残業代計算ソフトの制作者、新進気鋭の労働者側弁護士として、弁護士業界では多少の知名度のある筆者。
残業代請求に関する待望の著作との触れ込みで、業界でも「最初は」売れていたようだ。私も期待して(内容も確認せずに)購入した。
しかし、残念ながら、内容は分かりにくく、実務的には使いづらいであろう。おそらく同様の感想を持つ人が多数だろう。
他のレビューは内容面に具体的に触れていないので、購入を検討している方の参考の為に指摘したい。
どこが分かりにくいのか?
・過去の学説や判例を事細かに引用し、筆者の視点で具体的に分析している。しかし、その細かな引用や分析は、現在の実務にとってどういう意味があるのかについての言及が欠落している。そのため、単に冗長な文書を読まされるように感じる。
・結局、実務的にどのように対応すればよいのか、という肝心の点が不十分となっている。冗長な学説・判例・筆者独自の見解が多いのだが、実務ポイントに落とし込めていない。冗長な記載は無益的なものになっている。
・また、実務的に問題になる点の検討が不十分であり、網羅的ではない。せっかく残業代の問題にテーマを絞っているのであるから、そのテーマで問題となっている事項について、網羅的かつ詳細に論ずるべきなのに、上記の学説判例についての冗長な記載に押されて、肝心の実務対応の記載が腰砕けになっている。例えば、固定残業代の問題については、労働契約の途中から固定残業代を導入する点が不利益変更に該当しないか、という頻出論点があるが、その点についての記載は不十分と言わざるを得ない(他の記述と比較して記載量のバランスが悪い)。
・一文が長く、注釈も多すぎて、文章自体が読みにくい。結局、何が言いたいのかわかりにくい文章が多い。
・なお、自作の残業代計算ソフトについても独立の章立てで30頁ほど記載がなされているが、こんなものはHPにでもアップすれば足りるだろう。わざわざ書籍に独立に記載する必要はなく、もっと実務的に役立つ記載をした方がよい。
以上、簡単に分かりにくい理由を記載した。
購入を検討しているならば、是非、書店で内容に目を通した上で購入した方がよいだろう。
なお、あくまでも「分かりにくい」ということであって、全く役に立たないという訳ではない。参考になる記載ももちろんある。内容も詳細かつ正確だ。推測するに、筆者が忙しくて文章を書き上げた後、推敲する時間がなかったのではないか。又は、担当編集者がろくに確認しなかったのだろう。普通の編集者なら、この内容で出版はしない。
もう少し文章の読みやすさや文章の構成などを練り直して、改訂版を出すことを期待したい。
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