「イベントを中心としたマルチメディア展開」。ビジネス雑誌などでおなじみのこのフレーズのルーツは、江戸時代の見世物にあることを本書は解き明かしている。
前半は浅草で開催された7メートル近くあった籠細工の関羽の見世物について考察。この見世物は当時のニュースとなり、50万人近くの人々が見物に訪れたという。さらにその関羽の意匠が歌舞伎や浮世絵などに反映され、社会的に共通認識化していく。そしてこの見世物はその後各地を巡回し、まさに「旅するメディア」となる過程をつぶさに見せてくれる。さらに著者は、この「旅するメディア」というキーワードから、長崎に渡来したゾウ、ラクダ、ヒョウなどの動物の見世物、幕末維新に渡米までしている軽業なども紹介している。前者の動物の見世物はご利益のある見世物として、これまた浮世絵をはじめ引き札や薬などのさまざまなグッズを生み出すようになる。
江戸末期から明治まで流行した「生き人形」の見世物。女性の肌をいかに本物のように見せるかの工夫について書くと同時に、お色気路線に走りながらも、見世物小屋の場所が浅草観音境内という場所柄ゆえの「信心と遊楽」の境について考察している。江戸時代の娯楽の一端を垣間見せながらも、今日のメディアとイベントの関係についても考えさせられる書である。(鏑木隆一郎)
江戸時代の見世物は誰にとっても親しみやすい代表的な大衆娯楽であった。ひとめ見ただけで御利益があるといわれるラクダ、ゾウなどの動物見世物をはじめ、細工見世物、軽業、生人形など近世後期の見世物の実像を浮世絵や引札を駆使して描きだす。歌舞伎、祭り、テレビの娯楽番組等にも生きつづける見世物の原点に迫る。図版多数。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
川添/裕
本名、古谷祐司。1956年横浜市に生まれる。1978年東京外国語大学卒業。現在、見世物文化研究所代表。文筆業・出版プロデュース業。跡見学園女子大学国文科兼任講師。日本エディタースクール講師。専攻は芸能史、日本文化史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)