Oryza sativa。ネパール・ヒマラヤ中腹の段々水田には、ジャポニカ型稲が多く、
栽培法も本邦と同じという。大豆のアゼマメを栽培し、納豆をつくる習慣もあるらしい。
本書では、照葉樹林文化として出てくる。一方、インドやパキスタンの乾燥帯の主食は、
小麦粉を薄く焼いたチャパティ。小麦は、2粒系(AABB)とタルホコムギ(DD)を掛けた、
トリティクム・ヴュルガーレ(AABBDD)に至っている(当時)。
本書は、不恰好な穂ながら接触的脱粒性を克服した野生の改良種である安定的な作物(クロップ)と、
基本的な文化複合(コムプレクス)の相関に注目し、出アフリカ後の人類集団の拡散行程と、
文明・文化圏のセンター(チベット・ビルマ系のロロなど)となっている各地をめぐる農業の起原を、
パラレルかつ多元的に捉えた、実証的かつ大胆な文明論となっている。
マードックは1959年に、アフリカ先住民全部の個々の文化と歴史をかき、
その際に世界の農業の四大起原説を述べたが、農学系の著者は居住地の利を生かして、
アジアやネシア地域を独自に踏査・研究する中、「この説に非常に近いものをえた」としている。
結論的には、目次2頁につづく見開きに掲載の図からして、本邦農業がいわばジャパノロジーの対象として、
バナナ・イモ類を中心とする「根菜農耕文化」、雑穀・マメ類を中心とする「サバンナ農耕文化」、
新しくはムギ・エンドウ類を中心とする「地中海農耕文化」などの影響を受け、
一方新大陸では、ジャガイモ・トーモロコシ類を中心とする独自の農耕文化が発祥して伝わり、
逆輸入によって各地の食生活が変化したことをも物語る。
さて、本邦をめぐる状況に関しては、さらに本章3と5で扱われている内容がポイントと考えられ、
前者は茶、絹、漆、柑橘、紫蘇、酒などを特徴とする山岳系の照葉樹林文化であり、
後者は西アフリカ・ニジェール川流域原産のオリザ・グラベリマや、インド付近が起原地として有力視される、
食用野生禾本科雑草類からの改良種としてのオリザ・サチバに代表される山間系水稲耕作文化。
昭和40年代にかかれた本書には、ユニークかつバラエティにとんだフィールドスケッチもたくさん出てくるし、
種間の系統関係を示した図や倍数体の表に加え、作物や家畜の発祥・伝播ルートの地図、古代王権の壁画、
文明・文化間のフローチャートなどデータも豊富となっており、関連する従来の通説も丁寧に参照されているなど、
真摯な研究姿勢がよく伝わってくる構成も見逃せない。
育種農牧業を基本とするこうした文明論や、ブリーディングに関心の向きにはぜひ、おすすめしたい1冊です。
中尾氏の著書に、『秘境ブータン』、『アジア文化探検』、『料理の起源』、『現代文明ふたつの源流』、
『栽培植物の世界』、『花と木の文化史』など多数あります。
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