本書は、誠実なお人柄という皇太子さまの印象そのままの、堅実で親しみやすい本だ。
歴史学に軸足を置きつつ、過去から未来へ、「水」と人とのかかわりを考える。
本書は、二つの大きな魅力があるように思う。
一つは、学問の面白さを伝える入門講義として。
一つは、皇太子さまの「自分史」として。
前者について、「入門」とはいえ、それは中身の薄さを意味しない。
例えば、第7章は、古代・中世の大地震を題材に、被害や教訓について述べており、
文献史料や発掘調査結果を基にして慎重に筆を進める様子からは、
しっかりと歴史学の方法論を踏まえていることが読み取れ、信頼感を覚える。
第3章は、室町時代の瀬戸内水運について論じている。
その根拠とした「兵庫北関入船納帳」について詳しく紹介しているため、
古文書を基に歴史を復元していく過程に触れることができる。
第4章は、オックスフォード留学中のテムズ川水運研究について、
史料調査や現地踏査の経験を、順を追って詳述したエッセーのようになっている。
電子化されているはずの資料が検索できず「狐につままれた面もち」となったことなど、
ユーモアも交えつつ、苦労や喜びの「肉声」が逐一記されている。
続く第5章では、その調査と分析によって明らかになった、
17~18世紀テムズ川水運の実態の一端が披露されている。
第4・5章を併せ読めば、歴史研究の流れと醍醐味を追体験できる。
いずれの章も、現代的な問題意識や、分野や国境を越えた横断的な視点が貫かれており、
学術研究の面白さと、皇太子さま自身がそれを楽しまれている様子が伝わってくる。
各章にはメッセージ性のあるまとめがあるが、いずれもそれまでの記述から導かれる堅実なもので、
牽強付会なところや論理の飛躍がなく、また説教臭さもない。
文章は平易で、語り口調で読みやすく、写真や図版も豊富。中学・高校生でも楽しめそう。
「皇太子さまが著者」であるという点に関係なく、よくできた入門講義と思う。
もう一つの大きな魅力は、皇太子さまが、ご自身について語られている点だ。
例えば、交通史に関心を持ったのは、
「赤坂御用地の中に鎌倉時代の道が通っていたのを知ったこと」が契機だったことや、
「道への関心は、小学生の高学年の折に母とともに読破しました松尾芭蕉の『奥の細道』でさらに深められ」
たことなど、自身の体験や、感じたことを率直に語られている。
留学時代のいろんなエピソードからは、青春してらしたのだな、なんてこともうかがえる。
もちろん本書は講演記録だけに、既に知られている話なのかもしれないが、
こうして誰でも手に取って読める形にまとめられたことは喜ばしい。
随所にユーモアも仕込まれており、身構えているのを笑われているようでもある。
5月の即位を前に、学術研究という限られた側面かもしれないけれど、
お人柄に触れられるような本に出合えて、うれしかった。
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水運史から世界の水へ 単行本(ソフトカバー) – 2019/4/4
徳仁親王
(著)
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天皇陛下 皇太子時代のご講演の記録
中世・瀬戸内海の水運史や、17~18世紀のイギリス・テムズ川の水上交通史の研究を経て、関心はやがて世界の水問題へ。史料に真っ直ぐに向き合い、各地の水利用の現場を歩き、水災害の被災地への訪問を重ねてこられた殿下のまなざしは、「水と私たち」の未来に向けられてゆく。昭和62年(1987年)の初講演から平成30年(2018年)の世界水フォーラムの基調講演まで、全9篇を収載。
〈内容構成〉
はじめに
第1章 平和と繁栄、そして幸福のための水
第2章 京都と地方を結ぶ水の道 ―古代・中世の琵琶湖・淀川水運を中心として
第3章 中世における瀬戸内海水運について ―兵庫の港を中心に
第4章 オックスフォードにおける私の研究
第5章 17~18世紀におけるテムズ川の水上交通について
第6章 江戸と水運
第7章 水災害とその歴史 ―日本における地震による津波災害をふりかえって
第8章 世界の水問題の現状と課題 ―UNSGABでの活動を終えて
参考収録 Quest for Better Relations between People and Water
―本書「はじめに」より―
本書には、昭和62年(1987)に私が生まれて初めて行った、テムズ川の水上交通の歴史に関する講演から、平成30年(2018)3月にブラジリアで行った第8回世界水フォーラムにおける基調講演にいたるまでの、水上交通史や水災害を含む水問題についての講演の記録を収載しています。(中略)水問題は、あたかも水がどこにでも流れていくように、世界の紛争、貧困、環境、農業、エネルギー、教育、ジェンダーなどさまざまな分野に縦横無尽に関わってきます。(中略)水を通してこれらの問題に関心を持つことができたことは私にとりとても有意義であり、私の視野を大きく広げてくれた「水」に感謝しています。
中世・瀬戸内海の水運史や、17~18世紀のイギリス・テムズ川の水上交通史の研究を経て、関心はやがて世界の水問題へ。史料に真っ直ぐに向き合い、各地の水利用の現場を歩き、水災害の被災地への訪問を重ねてこられた殿下のまなざしは、「水と私たち」の未来に向けられてゆく。昭和62年(1987年)の初講演から平成30年(2018年)の世界水フォーラムの基調講演まで、全9篇を収載。
〈内容構成〉
はじめに
第1章 平和と繁栄、そして幸福のための水
第2章 京都と地方を結ぶ水の道 ―古代・中世の琵琶湖・淀川水運を中心として
第3章 中世における瀬戸内海水運について ―兵庫の港を中心に
第4章 オックスフォードにおける私の研究
第5章 17~18世紀におけるテムズ川の水上交通について
第6章 江戸と水運
第7章 水災害とその歴史 ―日本における地震による津波災害をふりかえって
第8章 世界の水問題の現状と課題 ―UNSGABでの活動を終えて
参考収録 Quest for Better Relations between People and Water
―本書「はじめに」より―
本書には、昭和62年(1987)に私が生まれて初めて行った、テムズ川の水上交通の歴史に関する講演から、平成30年(2018)3月にブラジリアで行った第8回世界水フォーラムにおける基調講演にいたるまでの、水上交通史や水災害を含む水問題についての講演の記録を収載しています。(中略)水問題は、あたかも水がどこにでも流れていくように、世界の紛争、貧困、環境、農業、エネルギー、教育、ジェンダーなどさまざまな分野に縦横無尽に関わってきます。(中略)水を通してこれらの問題に関心を持つことができたことは私にとりとても有意義であり、私の視野を大きく広げてくれた「水」に感謝しています。
- 本の長さ258ページ
- 言語日本語
- 出版社NHK出版
- 発売日2019/4/4
- ISBN-104140817720
- ISBN-13978-4140817728
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
水の恵み、水と地球、水と私たち。皇太子殿下のご講演の記録。
著者について
徳仁親王(なるひと・しんのう)
昭和35年(1960)生まれ。昭和57年(1982)、学習院大学大学院人文科学研究科博士前期課程入学。昭和58年(1983)6月から昭和60年(1985)10月まで英国に滞在し、オックスフォード大学大学院に在学。昭和63年(1988)、学習院大学大学院人文科学研究科博士前期課程修了。平成3年(1991)、オックスフォード大学名誉法学博士。平成4年(1992)より学習院大学史料館客員研究員。平成15年(2003)、第3回世界水フォーラム名誉総裁。平成19年(2007)から平成27年(2015)まで国連水と衛生に関する諮問委員会(UNSGAB)名誉総裁。
昭和35年(1960)生まれ。昭和57年(1982)、学習院大学大学院人文科学研究科博士前期課程入学。昭和58年(1983)6月から昭和60年(1985)10月まで英国に滞在し、オックスフォード大学大学院に在学。昭和63年(1988)、学習院大学大学院人文科学研究科博士前期課程修了。平成3年(1991)、オックスフォード大学名誉法学博士。平成4年(1992)より学習院大学史料館客員研究員。平成15年(2003)、第3回世界水フォーラム名誉総裁。平成19年(2007)から平成27年(2015)まで国連水と衛生に関する諮問委員会(UNSGAB)名誉総裁。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
徳仁親王
昭和35年(1960)生まれ。昭和57年(1982)、学習院大学大学院人文科学研究科博士前期課程入学。昭和58年(1983)6月から昭和60年(1985)10月まで英国に滞在し、オックスフォード大学大学院に在学。昭和63年(1988)、学習院大学大学院人文科学研究科博士前期課程修了。平成3年(1991)、オックスフォード大学名誉法学博士。平成4年(1992)より学習院大学史料館客員研究員。平成15年(2003)、第3回世界水フォーラム名誉総裁。平成19年(2007)から平成27(2015)まで国連水と衛生に関する諮問委員会(UNSGAB)名誉総裁(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
昭和35年(1960)生まれ。昭和57年(1982)、学習院大学大学院人文科学研究科博士前期課程入学。昭和58年(1983)6月から昭和60年(1985)10月まで英国に滞在し、オックスフォード大学大学院に在学。昭和63年(1988)、学習院大学大学院人文科学研究科博士前期課程修了。平成3年(1991)、オックスフォード大学名誉法学博士。平成4年(1992)より学習院大学史料館客員研究員。平成15年(2003)、第3回世界水フォーラム名誉総裁。平成19年(2007)から平成27(2015)まで国連水と衛生に関する諮問委員会(UNSGAB)名誉総裁(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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登録情報
- 出版社 : NHK出版 (2019/4/4)
- 発売日 : 2019/4/4
- 言語 : 日本語
- 単行本(ソフトカバー) : 258ページ
- ISBN-10 : 4140817720
- ISBN-13 : 978-4140817728
- Amazon 売れ筋ランキング: - 77,975位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 505位地理・地域研究 (本)
- - 1,277位日本史一般の本
- カスタマーレビュー:
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上位レビュー、対象国: 日本
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2019年4月4日に日本でレビュー済み
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139人のお客様がこれが役に立ったと考えています
役に立った
2019年5月4日に日本でレビュー済み
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ご講演記録なので、平易な表現で大変読みやすかったです。しかも基本的に大学生や専門家、政府関係者などを対象にしたご講演なので、内容的にも深いものがあり、大変参考になりました。私としては、オックスフォード大学留学中の研究についてのお話が特に興味を惹かれました。その研究内容もさることながら、ご苦労されて参考文献を検索したお話など研究方法が詳しく語られていて、後進にも役に立つ情報ではないかと思いました。
平成から令和に改元して、ミーハー的すぎるかなと思いつつ、しかし水運には興味があるしと、購入を躊躇していましたが、今では買ってよかったと思っています。
皇室に興味がある方、水運史に興味がある方、どちらにとっても満足いく書物だと思います。
平成から令和に改元して、ミーハー的すぎるかなと思いつつ、しかし水運には興味があるしと、購入を躊躇していましたが、今では買ってよかったと思っています。
皇室に興味がある方、水運史に興味がある方、どちらにとっても満足いく書物だと思います。
2019年5月7日に日本でレビュー済み
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史料と堅実に取り組むことと現代の問題と真摯に向き合うことが見事に噛み合った良質な歴史書です。自己陶酔や自己満足に陥らず誠実に歴史を物語る姿勢には共感を覚えます。そして、日本に限らず世界中の被災した方々への労りの心が歴史研究ときちんと結びついている点でも好感が持てます。明日のために前を向いて立つ勇気を与えてくれる歴史書と言ってもいいかもしれません。
歴史は専門職についている人の占有物でもなく、まして自己顕示欲に取り憑かれた人の思い付きを披露する場でもないことを、本書は如実に示しています。著者がCrown Princeであって今はEmperorであることへのバイアスを捨てて、歴史に関心を持つ全ての人が読むことが望ましい良書です。
歴史は専門職についている人の占有物でもなく、まして自己顕示欲に取り憑かれた人の思い付きを披露する場でもないことを、本書は如実に示しています。著者がCrown Princeであって今はEmperorであることへのバイアスを捨てて、歴史に関心を持つ全ての人が読むことが望ましい良書です。
2019年5月6日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
初めて 陛下の著書を読ませていただきました。
講演記録なので、平易な語り口でありながら無駄が無く、実地検分されている事柄が多いため説得力があります。
しかも聴衆の疑問を丁寧に解しながら、論評を進め 専門用語も、素人向けの判りやすい説明が織り込まれていて、
なるほどそうだったのか、と膝を打つ点が多々あります。
一章一講演ですが、相互に関連・引用もあり、ぐいぐい引き込まれ 全章読むと理解が深まる構成になっています。
随所に研究中の苦労話がユーモアを交えて語られるほか、不明点を明確に述べられて、
広く知識を求められる誠実・謙虚な姿勢には胸を打たれます。
ご専門は水運史ですが、防災、衛生、水資源環境にも触れられており、
今後 ご研究の幅が広がり、陛下が世界のオピニオンリーダーとして活躍される場が増えていくのは確実でしょう。
※個人的には、炎天下 八ヶ岳登山の道すがら立ち寄った「三分一湧水」が取り上げられていたことが嬉しかった。
講演記録なので、平易な語り口でありながら無駄が無く、実地検分されている事柄が多いため説得力があります。
しかも聴衆の疑問を丁寧に解しながら、論評を進め 専門用語も、素人向けの判りやすい説明が織り込まれていて、
なるほどそうだったのか、と膝を打つ点が多々あります。
一章一講演ですが、相互に関連・引用もあり、ぐいぐい引き込まれ 全章読むと理解が深まる構成になっています。
随所に研究中の苦労話がユーモアを交えて語られるほか、不明点を明確に述べられて、
広く知識を求められる誠実・謙虚な姿勢には胸を打たれます。
ご専門は水運史ですが、防災、衛生、水資源環境にも触れられており、
今後 ご研究の幅が広がり、陛下が世界のオピニオンリーダーとして活躍される場が増えていくのは確実でしょう。
※個人的には、炎天下 八ヶ岳登山の道すがら立ち寄った「三分一湧水」が取り上げられていたことが嬉しかった。
2019年5月5日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
改元に伴って、新天皇陛下の研究者としてのお考えを知りたくて購入しました。生きていく上で欠くことのできない「水」に対する天皇陛下の研究が世界規模で俯瞰されていることに感銘いたしました。現在日本でも安全と水は無料であった昔とは認識が変わってきていることもあり、非常に興味深く読みました。
2019年5月28日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
皇孫として昭和の時代に書かれた『テムズとともに』には、ご自分の運命(宿命?使命?)との空間的時間的な距離を持ち得た中で、いきいきとした青年皇族の感受性豊かな文章が随所につづられている。それに対し、本書第一章、御即位1年前の講演の「最後に、私の心からの希望を表明して、この基調講演を終えたいと思います。21世紀は水の世紀であるといわれていますが、その言葉を一歩進めて、21世紀は水による平和と繁栄、そして幸福の世紀であったと後世の人々に呼ばれることとなるよう願っています。引き続き、私も強い関心を持って見守っていきたいと思います」とのご挨拶に、象徴としてのお務めに臨まれる、静かだが並々ならぬ御決意が込められているように感じた。






