本書は、リーマンショックとギリシャ危機という二つの危機をテーマに、世界金融システムがどのように動き、それが変化してきたのかを、クリントン政権の終わりあたりから、最近のウクライナ問題やBrexit、トランプ政権に至るまでを一気に俯瞰してくれる一冊である。
特に、リーマンショックとギリシャ危機を別々の二つの問題としてではなく、通底した一つの問題として認識するところから本書は始まっている。
本書でまず注目されているのは、欧州とアメリカの間の金融取引、特に欧州側の金融機関がドルを多量に必要としているという面である。
レポ取引による調達が常態化していたが、そのレポ取引市場が金融危機で一気に凍結に近い状況に追い込まれたことが、金融危機の重要な側面であった。
これは最終的にはドルスワップ枠の提供などのFRBの努力で沈静化していくが、それは同時に(欧州が何と言おうと)アメリカとFRBが結局運命を決めたということでもあった。
欧州では、リーマンショック時点ですでにラトビアなどが危機的事態に陥っていたが、特に積極財政から反転して財政健全化がなされると、いくつもの国が苦しい状態に陥り、その最大例がギリシャだった。
ギリシャに対する措置は、ドイツの頑迷とした財政健全化論に阻まれ、結局「先送りとごまかし」をひたすら繰り返し、ギリシャ国民を繰り返し苦しめ続けるようなものとなった。
このあたりは、アメリカと対比して欧州が「寄り合い所帯」に過ぎないことが徹底して裏目に出ているものだった。
特にギリシャの破綻による他国への余波が防ぎきれる状況になると、逆にギリシャは交渉カードを失い、完全に追い詰められた形となった。
これらと並行して、ロシア、中国、東欧など、また特にその政治的な側面も触れられている。
ロシアはリーマンショックの影響を極めて強く受けた国で、株価の暴落などは著しく、また石油や天然ガスへの依存もまたこれらの価格低下がダメージを与えた。
その後のロシアの動きは経済だけでなく政治の話が色濃く出てくるもので、ウクライナ危機などはEU、東欧、ロシアの政治的な動き、特にEUの不統一かつ不徹底な動き方が背景にあるといえよう。
中国については金融と経済のレベルでしか触れられておらず、特にその政治面はそこまで深堀り出来ていないが、話題があまりにも多い本なので、これは致し方がないだろう。
この20年の現代史を、二つの危機を軸にしながら俯瞰的に眺めた一冊で、現在の世界政治・世界経済を理解する上ではマストともいえる一冊だろう。
ニュースなどで断片的には知っていても、その全体的な流れはなかなか把握しづらく、本書の存在は極めて価値がある。
上下合わせて750ページという大著だが、今再びの経済の混迷を迎える中、是非じっくりと読んで考えたい本である。
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暴落――金融危機は世界をどう変えたのか 上 単行本 – 2020/3/18
購入を強化する
2008年の出来事を理解するための必読書が登場した…
複雑な金融概念をシンプルに説明しながら、
全世界にわたる危機前史と、
その破壊的影響を壮大に描いている。
――『ガーディアン』紙
金融危機についての本は数多いが、
世界的イベントとして捉えた著作はほとんどない…
本書は途方も無い規模をそなえた経済史であり…
読者は多くの驚きを得るだろう。
――『ウォールストリート・ジャーナル』紙
2019年ライオネル・ゲルバー賞受賞
『ニューヨーク・タイムズ』紙「2018年に注目を集めた100冊」
『エコノミスト』誌ベストブック2018
「1914年と2008年について、私たちが発する問いは驚くほど似ている。
大いなる安定はどのようにして終わりを迎えるのか。理解もできず、制御
不能に近い莫大なリスクはどうやって積み上がるのか。世界秩序の大規模
な構造転換は、突然の大変動のなかでどのようにして起きるのか。「時刻
表に従って次々と到着する列車」のごとく登場する巨大な技術システムは、
どのように組み合わさって破滅を引き起こすのか。時代錯誤で旧態依然の
枠組みは、いかに私たちが身の回りの出来事を理解する邪魔をしているの
か。私たちは、夢遊病者よろしく危機に突入してしまったのか。それとも、
闇の勢力が私たちを危機へと押しやったのか。その後に発生した人為的な
大惨事は、誰の責任なのか…」(最終章より)
*
上巻ではサブプライム危機の前史から、大西洋を挟んだ欧米間での金融構造の生成、
リーマンをはじめとする金融危機の勃発、その救済と世界への波及、
オバマ政権による刺激プログラムまでをあつかう。
全2巻
[上巻:目次抄]
第I部 嵐の予兆
第II部 世界的危機
原注
[下巻:目次抄]
第III部 ユーロ圏
第IV部 余波
人名索引/原注
複雑な金融概念をシンプルに説明しながら、
全世界にわたる危機前史と、
その破壊的影響を壮大に描いている。
――『ガーディアン』紙
金融危機についての本は数多いが、
世界的イベントとして捉えた著作はほとんどない…
本書は途方も無い規模をそなえた経済史であり…
読者は多くの驚きを得るだろう。
――『ウォールストリート・ジャーナル』紙
2019年ライオネル・ゲルバー賞受賞
『ニューヨーク・タイムズ』紙「2018年に注目を集めた100冊」
『エコノミスト』誌ベストブック2018
「1914年と2008年について、私たちが発する問いは驚くほど似ている。
大いなる安定はどのようにして終わりを迎えるのか。理解もできず、制御
不能に近い莫大なリスクはどうやって積み上がるのか。世界秩序の大規模
な構造転換は、突然の大変動のなかでどのようにして起きるのか。「時刻
表に従って次々と到着する列車」のごとく登場する巨大な技術システムは、
どのように組み合わさって破滅を引き起こすのか。時代錯誤で旧態依然の
枠組みは、いかに私たちが身の回りの出来事を理解する邪魔をしているの
か。私たちは、夢遊病者よろしく危機に突入してしまったのか。それとも、
闇の勢力が私たちを危機へと押しやったのか。その後に発生した人為的な
大惨事は、誰の責任なのか…」(最終章より)
*
上巻ではサブプライム危機の前史から、大西洋を挟んだ欧米間での金融構造の生成、
リーマンをはじめとする金融危機の勃発、その救済と世界への波及、
オバマ政権による刺激プログラムまでをあつかう。
全2巻
[上巻:目次抄]
第I部 嵐の予兆
第II部 世界的危機
原注
[下巻:目次抄]
第III部 ユーロ圏
第IV部 余波
人名索引/原注
- 本の長さ432ページ
- 言語日本語
- 出版社みすず書房
- 発売日2020/3/18
- ISBN-104622088746
- ISBN-13978-4622088745
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出版社より
経済史と地政学の知見を組み合わせて示す2008年リーマン・ショック後の世界経済、直近10年の記録!
上巻ではサブプライム危機の前史から、大西洋を挟んだ欧米間での金融構造の生成、リーマンをはじめとする金融危機の勃発、その救済と世界への波及、オバマ政権による刺激プログラムまでをあつかう。
商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
上巻ではサブプライム危機の前史から、大西洋を挟んだ欧米間での金融構造の生成、リーマンショックをはじめとする金融危機の勃発、その後の救済と世界への波及、オバマ政権による刺激プログラムまでをあつかう。
著者について
アダム・トゥーズ(Adam Tooze)
コロンビア大学歴史学教授。ロンドン生まれ。イングランドとドイツのハイデルベルクで
育つ。1989年夏にケンブリッジ大学キングス・カレッジで経済学の学士号取得。ベルリン
で冷戦の崩壊を目撃し、同地の大学院で研究を始める。ロンドン・スクール・オブ・エコ
ノミクスで博士号取得。1996-2009年にはケンブリッジ大学で教鞭をとる(現代史准教授、
およびジーザス・カレッジのガーニー・ハート・フェロー)。その後、イェール大学のバー
トン・M・ビッグス教授。同大学ではポール・ケネディの後任として国際安全保障研究所
所長も務める。2015年から現職。著書 Statistics and the German State: The Making of
Modern Economic Knowledge (Cambridge University Press, 2001); The Wages of Destruction:
The Making and Breaking of the Nazi Economy (Allen Lane, 2006, ウォルフソン・ヒス
トリー・プライズ受賞)〔『ナチス 破壊の経済』全2巻、山形・森本訳、みすず書房〕;
The Deluge: The Great War, America and the Remaking of the Global Order, 1916-1931
(Viking, 2014); Crashed: How a Decade of Financial Crises Changed the World (Viking, 2018)
〔『暴落』全2巻、江口・月沢訳、みすず書房〕ほか。
江口泰子(えぐち・たいこ)
翻訳家。バラバシ『ザ・フォーミュラ』(光文社、2019)パトリカラコス『140字の戦争』
(早川書房、2019)ウォーターズ『ストレングス・スイッチ』(光文社、2018年)ほか。
月沢李歌子(つきさわ・りかこ)
翻訳家。マクリスタル他『LEADERS』(日経BP、2019)バーネット他『やせる経済学』(ダ
イヤモンド社、2019年)ピリウーチ『迷いを断つためのストア哲学』(早川書房、2019)
ほか。
コロンビア大学歴史学教授。ロンドン生まれ。イングランドとドイツのハイデルベルクで
育つ。1989年夏にケンブリッジ大学キングス・カレッジで経済学の学士号取得。ベルリン
で冷戦の崩壊を目撃し、同地の大学院で研究を始める。ロンドン・スクール・オブ・エコ
ノミクスで博士号取得。1996-2009年にはケンブリッジ大学で教鞭をとる(現代史准教授、
およびジーザス・カレッジのガーニー・ハート・フェロー)。その後、イェール大学のバー
トン・M・ビッグス教授。同大学ではポール・ケネディの後任として国際安全保障研究所
所長も務める。2015年から現職。著書 Statistics and the German State: The Making of
Modern Economic Knowledge (Cambridge University Press, 2001); The Wages of Destruction:
The Making and Breaking of the Nazi Economy (Allen Lane, 2006, ウォルフソン・ヒス
トリー・プライズ受賞)〔『ナチス 破壊の経済』全2巻、山形・森本訳、みすず書房〕;
The Deluge: The Great War, America and the Remaking of the Global Order, 1916-1931
(Viking, 2014); Crashed: How a Decade of Financial Crises Changed the World (Viking, 2018)
〔『暴落』全2巻、江口・月沢訳、みすず書房〕ほか。
江口泰子(えぐち・たいこ)
翻訳家。バラバシ『ザ・フォーミュラ』(光文社、2019)パトリカラコス『140字の戦争』
(早川書房、2019)ウォーターズ『ストレングス・スイッチ』(光文社、2018年)ほか。
月沢李歌子(つきさわ・りかこ)
翻訳家。マクリスタル他『LEADERS』(日経BP、2019)バーネット他『やせる経済学』(ダ
イヤモンド社、2019年)ピリウーチ『迷いを断つためのストア哲学』(早川書房、2019)
ほか。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
トゥーズ,アダム
コロンビア大学歴史学教授。ロンドン生まれ。イングランドとドイツのハイデルベルクで育つ。1989年夏にケンブリッジ大学キングス・カレッジで経済学の学士号取得。ベルリンの大学院で研究を始める。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで博士号取得。1996‐2009年にはケンブリッジ大学で教鞭をとる(現代史准教授、およびジーザス・カレッジのガーニー・ハート・フェロー)。その後、イェール大学のバートン・M・ビッグス教授。同大学では国際安全保障研究所所長も務める。2015年から現職(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
コロンビア大学歴史学教授。ロンドン生まれ。イングランドとドイツのハイデルベルクで育つ。1989年夏にケンブリッジ大学キングス・カレッジで経済学の学士号取得。ベルリンの大学院で研究を始める。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで博士号取得。1996‐2009年にはケンブリッジ大学で教鞭をとる(現代史准教授、およびジーザス・カレッジのガーニー・ハート・フェロー)。その後、イェール大学のバートン・M・ビッグス教授。同大学では国際安全保障研究所所長も務める。2015年から現職(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
登録情報
- 出版社 : みすず書房 (2020/3/18)
- 発売日 : 2020/3/18
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 432ページ
- ISBN-10 : 4622088746
- ISBN-13 : 978-4622088745
- Amazon 売れ筋ランキング: - 285,872位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 158位世界の経済事情
- - 11,081位投資・金融・会社経営 (本)
- カスタマーレビュー:
カスタマーレビュー
5つ星のうち4.5
星5つ中の4.5
7 件のグローバル評価
評価はどのように計算されますか?
全体的な星の評価と星ごとの割合の内訳を計算するために、単純な平均は使用されません。その代わり、レビューの日時がどれだけ新しいかや、レビューアーがAmazonで商品を購入したかどうかなどが考慮されます。また、レビューを分析して信頼性が検証されます。
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
ベスト500レビュアー
Amazonで購入
3人のお客様がこれが役に立ったと考えています
役に立った
ベスト1000レビュアーVINEメンバー
Adam Toozeの新刊。といっても出版は約一年前、paperback版を待っていた。Adam Toozeは今人気の歴史学者。ただ彼のアプローチはいわゆるInternational History、俗な言葉を使えば、国際関係史、それも各国の政治だけではなく経済もその射程におりこんだ重厚なストーリーを展開する書き手。今回はサブタイトルに示されているように、金融に正面から取り組んだ作品だ。前作のDelugeは結論が明確でなく、失敗作と思える作品だったが、本作では彼一流のわかりにくい英語の使い方もだいぶ抑制されており、必読ともいうべき作品に仕上がっている。
本書の狙いは、2007年に発生した金融危機がその後の十年の間にどのように世界を変えたのかを探ることにある。彼はもともとは金融を専門とする学者ではないのだが、金融というtechnocraticな題材のディテールを見事に咀嚼し、金融を専門とするスペシャリストが読んでも十分満足の行く仕上がりとなっている。金融という専門領域は、著者の国際関係に関する見解の下でその政治性が抽出、整理されることにより、この十年間にどのように国際秩序の構造が変化したかについてより深い理解が得られるような仕上がりになっている。もはや金融は金融というサブシステムに閉じ込められるのではなく、世界政治の構造の決定要因として機能しているわけで、政治と金融が国際関係という枠組みの中で整理されることにより、21世紀の新しい秩序構築のダイナミクスがわかりやすく提示される。
2007年直前までの政策当事者の関心は表面の数字の分析のみを見ており、米国の財政赤字とUS Treasuryの海外(特に中国)依存が示唆するドル危機だったのだが、リーマン危機が明らかにしたのは、米ドルに決定的に依存した国際金融秩序の政治性だった。株主資本主義の影響下で不用意に極端にまでleverageを追求した欧州銀行は、結果として米ドル短期金融市場に依拠したいびつな調達構造を抱え込むことになる。そのいびつな調達構造は、究極のところで自前の与信分析能力が欠落したアメリカのhyper sensitiveな投資家(Money Market Funds)に自分の急所を握らせるような行為であり、repo市場の機能不全を引き起こした証券化市場の崩壊とユーロ危機により、もろくもその砂上の楼閣は崩れ去ったというわけだ。
そもそも米国の当事者であるFedまでもが、これに気が付かずに、リーマンを破綻させてしまった。もっともこれが世界の崩壊につながらなかったのは、ひとえにUS Fedによる新種の米ドル供給プログラムの整備と各国とのスワップ協定のおかげ。つまり国際金融秩序のgovernanceなるものは、そのjargonを脱色してしまうと、米ドルを頂点とする階層的な構造だったというわけだ。崩壊した巨大な短期金融市場の受け皿はいうまでもなく米ドルのTreasury marketしかない。財政赤字の海外依存なるものの危険性の「まやかし」と米ドル危機の論拠の薄っぺらさが明らかになったというわけだ。ここはModern Monetary Theoryの考え方とも一部かぶってくる部分だ。US Treasuryを売却してどこにお金をパークするのか?そしてUSDの外為市場での売却なんて可能なのか、という国際金融の難問なのだ。著者の叙述はMMTまで議論は進められないが、この国際金融秩序の政治性を見事に描いている。
次に著者が分析の焦点を向けるのがユーロだ。ここで明らかにされるのは、ユーロというprojectの抱えた本質的な矛盾とそこに向かい合うユーロの政策担当者の情けないまでの政治的な硬直性と知的破算なのだ。共通の財政並びに銀行規制の枠組みに欠落するユーロの下で露呈されたのは、またしても、欧州銀行のあわれなまでのリスク管理能力の欠如の下でのPIGSへの巨額の与信なのだ。「Extend and Pretend」という究極のforbearance policy(先延ばし政策)でinsolventに陥った欧州銀行をウルトラCで救い出したのは、ユーロという美名のもとで、自国の庭をきれいにしたいという究極の政治リアリズムだ。もっともこの政治リアリズムは、ユーロというシステム全体での整合性の確保という政治的決断にまでは到達できず、グロテスクなまでのドイツのordo-liberalismに首根っこを押さえられている。このBundesbankの背後にあるordo-liberalism はその背景と誕生についてはもっと深い分析が必要だろうが、このドイツ内政上の闇がもたらす影響力についてはそれなりのスペースが割かれている。しかしこのリアリズムは腐臭を漂わせている。一方ではDominique Strauss KahnやChristine Lagardeというトロイの木馬を通じてIMFを無理やりに欺瞞のGreek bail-out schemeへ引き込み、そしてnaiveを装った中での旧東欧並びにウクライナへのユーロプロジェクトの延長という無責任な冒険主義を生み出し、人権侵害には目をつむりながら「蜃気楼の」商業利益につられての対中接近というわけだ。
この混乱から最終的に生み出されたのが、brexitそしてTrumpの大統領当選というわけだ。民主政治と資本主義のtechnocraticな統治の間の矛盾は結果として巨大な不平等の拡大再生産を生み出しており、これに既存の政党システム(米国の共和党の知的破算やドイツのSPD/CDUなどの長期的な党勢衰退)はすでに対応能力を喪失しており、そこにこれらの「意外」ともいうべき政治的な選択が生じるというわけだ。最後は著者の悪い癖だろうか、唐突に1914年と現在の比較というモノローグに陥っており、どうもわかりにくい。また本書では中国という存在が一つの重要なテーマであったが、さすがに著者でも中国の話題を縦横無尽に料理するまではいかなかった。さて日本。悲しいかな、本書では米国の勢力圏の従属的な駒としての言及しかないのだ。
ところでナチの経済政策を扱った著者の処女作「The Wages of Destruction」が翻訳で近日中に出版されるようだが、こちらの方の翻訳の方が重要性が高いと思われるのだが。
本書の狙いは、2007年に発生した金融危機がその後の十年の間にどのように世界を変えたのかを探ることにある。彼はもともとは金融を専門とする学者ではないのだが、金融というtechnocraticな題材のディテールを見事に咀嚼し、金融を専門とするスペシャリストが読んでも十分満足の行く仕上がりとなっている。金融という専門領域は、著者の国際関係に関する見解の下でその政治性が抽出、整理されることにより、この十年間にどのように国際秩序の構造が変化したかについてより深い理解が得られるような仕上がりになっている。もはや金融は金融というサブシステムに閉じ込められるのではなく、世界政治の構造の決定要因として機能しているわけで、政治と金融が国際関係という枠組みの中で整理されることにより、21世紀の新しい秩序構築のダイナミクスがわかりやすく提示される。
2007年直前までの政策当事者の関心は表面の数字の分析のみを見ており、米国の財政赤字とUS Treasuryの海外(特に中国)依存が示唆するドル危機だったのだが、リーマン危機が明らかにしたのは、米ドルに決定的に依存した国際金融秩序の政治性だった。株主資本主義の影響下で不用意に極端にまでleverageを追求した欧州銀行は、結果として米ドル短期金融市場に依拠したいびつな調達構造を抱え込むことになる。そのいびつな調達構造は、究極のところで自前の与信分析能力が欠落したアメリカのhyper sensitiveな投資家(Money Market Funds)に自分の急所を握らせるような行為であり、repo市場の機能不全を引き起こした証券化市場の崩壊とユーロ危機により、もろくもその砂上の楼閣は崩れ去ったというわけだ。
そもそも米国の当事者であるFedまでもが、これに気が付かずに、リーマンを破綻させてしまった。もっともこれが世界の崩壊につながらなかったのは、ひとえにUS Fedによる新種の米ドル供給プログラムの整備と各国とのスワップ協定のおかげ。つまり国際金融秩序のgovernanceなるものは、そのjargonを脱色してしまうと、米ドルを頂点とする階層的な構造だったというわけだ。崩壊した巨大な短期金融市場の受け皿はいうまでもなく米ドルのTreasury marketしかない。財政赤字の海外依存なるものの危険性の「まやかし」と米ドル危機の論拠の薄っぺらさが明らかになったというわけだ。ここはModern Monetary Theoryの考え方とも一部かぶってくる部分だ。US Treasuryを売却してどこにお金をパークするのか?そしてUSDの外為市場での売却なんて可能なのか、という国際金融の難問なのだ。著者の叙述はMMTまで議論は進められないが、この国際金融秩序の政治性を見事に描いている。
次に著者が分析の焦点を向けるのがユーロだ。ここで明らかにされるのは、ユーロというprojectの抱えた本質的な矛盾とそこに向かい合うユーロの政策担当者の情けないまでの政治的な硬直性と知的破算なのだ。共通の財政並びに銀行規制の枠組みに欠落するユーロの下で露呈されたのは、またしても、欧州銀行のあわれなまでのリスク管理能力の欠如の下でのPIGSへの巨額の与信なのだ。「Extend and Pretend」という究極のforbearance policy(先延ばし政策)でinsolventに陥った欧州銀行をウルトラCで救い出したのは、ユーロという美名のもとで、自国の庭をきれいにしたいという究極の政治リアリズムだ。もっともこの政治リアリズムは、ユーロというシステム全体での整合性の確保という政治的決断にまでは到達できず、グロテスクなまでのドイツのordo-liberalismに首根っこを押さえられている。このBundesbankの背後にあるordo-liberalism はその背景と誕生についてはもっと深い分析が必要だろうが、このドイツ内政上の闇がもたらす影響力についてはそれなりのスペースが割かれている。しかしこのリアリズムは腐臭を漂わせている。一方ではDominique Strauss KahnやChristine Lagardeというトロイの木馬を通じてIMFを無理やりに欺瞞のGreek bail-out schemeへ引き込み、そしてnaiveを装った中での旧東欧並びにウクライナへのユーロプロジェクトの延長という無責任な冒険主義を生み出し、人権侵害には目をつむりながら「蜃気楼の」商業利益につられての対中接近というわけだ。
この混乱から最終的に生み出されたのが、brexitそしてTrumpの大統領当選というわけだ。民主政治と資本主義のtechnocraticな統治の間の矛盾は結果として巨大な不平等の拡大再生産を生み出しており、これに既存の政党システム(米国の共和党の知的破算やドイツのSPD/CDUなどの長期的な党勢衰退)はすでに対応能力を喪失しており、そこにこれらの「意外」ともいうべき政治的な選択が生じるというわけだ。最後は著者の悪い癖だろうか、唐突に1914年と現在の比較というモノローグに陥っており、どうもわかりにくい。また本書では中国という存在が一つの重要なテーマであったが、さすがに著者でも中国の話題を縦横無尽に料理するまではいかなかった。さて日本。悲しいかな、本書では米国の勢力圏の従属的な駒としての言及しかないのだ。
ところでナチの経済政策を扱った著者の処女作「The Wages of Destruction」が翻訳で近日中に出版されるようだが、こちらの方の翻訳の方が重要性が高いと思われるのだが。





