僕は政治経済学部の学生だ。卒業論文は「経済予想の難しさ」をテーマに書くことにしている。そのために著名な識者による経済予想本をたくさん読 み、それが当たったのか外れたのかを検証している。
僕は経済予想本のレビューを結果も出ていないうちから書くのは愚かな行為だと思っている。発刊から1年、2年経って結果が出てからレビューを書くのが適当であると考えるからだ。
11冊目は長谷川慶太郎・中原圭介の「アベノミクス後を読む「激論」日本経済、崖っぷちの決断」(2013年3月31日出版)だ。2人の激論の重要なポイントは次のとおりだ。
●自動車産業で激論
・中原「今後もハイブリッド車は売れ続けるが、次世代の自動車は燃料電池車になる」VS「ハイブリッド車の次は電気自動車が主流になる」
・中原「日本の自動車メーカーの優位は今後も動かない」VS長谷川「トヨタ、日産、ホンダでさえ、経営危機になってもおかしくない」
・中原「トヨタはこれから10年はハイブリッド車で収益をあげることができる」VS長谷川「トヨタのハイブリッド車は明らかに戦略的な失敗だ。ハイブリッド車は売れてもあと2年だ」
・中原「雇用を重視するトヨタには頑張ってほしい」VS長谷川「首を切らないトヨタの雇用形態は古い」
●アベノミクスで激論
・中原「金融緩和をするとインフレにはなるが、国民の実質的な収入は上がらない。むしろ生活は苦しくなる」VS長谷川「金融緩和でインフレにはなるはずがない」
●アメリカ経済
・中原「シェールガス革命によってアメリカは想定よりも早く景気回復する」=長谷川「」アメリカが世界経済のなかでは最も早く景気が上向く」
・中原「シェールガス革命は産業革命に匹敵する。IT革命は産業革命にまったく及ばない」=長谷川「そのとおり。IT革命は大したことはない」
・中原「シェールガスはアメリカの貿易赤字を策へン氏、ドル高を推し進める」=長谷川「アメリカのシェールガス革命は円安を促進するだろう」
●ユーロ諸国、新興国
・中原「ユーロ圏はしばらく苦しいが、ユーロは崩壊しない」=長谷川「そのとおり」
・中原「新興国は全体的に苦しい」=長谷川「そのとおり」
前半部分は中原氏が言ったことに対し、長谷川氏の反論が続く。とくに自動車とアベノミクスにおいては2人の予想は水と油だった。トヨタの最高益や 自動車産業に隆盛が衰えそうにないのを見ると、現時点では中原氏に軍配が上がる。長谷川氏の電気自動車が主流になるとは妄言にも聞こえる。アベノ ミクスでも金融緩和でインフレになったのは中原氏の予想通り。インフレになるはずがないとは長谷川氏の大外れだ。
しかし後半部分では2人の意見はおおよそ同意見が多かった。アメリカ、ユーロ、新興国では、細かい点は除いて概ね意見が一致していた。予想も現在の段階ではピタリと当たっている。
長谷川氏が星3つ、中原氏が星5つで、平均して星4つにしよう。
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