笙野頼子さんの小説は、一時期積極的に追いかけていたのですが、フォローしきれぬままに年月が過ぎていました。2003年に出版されたこの作品を15年たった今読んで、改めてこの時期の作者の筆力無双ぶりを堪能することができました。
しかしまた、思考実験としてもかなり針が振り切っている、女だけの国家とは……。本文中、どうしても観念的な印象を否めないのですが、例えば完璧な世襲制をとって核兵器を手に周囲を振り回し続ける某国や、国会中継ではどこかで見たことのある顔ばかりがならぶおなじく世襲の多い某国などの、薄気味悪さを考えれば……あながち荒唐無稽とも言い難い気もします。
ジェンダーに関して、私がつべこべ言う資格はないのですが、筆者は単に日本の現状を斬り捨てるだけだなく、自らの性についての感覚を正面から見据えようと誠実に格闘しているかのように思えます。
そして何より「4 世の尽々に・生命終わるまで」での、神話という題材から導かれる、美醜がまだ陳腐に振り分けられていない原初的イメージのぶつかり合いが圧倒的な感銘を与えてくれます。
創作家として、単に物語を創るということを超えて、価値観や制度的な面も含めての神話的構築に取り組むなど、未だかつてそれに成功した日本人の作家はいたでしょうか。(私が知らないだけかもしれませんが。)
作家ご本人からは怒られるかもしませんが、私は笙野さんが大江健三郎さんや故安部公房さんと比肩する存在だと思います。どうぞご健康に留意され、益々ご活躍されますことを、心からお祈りします。
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