■『現代語訳 論語と算盤 (ちくま新書)』の訳者による、渋沢栄一の思想を平易に読み解く本です。『論語と算盤』を中心とした渋沢の思想のポイントが簡潔に掴めるので、『論語と算盤』を読むにあたっての参考書としてオススメです。『論語と算盤』には書かれていない経歴や、同書を深読みしないと読み取れないポイント、さらには他の渋沢関連の書籍から状況を補足してくれています。
■個人的には『論語と算盤』を基軸に、渋沢の思想、合本主義の基本、『論語』をどう使ったか、といった点が概観的、しかし十分に、理解できる上に、非常に読みやすい文章(まるで講演のようです)であることから高く評価します。また原書は、『論語』をはじめとした儒学書の理解がないと読解困難な部分がありましたが、本書を読むと『論語』を用いて何が言いたかったかというポイントがつかめることも良い点です。
■第1章~第2章で渋沢の人生を振り返ります。第3章で渋沢の行動原理を4点にまとめます。第4章でそもそもなぜ「論語と算盤」というモットーを後年になってからいいはじめたのか、そしてどのような経済政策を打ったのかが述べられます。第5章で渋沢が提唱した「合本主義」といわゆる「資本主義」の違いが述べられ、第6章ではなぜ算盤の対極として『論語』を選んだのか、最後の第7章ではいかに論語を時代にあわせて都合よく読んだかが語られます。
■この著者の特徴として、いろんな書籍からそのまま引用を持ってきて転記し、論を進めていくところにあります。本書でも『論語と算盤』はもちろん、渋沢の『論語講義』『雨夜譚』、その他渋沢研究書や『論語』『礼記』などから引用が多くされています。個人的にこのような引用は、著者の主張の根拠が明確になるので好ましいです(この手の本では、根拠不明瞭で書き手の思い入ればかりのものも多いので)。その反面、著者は、情報を整理して提示するキュレーター的な役割になっているので、著者独自の深い考察までは期待できません。上級者には物足りないかもしれませんが、ただし冒頭で述べた通り、一般人が渋沢の経歴と思想を概観的に理解するにはとても良いと思い、高めに評価にしています。
■さて感想など。私は『論語と算盤』をすいぶん前から読んでいましたが、今回あらためて認識した点は、「強く繁栄した日本を作る」という志のもと、実業と社会事業を同時並行で育成し、社会全体が機能するようにしていた、という点です…実業ばかりが着目されますが、それよりさらに高い視点で活動していました。しかも実業で成功した後から、ではなく、同時並行に社会事業も手掛けていたことは明確に認識できていませんでした。
■また、この本と同時に、2021年1月話題の書籍であった『NHK 100分 de 名著 カール・マルクス『資本論』 2021年1月』と合わせて考えると、また面白いです。渋沢が提唱した「合本主義」とは「公益を追求するという使命や目的を達成するのに最も適した人材と資本を集め、事業を推進させるという考え方」(p.156)。この「合本主義」が現在の資本主義の行き詰まりを打開する、あるいは新しい社会に向けての、何かヒントにならないだろうか、と考えさせてくれます(典型的な資本家である岩崎弥太郎とは対照的です)。
■目次(章のみ)
はじめに
第1章 激動の前半生 渋沢栄一の生涯①
第2章 社会と経済をともに育む 渋沢栄一の生涯②
第3章 渋沢栄一の行動原理
第4章 なぜ「論語と算盤」は唱えられたのか
第5章 合本主義とは何か
第6章 なぜ『論語』なのか
第7章 対極をバランスする思想
おわりに
引用原典
この商品をお持ちですか?
マーケットプレイスに出品する

無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません 。詳細はこちら
Kindle Cloud Readerを使い、ブラウザですぐに読むことができます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
渋沢栄一 「論語と算盤」の思想入門 (NHK出版新書) 新書 – 2020/12/10
購入を強化する
2021年大河ドラマの主人公・渋沢栄一の生涯と思想が分かる!
挫折と変転を繰り返し、一見矛盾に満ちた渋沢の生涯。その奥にある一貫した行動原理とは何か。「論語」の独自解釈から生み出された思想を、大ベストセラー『現代語訳 論語と算盤』の守屋淳が、わかりやすく解説する。「論語」と「算盤」という対極の意味から、答えのない時代に生きるヒントが見えてくる。
挫折と変転を繰り返し、一見矛盾に満ちた渋沢の生涯。その奥にある一貫した行動原理とは何か。「論語」の独自解釈から生み出された思想を、大ベストセラー『現代語訳 論語と算盤』の守屋淳が、わかりやすく解説する。「論語」と「算盤」という対極の意味から、答えのない時代に生きるヒントが見えてくる。
- 本の長さ245ページ
- 言語日本語
- 出版社NHK出版
- 発売日2020/12/10
- ISBN-104140886412
- ISBN-13978-4140886410
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ: 1 / 1 最初に戻るページ: 1 / 1
商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
日本の資本主義を創った人物・渋沢栄一。その生き方は、答えのない時代にこそ注目され続けてきた。彼の行動原理とは何か。その生涯と思想をわかりやすく読み解きながら、偉業の背景にある核心に迫る。「論語」の独自解釈による、道徳と経済を一致させた「論語と算盤」思想の意味が明らかに。中国古典の研究者であると同時に、渋沢栄一に精通し、『論語と算盤』の現代語訳を手がける著者による、渋沢栄一入門の決定版!
著者について
作家。
1965年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒。著書に『渋沢栄一の「論語講義」』、編訳に『現代語訳 論語と算盤』、ほか多数。
1965年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒。著書に『渋沢栄一の「論語講義」』、編訳に『現代語訳 論語と算盤』、ほか多数。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
守屋/淳
作家。1965年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。中国古典の研究者として多くの著作を発表するとともに、渋沢栄一や明治の実業家にかんする著書・翻訳を数多く手がける(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
作家。1965年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。中国古典の研究者として多くの著作を発表するとともに、渋沢栄一や明治の実業家にかんする著書・翻訳を数多く手がける(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1分以内にKindleで 渋沢栄一 「論語と算盤」の思想入門 (NHK出版新書) をお読みいただけます。
Kindle をお持ちでない場合、こちらから購入いただけます。 Kindle 無料アプリのダウンロードはこちら。
Kindle をお持ちでない場合、こちらから購入いただけます。 Kindle 無料アプリのダウンロードはこちら。
登録情報
- 出版社 : NHK出版 (2020/12/10)
- 発売日 : 2020/12/10
- 言語 : 日本語
- 新書 : 245ページ
- ISBN-10 : 4140886412
- ISBN-13 : 978-4140886410
- Amazon 売れ筋ランキング: - 372,865位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 229位NHK出版新書
- - 12,853位経営学・キャリア・MBA
- - 38,739位ノンフィクション (本)
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。

1965年生まれ 作家/グロービス経営大学院特任教授
早稲田大学第一文学部卒業 現在は作家として『孫子』『論語』『韓非子』『老子』『荘子』などの中国古典や、渋沢栄一などの近代の実業家についての著作を刊行するかたわら、グロービス経営大学院アルムナイスクールにおいて教鞭をとる。
編訳書に60万部の『現代語訳 論語と算盤』や『現代語訳 渋沢栄一自伝』、著書にシリーズで20万部の『最高の戦略教科書 孫子』『マンガ 最高の戦略教科書 孫子』『組織サバイバルの教科書 韓非子』、などがある。
2018年4~9月トロント大学倫理研究センター客員研究員。
カスタマーレビュー
5つ星のうち4.2
星5つ中の4.2
41 件のグローバル評価
評価はどのように計算されますか?
全体的な星の評価と星ごとの割合の内訳を計算するために、単純な平均は使用されません。その代わり、レビューの日時がどれだけ新しいかや、レビューアーがAmazonで商品を購入したかどうかなどが考慮されます。また、レビューを分析して信頼性が検証されます。
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
ベスト500レビュアー
Amazonで購入
6人のお客様がこれが役に立ったと考えています
役に立った
ベスト500レビュアー
新札、大河と一気に注目の的となっている渋沢栄一。日本資本主義の父と言われる
彼ではあるが、新札、大河の流れがなければ、数多いる近代史上の人物の一人程度
に扱われる存在のように思われる。たちまち脚光を浴びて、大河の副読本やガイド
よろしく、数多くの類書が出版されて、本屋を賑わせている。本書は、中国古典研
究の第一人者であり、『現代語訳 論語と算盤 (ちくま新書)』の訳者でもある守屋淳
氏によるもの。非常に平易な文章で読みやすく、事実と守屋氏の考察についてもし
っかりと区別して述べてくれている点にも好感が持てる。前半で渋沢の来し方を、
後半では考え方の発露と成熟の過程を、限られた紙数ながら丁寧に扱っており、こ
うした構成の妙もあって、渋沢を100%理解するのは難しいまでもおおむね外郭
を把握するには十分の内容だと考える。
彼ではあるが、新札、大河の流れがなければ、数多いる近代史上の人物の一人程度
に扱われる存在のように思われる。たちまち脚光を浴びて、大河の副読本やガイド
よろしく、数多くの類書が出版されて、本屋を賑わせている。本書は、中国古典研
究の第一人者であり、『現代語訳 論語と算盤 (ちくま新書)』の訳者でもある守屋淳
氏によるもの。非常に平易な文章で読みやすく、事実と守屋氏の考察についてもし
っかりと区別して述べてくれている点にも好感が持てる。前半で渋沢の来し方を、
後半では考え方の発露と成熟の過程を、限られた紙数ながら丁寧に扱っており、こ
うした構成の妙もあって、渋沢を100%理解するのは難しいまでもおおむね外郭
を把握するには十分の内容だと考える。
2021年3月19日に日本でレビュー済み
渋沢栄一の生涯と思想をわかりやすくまとめた良書です。前半はその生涯を、後半は「論語と算盤」の思想を紹介しています。
数々の実業や社会事業に関与し、国の基盤を作り上げた栄一。明治新政府の大蔵省で提案した政策の凄さに改めて驚きました。また、養育院を設立しその存続を守っていく行動も印象的で、論語の仁が伝わる象徴的な逸話でした。
対外交渉で日本の商業道徳の必要性を痛感した栄一は商業の世界に論語を持ち込みます。論語と算盤はなぜ唱えられたのか、その辺りの経緯がよくわかりました。栄一が説く公益優先の合本主義は資本主義の弊害が露呈している現代こそ見直されるべきだと思います。
強く繁栄した日本を作るという志を抱き、生涯を貫いた栄一。その行動と思想から私たちは多くの示唆を得られることを本書が教えてくれます。
数々の実業や社会事業に関与し、国の基盤を作り上げた栄一。明治新政府の大蔵省で提案した政策の凄さに改めて驚きました。また、養育院を設立しその存続を守っていく行動も印象的で、論語の仁が伝わる象徴的な逸話でした。
対外交渉で日本の商業道徳の必要性を痛感した栄一は商業の世界に論語を持ち込みます。論語と算盤はなぜ唱えられたのか、その辺りの経緯がよくわかりました。栄一が説く公益優先の合本主義は資本主義の弊害が露呈している現代こそ見直されるべきだと思います。
強く繁栄した日本を作るという志を抱き、生涯を貫いた栄一。その行動と思想から私たちは多くの示唆を得られることを本書が教えてくれます。