「果てしなき輝きの果てに "Long Bright River"」(リズ ・ムーア ハヤカワ・ミステリ)を読みました。
舞台は、フィラデルフィア、ケンジントン。地名を聞いて思い浮かべるのはヘロイン。薬物汚染。
主人公でもあるパトロール警官・ミッキーは、ドラッグ中毒者の遺体が発見されたとの報を受け、その遺体が妹のケイシーではないかとの囚われを抱きながら線路脇の現場へと赴きます。母親をドラッグ中毒で失い、父親は行方知れず。二人は祖母・ジーにより育てられますが、妹もまた、薬物依存、売春によって心身共に蝕まれ、行方不明のまま。遺体は彼女ではなかったものの絞殺痕があり、さらに似たような事件が相次ぐ中、ミッキーはケンジントンの闇を潜るようにして、その犯人と妹を探しだそうとします。
ミッキーの「現在」にその「過去」が時折フラッシュバックし、そこには機能不全家族の持つ根深い苦しさが畳みかけるように描かれています。とてもデリケートで丁寧な文体ですが、スリラーというよりも、「依存症者」の一つの<実態>を描いた、読んでいてその継続する「苦しさ」からできれば逃れたいと思わせるような物語だと思います。よって、私は、間に何冊か異なる小説を読んで、気を紛らわせました(笑)とは言え、その「過去」がインサートされることによって、ミステリ的興趣が発生し、2個所、巧みな「反転」も仕掛けられています。
人を徹底的に傷つけ、己が人生を台無しにしても尚やめることができない「依存症」ととことん向き合った小説とも言えるのかもしれません。薬物であれ、アルコールであれ、ギャンブルであれ、依存症者はそれを手に入れるためならば、反社会的な行為も含め、家族を、周囲を巻き込み、それを盾に取りながら、相手が自分を愛していることをいいことに、そのことまでも利用し、利用しつくします。それは、篇中、言及されているように「ハメルンの笛吹き」の笛によってもたらされる恍惚状態を得るための方策を常に脈絡のない戦略行為のように考えているからなのでしょう。
「回復」はあります。離脱症状を超え、最大の支援者でもあるスポンサーに身をゆだね、「回復のための12ステップ」を心に埋め込み、自助グループが与えてくれる「共感」の中に身を浸しながら、それでも尚、怯えながら生きる日々の中で、正しい行いをすること、傷つけた人への「埋め合わせ」をするというルーティンを身につけることなくして、それはあり得ないのだと思います。その意味からもこの重苦しいスリラーは、しっかりとその<実態>を描き尽くそうとしていることが理解できます。
そして、この物語の最大の凄みは、依存症者の家族でもあるミッキーが、「わたしが依存しているのは、自分の正しさばかり主張する、自己認識やプライドにかかわるなにか」であり、そのことこそが「不健全」であることに気づくことにあるのかもしれません。
また、ミッキーと息子のトーマスを支える大家・セシリア・マーンこそ、その「霊性」の象徴なのだと思います。彼女が言うように「同じ物語でも、見方を変えたら別のものになる」のであれば、この苦しみの物語も底打ちの果てに連なる<果てしなく輝く一筋の川>へと向かう「希望」の物語として読むこともまた可能なのだと思います。
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果てしなき輝きの果てに (ハヤカワ・ミステリ) Kindle版
薬物蔓延で荒廃するケンジントンのパトロール警官ミッキーは線路脇でドラッグ中毒者の遺体が発見されたとの報せに現場へ赴く。妹のケイシーだろうか? かつて厳しい祖母の下で支えあって生きてきた姉妹。今は何年も話さず、売春の客引きや麻薬取引をする妹に姉が手錠をかけるくらいが接点だ。だがしばらく路上にケイシーの姿はない。遺体は彼女ではなかったが絞殺痕があり、さらに似たような事件が相次ぐ。ミッキーは憑かれたように犯人と妹を探すが……姉妹の絆と孤独を抉る、アメリカの今を映した新しい警察小説。
- 言語日本語
- 出版社早川書房
- 発売日2020/5/26
- ファイルサイズ984 KB
商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
薬物蔓延で荒廃するケンジントンのパトロール警官ミッキーは線路脇でドラッグ中毒者の遺体が発見されたとの報せに現場へ赴く。妹のケイシーだろうか?かつて厳しい祖母の下で支えあって生きてきた姉妹。今は何年も話さず、売春の客引きや麻薬取引をする妹に姉が手錠をかけるくらいが接点だ。だがしばらく路上にケイシーの姿はない。遺体は彼女ではなかったが絞殺痕があり、さらに似たような事件が相次ぐ。ミッキーは憑かれたように犯人と妹を捜すが…姉妹の絆と孤独を抉る、アメリカの今を映した新しい警察小説。 --このテキストは、tankobon_hardcover版に関連付けられています。
著者について
1983年アメリカ生まれ。2007年にThe Words of Every Songでデビュー。2014年にローマ文学賞を受賞。2020年1月に上梓したばかりの本書は4冊目にあたり、全米各紙誌の絶賛を受ける。現在フィラデルフィアに家族とともに住み、テンプル大学のクリエイティブ・ライティングの修士課程で教鞭をとっている。 --このテキストは、tankobon_hardcover版に関連付けられています。
出版社からのコメント
薬物蔓延と連続殺人事件に揺れる街で、失踪した娼婦の妹と、それ追う警官の姉―― どんな過酷な運命が姉妹を遠ざけたのか? 全米各紙誌絶賛の姉妹の絆を描く警察小説 --このテキストは、tankobon_hardcover版に関連付けられています。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
ムーア,リズ
1983年アメリカ生まれ。2007年にThe Words of Every Songでデビュー。2014年にローマ文学賞を受賞。現在フィラデルフィアに家族とともに住み、テンプル大学のクリエイティブ・ライティングの修士課程で教鞭をとっている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです) --このテキストは、tankobon_hardcover版に関連付けられています。
1983年アメリカ生まれ。2007年にThe Words of Every Songでデビュー。2014年にローマ文学賞を受賞。現在フィラデルフィアに家族とともに住み、テンプル大学のクリエイティブ・ライティングの修士課程で教鞭をとっている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです) --このテキストは、tankobon_hardcover版に関連付けられています。
登録情報
- ASIN : B088TJQ26V
- 出版社 : 早川書房 (2020/5/26)
- 発売日 : 2020/5/26
- 言語 : 日本語
- ファイルサイズ : 984 KB
- Text-to-Speech(テキスト読み上げ機能) : 有効
- X-Ray : 有効にされていません
- Word Wise : 有効にされていません
- 本の長さ : 550ページ
- Amazon 売れ筋ランキング: - 253,436位Kindleストア (の売れ筋ランキングを見るKindleストア)
- カスタマーレビュー:
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カスタマーレビュー
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2020年7月13日に日本でレビュー済み
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暗い話は苦手だという方にとっては、本書は忍耐を強いられる物語である。そもそもこの作家にとってはミステリーが初チャレンジだそうだ。これまで数作の私小説的な、あるいは社会問題をテーマにしたヒューマンな作品で評価されているようだし、ミュージシャンであり、大学の先生でもあるらしい。多くの顔を持つ作家の初のミステリー・デビューということである。
ヒロインのミカエラはフィラデルフィア市警24分署のパトロール警官である。ある日、通報によりリ、連続殺人事件の被害者である若い娼婦の遺体に遭遇する。パトロール警官の身には、捜査権限という点で相当のハンディを抱えているばかりか、捜査状況の進捗すらまともに読み取れない立場なので、ミステリーとしての物語をこの書がどのように進めてゆけるのかなと要らぬ心配で頭をいっぱいにしながら、読者としてのぼくはミカエラとその妹ケイシーの物語へと導かれる。
ミカエラの独白は語る。そのケイシーが薬物中毒で娼婦へと身に落としているかもしれないこと。そしてここのところ街から姿を消し行方不明になっていること。連続殺人事件の被害者として未発見の遺体と化している恐ろしい状況を、姉は心配するのだ。
本書の主人公は二人の姉妹で、彼らの恵まれない現在と過去を行き来しつつ、ミカエラは一人称で語る。現在にも過去にも、冷たくて意地悪で逆境を作り出しているかのような人物がいて、ミカエルは苦しみながら、ケイシーの行方だけに心を捉われゆく。
もう一つの主人公はここフィラデルフィアの最も荒れ果てた街ケンジントンだと言っていいだろう。犯罪の横行する、貧しく荒んだ街を流れるデラウェア川を、示したような原題"Long Bright River"は、一方では姉妹たちの、どうにもならない宿命を表しているかにも見える。
薬物被害の横行する街、遺伝的に依存症傾向のある(とミカエラが信じる)彼ら一族の血、依存症の女性から生まれる新生児のダメージと、そこから救われるための苦しみ、依存症患者へのヘイトに満ちた社会の眼差し等々を見ていると、本書はストレートな社会派小説であるとも見える。
それでいて、姉妹の隠されていた秘密、連続殺人の意外な犯人像、などなど、ミステリーとしての驚愕に満ちた仕掛けもしっかり用意されてる、ある意味とても精緻で完璧な作品でもある。
読中、ヒロインの悲劇につきあうのはとても苦しい体験なのだが、果てしなき輝きの果てにミカエラが見つけ出すものを知るところまで是非、このいたいけなヒロインにおつきあい頂きたい。この作品の素晴らしさを必ず感じ取れる時が必ず来ると信じて。
ヒロインのミカエラはフィラデルフィア市警24分署のパトロール警官である。ある日、通報によりリ、連続殺人事件の被害者である若い娼婦の遺体に遭遇する。パトロール警官の身には、捜査権限という点で相当のハンディを抱えているばかりか、捜査状況の進捗すらまともに読み取れない立場なので、ミステリーとしての物語をこの書がどのように進めてゆけるのかなと要らぬ心配で頭をいっぱいにしながら、読者としてのぼくはミカエラとその妹ケイシーの物語へと導かれる。
ミカエラの独白は語る。そのケイシーが薬物中毒で娼婦へと身に落としているかもしれないこと。そしてここのところ街から姿を消し行方不明になっていること。連続殺人事件の被害者として未発見の遺体と化している恐ろしい状況を、姉は心配するのだ。
本書の主人公は二人の姉妹で、彼らの恵まれない現在と過去を行き来しつつ、ミカエラは一人称で語る。現在にも過去にも、冷たくて意地悪で逆境を作り出しているかのような人物がいて、ミカエルは苦しみながら、ケイシーの行方だけに心を捉われゆく。
もう一つの主人公はここフィラデルフィアの最も荒れ果てた街ケンジントンだと言っていいだろう。犯罪の横行する、貧しく荒んだ街を流れるデラウェア川を、示したような原題"Long Bright River"は、一方では姉妹たちの、どうにもならない宿命を表しているかにも見える。
薬物被害の横行する街、遺伝的に依存症傾向のある(とミカエラが信じる)彼ら一族の血、依存症の女性から生まれる新生児のダメージと、そこから救われるための苦しみ、依存症患者へのヘイトに満ちた社会の眼差し等々を見ていると、本書はストレートな社会派小説であるとも見える。
それでいて、姉妹の隠されていた秘密、連続殺人の意外な犯人像、などなど、ミステリーとしての驚愕に満ちた仕掛けもしっかり用意されてる、ある意味とても精緻で完璧な作品でもある。
読中、ヒロインの悲劇につきあうのはとても苦しい体験なのだが、果てしなき輝きの果てにミカエラが見つけ出すものを知るところまで是非、このいたいけなヒロインにおつきあい頂きたい。この作品の素晴らしさを必ず感じ取れる時が必ず来ると信じて。





