上野さんの演奏するユン・イサン「エチュード」を聴く機会があった。ある作曲家の還暦を記念するコンサートでの演奏は、気迫にみちた厳しいが美しい演奏だった。このCDで録音されたユン・イサンのフルート作品においては、空間に亀裂を生じさせるような鋭い気が満ちているように感じられる。それがたとえ、なだらかな旋律がうたわれているときであってもそうで、弛緩した時間など微塵もない。ただ、その鋭さ、峻厳さは、聴き手を拒絶するような「現代音楽」的な難解さによるというものではなくて、優れた水墨画を領しているような、清冽な空気に近い。また、フルートを聴いているというより、東アジア的な笛を強く想起されもする。息が吹き込まれ、楽器とその素材が、吹きこまれた息と共鳴し、それが自然そのものに通じていく・・・・・・。閉鎖的な個に収斂する、よくありがちな20世紀後半のアカデミックな音楽ではなく、世界への広がりを持った音楽。
上野さんのこのCDは、志の高い、清冽な気韻を持った録音である。
ユン・イサンの録音で、私が他に繰り返し聞くのは、「礼楽(レアク)」。Stefan Asbury指揮のベルリン・ドイツ交響楽団の演奏。クールな演奏です。よろしければぜひ。