2007年の2月、ユニセフのイノチェンティ研究所は先進諸国の子どもたちの幸福度についての報告を発表し、オランダの子どもたちは、先進国21カ国のうち、幸福度第1位という結果でした。
日本の子どもたちの場合、「孤独を感じる」と答えた子どもが、全体のなんと30%にも上っていることが、報告書の中でも特に注目され心配されています。
なぜ、日本のようにモノの豊かな国で、多くの子どもたちが孤独を感じているのでしょうか。なぜ、他の先進国に比べてモノに特別恵まれているというわけでもないのに、オランダの子供たちは、自分が幸福であると誰よりも強く実感できるのでしょうか。
(「はじめに」より抜粋)
本書はオランダの教育・社会・経済について記されたものでありながら、そのまま日本について問題提議した内容にもなっています。現在、日本が抱えている社会の諸問題は、20年以上も前にオランダが直面したものであり、その克服方法は日本においてのヒントとなるものだと著者は訴えています。とりわけ、働き方や教育についてはいろいろな試みや可能性が提示され、日本の格差や学力低下に対しての示唆となっています。
かつて、日本には「蘭学」という学問がありました。オランダより吸収した学術・文化は、日本国内の発展・進歩に役立てられました。本書は現代における「蘭学」の先端であり、新しい時代の「和魂洋才」を育む一冊であろうと、ご一読をお薦めします。
内容(「BOOK」データベースより)
子どもの「幸福度」第一位。労働時間は日本の三分の二。教育、経済、社会制度から日常、性、生き方まで、自律と多様性の国オランダと日本を照らし合わせる。
抜粋
はじめに----幸せで経済効率もよいオランダという国
働くために自分を犠牲にしている日本人
「よく学びよく遊べ」
昔の日本の大人たちは、わたしたち子どもに向かって、よくそういったものです。
これを大人向きに言い換えると「よく働きよく遊べ」ということになるでしょうか。
けれども、近ごろの日本を見ていると、大人は昼夜の別なく働くことが当たり前となり、子どもたちは学校や塾の勉強でストレスをためていて、ゆっくり夫婦や兄弟姉妹、友達と交わって、ともに楽しく過ごす時間が日々の生活の中にほとんどなくなってしまっているようです。
私のオランダとの付き合いは、今からかれこれ4半世紀以上も前、オランダ人の夫と出会ってから始まりました。人生のほぼ半分に当たる時間を、オランダと付き合ってきたことになります。若いころは夫とともに約15年間、アジア、アフリカ、ラテンアメリカに暮らし、それらの、どちらかというと貧しい国ぐにから、ものに溢れ、人々の暮らし向きの豊かなオランダや日本を眺めてきました。
25年前といえば、1980年代前半、当時オランダは不況のどん底、街を歩く人の表情にも暗澹とした雰囲気が漂っていました。一方、その頃の日本はといえば、バブル景気の前夜。それから、90年代にさしかかるまで、巷には人々の好奇心や購買心をそそる製品が溢れかえり、日本の経済はアメリカ合衆国に次ぐ世界第2位にまで伸し上がり、当時は世界中の人々から羨望のまなざしを受けて、順風満帆、まるで怖いものなしという感じでした。
けれども、90年代にはいると、オランダと日本の立場は逆転します。
オランダが、「オランダ病」と言われた不況期をようやく脱出して、社会にも活気が出始めたころ、日本ではバブルがはじけてしまい、人々が将来に希望を持てない、長く苦しい経済低迷期に入っていきました。
そして今の世界。新しい世紀を迎えたころから、世界ではいろいろな深刻な問題が表面にあらわれてきました。それは、一言で言うならば、「グロバリゼーション」という現象です。商取引の舞台は、国境を超えて世界に広がり、市場競争が激しくなりました。おかげで、オランダや日本も含め、世界中の国々で、国内の人々の間に貧富の差が広がり、国と国の間の貧富の差も広がっています。市場競争の激化と気候の変化は、特に、第三世界の人々の暮らしをますます追い詰め、紛争の種をまき散らし、国境を越える人の流れが活発になりました。その結果、私たちは今、異なる文化や宗教をもつ、さまざまの民族が、実際に出会い、もみ合い、ぶつかり合う時代を生きています。
25年余りにわたる歳月の、変化に富んだ日本とオランダの社会を振り返って、今、私が強く感じているのは、オランダ人は、生活を楽しむために働く人たちで、他方、日本人は、働くために人間としてのありとあらゆる価値を犠牲にしている人たちなのではないか、ということです。
(「はじめに」冒頭部分)
著者について
1955年下関市生まれ。教育研究家。九州大学大学院修了。専攻は比較教育学・社会学。'81年マレーシア国立マラヤ大学に研究留学。'83年から'96年までオランダ人の夫に伴い、ケニア、コスタリカ、ボリビアに在住。この間、長男長女を出産。'96年よりオランダ在住。'99年より「リヒテルズ直子のオランダ通信」を開始し、2002年よりインターネット上で公開。オランダの教育・社会事情を発信し続け、日本でも講演・執筆など旺盛な活動を展開している。著書に『オランダの教育』『オランダの個別教育はなぜ成功したのか』(平凡社)などがある。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
リヒテルズ/直子
1955年下関市生まれ。教育研究家。九州大学大学院修了。専攻は比較教育学・社会学。’81年マレーシア国立マラヤ大学に研究留学。’83年から’96年までオランダ人の夫に伴い、ケニア、コスタリカ、ボリビアに在住。この間、長男長女を出産。’96年よりオランダ在住。’99年より「リヒテルズ直子のオランダ通信」を開始し、2002年よりインターネット上で公開。オランダの教育・社会事情を発信し続け、日本でも講演・執筆など旺盛な活動を展開している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)