24歳で『貧しき人々』を発表し、多くの批評家から絶賛されたドストエフスキーだったが、それ以降は『白夜』のような後のドストエフスキーからは想像できないような作品を書いていた。率直に言って、迷っていたのではないだろうか。ところがこのシベリア流刑後の作家は、大変身を遂げ、『罪と罰』から『カラマーゾフの兄弟』までの5作の長編小説をはじめ、『地下室の手記』などの傑作を次々と書き上げていった。ドストエフスキーの大きな特徴である人間描写、人間を観察する眼が磨かれたのがこの流刑経験ではないだろうか
この『死の家の記録』は、32歳で出獄してから8年後の40歳の時に著している。「……大半の者は堕落して、ひどく卑劣な人間に成り下がっていた。人の悪口やあら捜しは絶え間がなかった。……」やはりやることがないと、人間はこんな風になっていくのだろう。しかし、何はともあれいろいろな人間がいて面白い。この作品が描かれてから約50年後に行なわれた国勢調査で、ロシアの識字率はおよそ20%だったのに、この監獄の識字率は50%程度だったというからなかなか不思議な世界ではないだろうか。識字率が高い人間が犯罪者となると言う一般法則はないだろうけれども、何か事情でもあったのだろうか。例えば思想犯が、この監獄には多かったとか……。
気の毒なのが、監獄で飼われていた動物の話で、犬は殺されて皮を剥がされ、ブーツの裏地になってしまった。鵞鳥は囚人にとてもなついていたのに、精進明けを迎えた時に一斉に潰されて食われてしまった。そして山羊は、焼き肉にされてしまった。
内容紹介
“人間離れ”した囚人たちの異様さが、抑制の効いた訳文だからこそ際立つ。だがここに描かれている彼らは、まさに「人間そのもの」と言っていいだろう。本書はドストエフスキー自らの体験をもとにした“獄中記”であり、『カラマーゾフの兄弟』『罪と罰』など後期作品の原点でもある。
内容(「BOOK」データベースより)
恐怖と苦痛、絶望と狂気、そしてユーモア。囚人たちの驚くべき行動と心理、そしてその人間模様を圧倒的な筆力で描いたドストエフスキー文学の特異な傑作が、明晰な新訳で今、鮮烈に蘇る。本書はドストエフスキー自らの体験をもとにした“獄中記”であり、『カラマーゾフの兄弟』『罪と罰』など後期作品の原点でもある。