著者による2004年から2015年までの作品を1冊にまとめた、ああ堂々の「短歌+α」の詩歌集である。
六月は青木さんとのセックスにもれなくついてくる愛してる
人の道よこぎってゆく蟻の道よこぎってゆく人間のわたし
自民党には誰も投票しなかった私の読者を誇りにおもう
小池光が歌会始の選者となり「俺は行かない」と書いた初夢
うんちを食べるかわいい子犬なにをどう時にきびしく何度言っても
といった塩梅で、前半の短歌も絶好調であるが、中盤からはそんな生易しいものではなくなる。
すなわち、2007年の「今だから宅間守」以降は、著者の視線が内面と同時に死刑制度、人体の不思議展、2011年の震災、津波、フクイチ原発事故、出生率、広島と原子力問題、広く社会全般に向けられ、それと同時に、短歌のみならず詞書や引用分、所感、データと一体になった一種の複合的散文詩として提出しようとする新たな表現形式を生みだすに至った。
その具体的な姿形は、口で言うてもよく分からないと思うので、ぜひとも本書を手にとって「おお、これがそれか!」と私と一緒に驚愕して頂きたい。
なかんずく素晴らしいのは、掉尾にさりげなく置かれた「親指が数センチ入る図書館」という作品である。
これは震災地の汚染土壌をめぐる科学的な考察でもあり、知的な報告書でもあり、叙事と抒情を兼ね備えた箴言でもあるような硬質の散文詩で、私はこの64行の一篇をもって、今年2016年の詩歌界の最上最高の収穫と称えるにやぶさかではない。
せわしなく右手を上下させながら恐ろしきことを次々に言う 蝶人
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