私たちが業務の研究に真剣に取り組み始めた時、「クラウド」などという言葉はなかった。ドイツ発のERPパッケージが一世を風靡し、「グローバルスタンダード」と「ベストプラクティス」が叫ばれていた。そのパッケージコンサルタントの資格を得るために仕事を辞め、なけなしの数百万円を個人で支払った友人もいた。彼には申し訳なく思ったが、私はその神話が長く続かないと確信していた。製品が悪いのではない。私たちが10年かけて育てたERPパッケージと同じく、早晩、時代に合わなくなるに違いないと思っていたのだ。
昔のように、お仕着せの商品を誰もが喜ぶ分野は、もはや多くない。国境の壁は低くなり、激しい競争の中で顧客は差別化を追求している。ソフトウェアに対するニーズも、どんどん多種多様となる。
私たちは2003年から、お仕着せを止めた。最近のデータセンターがそうなっているように、コンテナを並べるイメージで、顧客1社1社に最適なアプリケーションを組み上げるための「素材」を用意することにした。研究の結果、従来のようなソフトウェアの部品化ではダメであり、「業務構造の抽象的要素群と、業務非依存のコンピュートサービスの疎結合」という解に辿り着いた。
そこへクラウド時代が到来し、企業が専有システムを手元に保持する理由は見当たらなくなってきた。試しに1コンテナだけ利用してみてもよいし、「秋と冬はコンテナ10台分返却する」といったこともできる。ここまでは仮想マシンとサーバー資源の話によく出てくるが、私たちはエンタープライズ系の業務アプリケーションでこれを実現している。1社1社にぴったりのクラウドアプリケーションを、誰よりも短期・低コストで構築できる。どんな仕様変更があっても、いくら業務範囲を広げてもよいので、ユーザーにも開発サイドにもリスクがない。
業務システムの多くはクラウドになりえる。この大きな流れを誰も止めることはできない。本書で開示した私たちの研究成果が、これからクラウドを利用しようとしている皆さん、クラウドで業務システムを提供しようとしている皆さんの一助になれば幸いである。
要求分析・フロー設計の新手法を開示。「成功率3割」とも言われているITプロジェクトの歩留まりが、100%近くに引き上げられる。システム構築のコストを半分以下に、工期を4分の1に圧縮。新人SEが見ず知らずの業界の巨大システムをあっさりと作ってしまう。そもそも仕様固めのフェーズがなく、使いながらどこまでも改善を施せばよい。−−見た人しか絶対に信じないことが、GCT研究所とパートナーの周囲で次々と起こっています。
「どうしてこんなことができるのか?」その答を本書は明らかにします。一言でいえば、業務の本質的な構造を体系化し、それに形を与えることに成功したからです。形とはGOA(業務中心アーキテクチャ)と呼ぶ技術体系と、GOAに基づいて作られた独自のアプリケーション生成機構「iRYSHA」です。本書はその解説を通じて、クラウド時代に求められるアプリケーションの実現方法を明らかにします。
内容(「BOOK」データベースより)
成功率100%の4倍速開発。業務系SEの未来を拓く要求分析・フロー設計の新手法。
著者について
おかべ・まりお 株式会社GCT研究所代表取締役社長。1968年生まれ。NTTデータでのERP開発を皮切りに、20年近く業務アプリケーション畑を歩む。95年にアジア向けERP A.S.I.A.(エイジア)を一人で立ち上げ、数年で15カ国に導入。2000年に総代理店イジアン・パートナーズを設立し、02年に同社代表取締役に就任。06年に同社から一部事業を買収し、CT研究所を設立、代表取締役に就任。現在に至る。共著に『グローバル経営と新しい企業金融の原理原則』(2000年・リックテレコム刊)がある。毎日1km泳ぎレスキューダイバーの資格も保有。愛車のハーレーダビッドソンで週末は走り回る。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
岡部/摩利夫
株式会社GCT研究所代表取締役社長。1968年生まれ。NTTデータでのERP開発を皮切りに、20年近く業務アプリケーション畑を歩む。95年にアジア向けERP A.S.I.A.(エイジア)を一人で立ち上げ、数年で15カ国に導入。2000年に総代理店(株)エイジアン・パートナーズを設立し、02年に同社代表取締役に就任。06年に同社から一部事業を買収し、(株)GCT研究所を設立、代表取締役に就任(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
About this Title
はじめに
私たちGCT研究所は、企業の業務処理とアプリケーションシステムの在り方を研究しています。本書はその研究成果を1冊にまとめたものです。
本書は企業のIT部門やCIO(最高情報責任者)、一般システムエンジニアの方々を広く対象としています。特に中級以上の業務系SE、ITアーキテクト、データベース技術者の方々には、興味深い内容を提示できると思います。
GCT研究所のGCTは「業務コントロール技術」の頭文字です。小さなソフトウェアベンチャーですが、様々な国や業界における「業務の構造」と「システム統制」にこだわり抜いて、研究・開発を行っています。本書はその集大成である「GOA」(業務中心アーキテクチャ)を説明します。
GOAはシステムアーキテクチャですが、中心を支えているのは、業務分析・業務設計の新しい考え方です。ゆえに本書は、コンピュータの専門書というよりも、私たちの提唱する「業務科学」の入門書となるものです。新たな情報工学の視点で現実を捉え、業務に指針を提供すること。読者がそうした力を獲得できるよう、当研究所の知財を開放することが本書の役割です。
本書の半分以上を占める第1章から4章では、GOAの全体を明らかにします。ですが、単に論理を説明するのでなく、少しでも楽しくGOAのコンセプトに共感していただけるよう工夫しつつ、熱いメッセージを込めました。
後半部ではiRYSHA(イェライシャ)と呼ぶシステムを紹介します。iRYSHAはアプリケーションの「半自動生成機構」であり、GOAの理論をそのまま実装したものです。これはクラウド時代に求められる変幻自在で超スケーラブル、仮想化された業務システムを生み出します。
iRYSHAは製品ではありませんが、GCT研究所とパートナーはiRYSHAを用いて、各企業に最適なクラウドサービス等を開発・提供しています。読者の皆さんには、本書の後半部を通じて、GOAの理論とコンセプトが具体化される様子をご想像いただけると思います。
GOAもiRYSHAも、私たちだけの力量で創られたものではありません。まず、NTTデータ・常務取締役(当時)の宇治則孝氏は、研究所の設立を後押ししてくださいました。蔵の方々にはオブジェクト指向技術、国際P2M学会の皆さんにはプロジェクトマネジメントのご指導を仰ぎました。マイクロソフトの若林英弥氏と、現バリューソースの神崎善司氏には構想段階でご尽力頂きました。早稲田大学の木下俊彦教授は国際企業経営、フューチャーナレッジコンサルティングの福岡博重社長は製造業の業務について、サジェスションを下さいました。新宿監査法人の壬生米秋先生は私にとり、長年にわたる企業会計の師匠です。またニューソンの田中周一副社長(当時)には、iRYSHAの開発に際し特段のご支援を戴きました。日本郵船の石澤直孝氏は、最初の共同開発パートナーになってくださいました。KDDIの大貫祐嗣氏は、同社の新しいクラウド戦略展開において、一番に弊社を選んでくださいました。ウイングアーク テクノロジーズの内野弘幸社長と、エフ・シー・エスの藤本繁夫社長には、ビジネス展開で特にご支援をいただ\xA1
いています。
このようにGOAとiRYSHAには、日本のIT産業の英知が集まっています。それは多くの業務系SEの悩みを解決するはずです。本書を契機にして、1社1社の業務が持っている本来の"強さ"が形を得て、クラウド時代の真の扉が開かれんことを願っています。
編著者