人とはどうあるべきかという哲学が盛り込まれ、憧れの人に対する葛藤や嫉妬、失望等が、克明に描かれていた。なかなかにぎっしりと「詰まった」感のある小説であり、もっと紙幅を使ってたくさん読みたいと思わせてくれた。
それだけに、Amazonレビューにおいて低評価が目立つのは残念だ。「期待はずれ」「賞を獲るほどではない」という意見があるが、こういった方々は例年の文学賞受賞作など読まれていないのだろう。はっきり言って、受賞作など大したことはない。高尚なものでもない。こういったレビューが多いということは、それだけ読書習慣のない人々を本書が引き寄せたということだろう。他作も読めば、いかに本作が純文学とエンタメ小説の垣根なく面白いか、お分かりいただけるかと思う。
もっと書くと、著者を太宰治と比較して批判するレビューもあるが、全く的を射ていない。太宰治の真似をして書いたと著者が一度でも述べただろうか。ただ好きなだけである。好むと、それに影響され、作風が似ないといけないのだろうか。賞を獲ったからとか、偉大な文学者と比較してどうだとか、本書の評価とは何の関係もない。
(ちなみに、偉大な文学者との比較はそれ自体が名誉であることにレビュアーは気付かれているだろうか。著者は恐れ多いと謙遜するだろう。★は二つということだが、五つでも足りないくらいだ。)
私は率直に面白いと感じた。本書はその話題性から、これからも無要の反感を買い続けるのだろうが、どうぞ賢明な読者諸氏におかれては、余計な予備知識に惑わされず、本書それ自体の内容を堪能されたい。
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火花 単行本 – 2015/3/11
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笑いとは何か、人間とは何かを描ききったデビュー小説
売れない芸人徳永は、師として仰ぐべき先輩神谷に出会った。そのお笑い哲学に心酔しつつ別の道を歩む徳永。二人の運命は。
売れない芸人徳永は、師として仰ぐべき先輩神谷に出会った。そのお笑い哲学に心酔しつつ別の道を歩む徳永。二人の運命は。
- 本の長さ152ページ
- 言語日本語
- 出版社文藝春秋
- 発売日2015/3/11
- 寸法13.8 x 1.8 x 19.5 cm
- ISBN-104163902309
- ISBN-13978-4163902302
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
お笑い芸人二人。奇想の天才である一方で人間味溢れる神谷、彼を師と慕う後輩徳永。笑いの真髄について議論しながら、それぞれの道を歩んでいる。神谷は徳永に「俺の伝記を書け」と命令した。彼らの人生はどう変転していくのか。人間存在の根本を見つめた真摯な筆致が感動を呼ぶ!「文學界」を史上初の大増刷に導いた話題作。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
又吉/直樹
1980年大阪府寝屋川市生まれ。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属のお笑い芸人。コンビ「ピース」として活動中(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1980年大阪府寝屋川市生まれ。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属のお笑い芸人。コンビ「ピース」として活動中(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
登録情報
- 出版社 : 文藝春秋 (2015/3/11)
- 発売日 : 2015/3/11
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 152ページ
- ISBN-10 : 4163902309
- ISBN-13 : 978-4163902302
- 寸法 : 13.8 x 1.8 x 19.5 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 145,380位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 4,998位日本文学
- カスタマーレビュー:
著者について
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1980年大阪府寝屋川市生まれ。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属のお笑い芸人。コンビ「ピース」として活動中。2015年『火花』で第153回芥川賞受賞。著書に『第2図書係補佐』『東京百景』、せきしろとの共著に『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』、田中象雨との共著に『新・四字熟語』、堀本裕樹との共著に『芸人と俳人』がある。
カスタマーレビュー
5つ星のうち3.9
星5つ中の3.9
2,115 件のグローバル評価
評価はどのように計算されますか?
全体的な星の評価と星ごとの割合の内訳を計算するために、単純な平均は使用されません。その代わり、レビューの日時がどれだけ新しいかや、レビューアーがAmazonで商品を購入したかどうかなどが考慮されます。また、レビューを分析して信頼性が検証されます。

初読日2019年3月30日とある多読家の方にお勧めを受けて読んでみました。その方は「本書は非常に推敲を重ねており天才的な才能を感じる」と評していましたので少し期待していました。ちなみにその方曰く、又吉氏は本書で才能を出し切ったようで、次作以降は期待外れだったそうです。さて、本書ですが、個人的には全体的に漂う暗澹としたネガティブな雰囲気、内向的で暗い主人公、読みづらい関西弁、特に目新しさのないストーリーと全く波長が合いませんでした。本書が完全なフィクションなのか、ある程度ベースとなる話があるのかは分かりませんが、これならノンフィクションで現代お笑い界の事情を赤裸々に書いた方が良かったのではないかと感じました。ちなみに私はテレビを見る習慣はないため、作者の芸風もネタも全く知らず、辛うじて顔は何かで見たことあるレベルですので、特に色眼鏡をかけて本書を読んだわけではないです。ただもともと暗い話が好きでなかったこと本書を読んで何か今日明日活かせそうな考え方や情報を得られなかったことなどから辛口レビューになりました。私自身は文学に明るいわけではないので、ただ単に本書の価値が分からなかっただけかもしれません。なんせ映画でも何かの賞を受賞しているものは小難しく楽しめないというタイプですので、それは小説でも同じなのかもしれません。あっ、小説でもライトノベルや異世界ファンタジー物は賞を受賞しているもの、人気があるものはそのまま面白いと思うことが多いので、感性の問題というよりは、単に好みのジャンルでなかっただけということなのかもしれません(笑)(以下ネタバレメモ一部)漫才師とはこうあるべきだと語るものは永遠に漫才師にはなれない。長い時間をかけて漫才師に近づいていく作業しているだけであって本物の漫才師にはなれない。本当の漫才師と言うのは野菜を売っていても漫才師。うっとうしい年寄りの批評家が多い分野はほとんどが衰退する自分自身の模倣自分とはこうあるべきだと思ってその規範に基づいて生きてる奴は結局は自分のものまねをやってるだけ
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2018年11月6日に日本でレビュー済み
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264人のお客様がこれが役に立ったと考えています
役に立った
2019年1月20日に日本でレビュー済み
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受賞作品ということで読書会で取り上げたが、高年者とはいえ誰一人として評価しなかった。又吉氏はそれなりの文章家かなと思ったが、残念ながら表現が練られていないせいか、狙いすら浮き彫りにならず、引き込まれる部分もなかった。お笑い芸人が若手の実態に迫ったということでワイドショーなども取り上げ話題になったようだが、100歩譲っても候補作どまりに留めてほしかった。ほんとに頑張ってる若き作家を押しのけるほどの作品とは言えない。
2020年1月27日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
この本の面白さは感情移入できるかどうかで決まると思います。
内向的で自己表現が苦手、周りの目を気にするばかりな主人公が、あまりにも純粋で、忖度せず我が道を行く、破天荒な先輩と出会い成長していく。その中で主人公が先輩に感じる尊さと、尊い故に壊れやすい関係の脆さが繊細に描かれています。
先輩の面白さが伝わらないとかそんな表面的なレビューが目立つようですが、結局芸人という題材を使っているだけで、主題は自己とは正反対の人間性への憧憬と嫉妬なので、そこを汲み取れるかが読み手にとっての焦点だと思います。
技術的には途中で文体が変わったりと気になる点があったので★4としましたが、筆者の強い感受性をぶつけて描いた繊細な心理描写は素晴らしく、楽しんで読むことができました。
内向的で自己表現が苦手、周りの目を気にするばかりな主人公が、あまりにも純粋で、忖度せず我が道を行く、破天荒な先輩と出会い成長していく。その中で主人公が先輩に感じる尊さと、尊い故に壊れやすい関係の脆さが繊細に描かれています。
先輩の面白さが伝わらないとかそんな表面的なレビューが目立つようですが、結局芸人という題材を使っているだけで、主題は自己とは正反対の人間性への憧憬と嫉妬なので、そこを汲み取れるかが読み手にとっての焦点だと思います。
技術的には途中で文体が変わったりと気になる点があったので★4としましたが、筆者の強い感受性をぶつけて描いた繊細な心理描写は素晴らしく、楽しんで読むことができました。
2018年9月24日に日本でレビュー済み
文章は、読書家とあって、上手いのかもしれない。
何故、ダメな先輩にあれ程心酔するのかしょっぱなから動機がわからない。
これ程、どの登場人物にも共感出来ない作品があるのか?
ちなみに先輩の天才性が理解出来ないとこで、もうついていけなかった。
最後のオチを編集者が止めなかったのか不思議。
有名人でなければ駄作で見向きもされなかったろう。
又吉の知名度と出版のタイミングが良かっただけ。
又吉の、キリン田村みたいに全財産使い果たしてしまうような
芸人根性もなく、しっかり貯蓄して、
仕事を選んで、NHKで新しいキャラクターを確立してるように思う。
又吉の謙虚で無欲な感じに好感持を持ってるる人もいるだろう。
でももし彼が世間でサラリーマンなんかしてたら、、テンションの低い変人扱いだろう。
彼がしろうとだったらこの作品は駄作で見向きもされなかったろう。
一度たりとも登場人物に共感できなかった。
最後のオチは酷すぎる。編集者が止めるべきだ。
読者に対し馬鹿ににされた気分だった。
文章にこなれているだけでは文学とは言えない。
何故、ダメな先輩にあれ程心酔するのかしょっぱなから動機がわからない。
これ程、どの登場人物にも共感出来ない作品があるのか?
ちなみに先輩の天才性が理解出来ないとこで、もうついていけなかった。
最後のオチを編集者が止めなかったのか不思議。
有名人でなければ駄作で見向きもされなかったろう。
又吉の知名度と出版のタイミングが良かっただけ。
又吉の、キリン田村みたいに全財産使い果たしてしまうような
芸人根性もなく、しっかり貯蓄して、
仕事を選んで、NHKで新しいキャラクターを確立してるように思う。
又吉の謙虚で無欲な感じに好感持を持ってるる人もいるだろう。
でももし彼が世間でサラリーマンなんかしてたら、、テンションの低い変人扱いだろう。
彼がしろうとだったらこの作品は駄作で見向きもされなかったろう。
一度たりとも登場人物に共感できなかった。
最後のオチは酷すぎる。編集者が止めるべきだ。
読者に対し馬鹿ににされた気分だった。
文章にこなれているだけでは文学とは言えない。
ベスト500レビュアー
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ぼくにとって小説の価値とは、
いや、映画もマンガもですが、
……いやいや、なんなら、
音楽や笑い、ドラマ、
トークとかですらそうですが、
評価するかしないかは、
オモシロイか否かだけです。
それが文学的に、論理的に、
音楽的に、歴史的に、
正しいとか、知識があるとかないとか、
そーゆーのは、どーでもいいです。
上手下手は多少あるかもですが、
本当にごくごく僅かです。
又吉さんは少し条件がトクシュで、
芸人として、そして読書家として、
名前と顔が先に売れてしまっていた。
それを『下駄をはかせた』ように感じ、
厳しい目で見る人も多そうですね。
いや、
下手だと言ってるわけじゃないですよ?
逆です。
悪く言う人たちは、
どこを見て言っているのかなと、
首をかしげるほどにプロだと感じました。
賛否両論の作品って、好きなんです。
ぼくに合わなくても、
皆がいいと言う作品もありますし、
逆も、もちろんあります。
だからこの作品も、
自分はどう感じるのかなと、
とても楽しみに読みました。
結果は、大満足でした。
もしかしたら、
一度でも人生かけて、
何かの表現者であった人の方が、
楽しめるのかもしれません。
ぼくはバンドをずっとやっていたので、
笑いの世界の人とも、
よく同じ舞台に立ちました。
知らない人をいきなり笑わせるのは、
本当に大変そうでした。
バンドのライブMCだと、
音楽で自己紹介をしてからのことなので、
けっこう笑っていただくこともあります。
でも彼らには、
その小さな低い下駄すらもないんです。
いつでもアウェーなのは、
インディーズバンドも似ていますが、
笑いの人たちのほうが、
無名というハンデは大きいと思います。
舞台でぼくが笑いをとっていると、
うなだれて、
悔しげに笑んだピン芸人さんが、
『面白かったです、勉強になりました』
と、声をかけてくれたことがありました。
なかなか言えないセリフだと思いました。
彼の不安そうな顔は現実となり、
ぼくが楽屋からフロアに出ると、
冷めきった客を前にガチガチになり、
彼のネタはスベり倒していました。
ぼくは試しに、フロアの一番後ろから、
彼の『笑い屋』をやってみました。
するとどうでしょう。
ずっとシーンとしていた客から、
私語、タバコ、酒に浮気していた客から、
そしてその芸人さん本人からも、
固さが消え、笑いがポツポツと起き、
会場が少しあたたまりだしたのです。
ぼくは大袈裟なくらい、
手を叩いて笑い、彼を応援しました。
よそ見していた客が舞台に集中し、
笑い声も少しずつ大きくなっていきます。
爆笑は難しかったですが、でも、
それまでライブハウスで見た舞台では、
一番うけている芸人として、
ぼくの記憶に彼はのこりました。
自信なさげに、とぼとぼと、
楽屋から舞台へとあがっていった彼が、
自信に満ちた顔で舞台をおりていました。
ライブハウスでは、
逆に手抜きのような芸をしちゃう人も、
何人も見ました。
どーせ誰も聞いてねぇよと、
手抜きの芸を見せるコンビの顔には、
イイワケが書いてありました。
それは友人のライブで、
ぼくはそこでは純粋に客だったので、
そこではサクラにはなりませんでしたが、
私語だらけの客は地獄だろうなと、
聴こえない漫才を眺めていました。
そんな無名の若手たちの苦しみを目の当たりにしてきたので、
ぼくには主人公と師匠の神谷さんの、
楽しさも苦しさも、
彼らの一割にも満たないでしょうが、
少しは理解できました。
この小説は、
笑いをテーマにしていますし、
実際に笑ってしまう場面もありますが、
笑いを描いた作品ではなく、
青春小説です。
登場人物たちの年齢は高いですが、
挫折しか知らない人の青春って、
すごく長いんです。
努力しているので、前進はします。
だからこそ、なかなかやめられない。
ボクサーとかも同じですかね。
やめどきが自分でわからない。
その意味では、
この小説の主人公は冷静で、
自分を客観できていたのかもしれません。
自分への欺瞞を続けてでも、
夢がないと生きられない連中には、
共感できる青春物語だと思います。
ていうか、吉祥寺ってのが染みました、
ぼくもあの辺で、
似たような青春を味わったので、
よけいに刺さりました。
ううむ……てことは、
せまいのかな、やっぱり。
でも、刺さる人は確実にいると思います。
いや、映画もマンガもですが、
……いやいや、なんなら、
音楽や笑い、ドラマ、
トークとかですらそうですが、
評価するかしないかは、
オモシロイか否かだけです。
それが文学的に、論理的に、
音楽的に、歴史的に、
正しいとか、知識があるとかないとか、
そーゆーのは、どーでもいいです。
上手下手は多少あるかもですが、
本当にごくごく僅かです。
又吉さんは少し条件がトクシュで、
芸人として、そして読書家として、
名前と顔が先に売れてしまっていた。
それを『下駄をはかせた』ように感じ、
厳しい目で見る人も多そうですね。
いや、
下手だと言ってるわけじゃないですよ?
逆です。
悪く言う人たちは、
どこを見て言っているのかなと、
首をかしげるほどにプロだと感じました。
賛否両論の作品って、好きなんです。
ぼくに合わなくても、
皆がいいと言う作品もありますし、
逆も、もちろんあります。
だからこの作品も、
自分はどう感じるのかなと、
とても楽しみに読みました。
結果は、大満足でした。
もしかしたら、
一度でも人生かけて、
何かの表現者であった人の方が、
楽しめるのかもしれません。
ぼくはバンドをずっとやっていたので、
笑いの世界の人とも、
よく同じ舞台に立ちました。
知らない人をいきなり笑わせるのは、
本当に大変そうでした。
バンドのライブMCだと、
音楽で自己紹介をしてからのことなので、
けっこう笑っていただくこともあります。
でも彼らには、
その小さな低い下駄すらもないんです。
いつでもアウェーなのは、
インディーズバンドも似ていますが、
笑いの人たちのほうが、
無名というハンデは大きいと思います。
舞台でぼくが笑いをとっていると、
うなだれて、
悔しげに笑んだピン芸人さんが、
『面白かったです、勉強になりました』
と、声をかけてくれたことがありました。
なかなか言えないセリフだと思いました。
彼の不安そうな顔は現実となり、
ぼくが楽屋からフロアに出ると、
冷めきった客を前にガチガチになり、
彼のネタはスベり倒していました。
ぼくは試しに、フロアの一番後ろから、
彼の『笑い屋』をやってみました。
するとどうでしょう。
ずっとシーンとしていた客から、
私語、タバコ、酒に浮気していた客から、
そしてその芸人さん本人からも、
固さが消え、笑いがポツポツと起き、
会場が少しあたたまりだしたのです。
ぼくは大袈裟なくらい、
手を叩いて笑い、彼を応援しました。
よそ見していた客が舞台に集中し、
笑い声も少しずつ大きくなっていきます。
爆笑は難しかったですが、でも、
それまでライブハウスで見た舞台では、
一番うけている芸人として、
ぼくの記憶に彼はのこりました。
自信なさげに、とぼとぼと、
楽屋から舞台へとあがっていった彼が、
自信に満ちた顔で舞台をおりていました。
ライブハウスでは、
逆に手抜きのような芸をしちゃう人も、
何人も見ました。
どーせ誰も聞いてねぇよと、
手抜きの芸を見せるコンビの顔には、
イイワケが書いてありました。
それは友人のライブで、
ぼくはそこでは純粋に客だったので、
そこではサクラにはなりませんでしたが、
私語だらけの客は地獄だろうなと、
聴こえない漫才を眺めていました。
そんな無名の若手たちの苦しみを目の当たりにしてきたので、
ぼくには主人公と師匠の神谷さんの、
楽しさも苦しさも、
彼らの一割にも満たないでしょうが、
少しは理解できました。
この小説は、
笑いをテーマにしていますし、
実際に笑ってしまう場面もありますが、
笑いを描いた作品ではなく、
青春小説です。
登場人物たちの年齢は高いですが、
挫折しか知らない人の青春って、
すごく長いんです。
努力しているので、前進はします。
だからこそ、なかなかやめられない。
ボクサーとかも同じですかね。
やめどきが自分でわからない。
その意味では、
この小説の主人公は冷静で、
自分を客観できていたのかもしれません。
自分への欺瞞を続けてでも、
夢がないと生きられない連中には、
共感できる青春物語だと思います。
ていうか、吉祥寺ってのが染みました、
ぼくもあの辺で、
似たような青春を味わったので、
よけいに刺さりました。
ううむ……てことは、
せまいのかな、やっぱり。
でも、刺さる人は確実にいると思います。