社会学者の岸政彦が帯に書いているように、これは生活史の本だ。
著者が本書のなかで訪ね歩いたあらゆる場所では、私たちの知らない誰かの人生が当たり前に営まれていて、著者は彼ら彼女らの人生の、生活の断片を丁寧に拾い上げる。
銭湯で頭や体を洗う時に自分の姿を映し出す鏡。その鏡の横に添えられたレトロな(もしくはレトロ風な)広告。あの広告が、いったい誰がどのように作っているのか、そんなことを考えたことがあるだろうか。私はなかった。誰がどのように広告を作っているのかを辿っていったら、幾人かの生き字引きのようなおっちゃんやおばちゃんの人生と生活が浮かび上がってくるなんてこと、想像したことがあるだろうか。私はなかった。
「デイリーポータルZ」編集長の林雄司が帯に書いているように、これは「検索してもわからない世の中のいろいろ」についての本だ。
会社の同僚や取引先と、あるいは同級生や気の置けない友人たちとの飲み会を想像してみてほしい。会計を「一人いくら」と割り勘したり、あるいは誰か太っ腹な人や年長者やいちばん稼ぎのいい人が奢ったりすることが多いと思う。でもちょっと立ち止まって、「唐揚げ何個食べた?」レベルまで飲み代を厳密に割り勘するとどうなるのか、考えてみたことがあるだろうか。私はなかった。なかったし、そもそも飲み会での会話を文字起こししてみるとあんなにグルーヴ感が生まれることすら知らなかった。
溢れんばかりのユーモアと好奇心を武器に、馬鹿馬鹿しく意味のない様々なことに対して、真面目に本気で誠意をもって取り組んだ一部始終を綴った本作は、意味があるように見えることのほとんどは無意味で、無意味に思えることのほとんどに実は人の生活があり、人生が横たわっている――そんなことを教えてくれる。
他人より秀でたものなんか一つもない自分の人生を、それでも楽しみながら歩んでいこうという勇気が湧く一冊だ。
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