日章丸事件の顛末を中心にしてストーリー展開していく下巻。
上巻もそうだったのですが、鐵三たちの経済活動というのは、とにかく終始既得権益者たちとの闘いであったというのが、とてもよく分かる内容となっています。
近江商人の「三方よし」(「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」)の考え方にも表れているように、商人たるもの自らの暴利をむさぼるだけでは永続的な経済活動は望むべくもなく、常に社会性を意識した全体最適に心配りする必要があるのは当然のことだと思います。
そのためにも、「機会均等」や「自由競争」というのは絶対条件であるはずなのですが、それを阻もうとして憚らないのが既得権益者たちであるという訳です。
勿論、何ら歯止めもなく自由競争を過剰に煽り過ぎるのも問題ではありますが、巨大権力による一方的な規制強化というのはある意味それ以上に多くの問題を孕むものであるというのが個人的な考えです。
そういった流れを究極的に突き詰めていったものの最終形態こそが共産主義社会となる訳で、この社会がもたらす不合理や停滞というのは、既に歴史によって証明されています。
社会が全体として受益者となるためには、理屈に合わない既得権益というのは徹底して打破していく勇気は絶対に必要だと思います。
そして鐵三たちは、自らの高邁な理念の下、それを実践していきました。
日章丸事件の核心とは、まさしくそういったことだったんだろうなと、本書を読み進めながら感じさせられました。
当然、反論はあるでしょう。
その支配形態が過度に抑圧的であり、イランの民衆を塗炭の苦しみに淵へと追いやっていたとは言いつつも、法的には紛れもなくイギリスのものであった石油プラントを暴力的に奪取したモサデク政権のやり方というのは、非難されるべき由も十二分に存在するとは思います。
そして、そうした「いわくつき」の売り手から、法律ギリギリの際どい手法を用いてモノを「掠め取ろう」とした鐵三たちのやり方というのは、事の経緯を冷静に見た場合、決して諸手を挙げて支持出来るというものでもありません。
だからこそ、本件は「事件」となった訳です。
しかしながら、商売人には時代の流れを読むということも極めて重要なのであって、鐵三にははっきりとそれが出来ていたと言えると思います。
「時代の流れ」とは、世界中に怒涛のように拡散していく「植民地解放」あるいは「民族自決」という理念です。
かつての帝国主義支配が急速に衰えていこうとしている、その気運を鐵三たちはいち早く察知し得たからこそ、この無謀とも呼べそうな賭けに打って出ることが出来たのだと思うのです。
そして時代は鐵三たちに味方し、彼らは完全に勝利者となりました。
思えば、こうした帝国主義、あるいは白人欧米主義を最初に打破したのも我々日本人の祖父母たちでした。
大東亜主義と言えば、左巻き界隈の人々からは悪鬼の如き対象と見做される訳ですが、実際問題として、欧米による植民地支配がこの理念により東南アジアから駆逐されたといった側面は十二分に存在します。
数々の証言論拠によりこれは明らかな事実です。
そしてこのことこそが、世界中に数多存在していた他の列強の支配地をも揺るがし、世界を今の姿へと変えていったのです。
という風に考えていくと、国岡商店(実際には出光興産)のこの時の闘いというのは、大東亜戦争の延長戦であったと言えるのかもしれません。
否、もっと大きく捉えて言えば、戦後の我が国の経済発展すらもそうであったと言って良いのかも知れないのです。
・・・白人中心の欧米帝国主義世界に大いなる楔を打ち込む。
先の大戦での敗北により一旦は潰えたかに見えたその夢は、戦後において勃興あるいは再興した国岡商店(出光興産)やそれに連なる多くの経済人たち、そして総ての国民たちの不断の努力により、結果として叶えられることになった・・・。
そんな風に感じつつこの物語を読み進めていくと、何やら途轍もなく痛快な気分になり、自分が日本人としてこの世に生を受けたことが、本当に誇らしく思えてきたりもするのです。
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