コンピュータネットワークによる情報通信で使うための、暗号技術を網羅して解説した本である。読者対象に、技術者に加えて一般のネットワーク利用者まで含め、理解しやすいように配慮している。技術だけでなく、背景や歴史、関連話題も書き込んであり、まさに暗号技術の百科事典と言える。
本書は原著『Applied Cryptography』第2版の翻訳である。まず暗号の技法の基礎を、鍵の長さや管理等について述べている。続いて、暗号アルゴリズムを体系的に分類して、それぞれの内容を、数学的裏付けとアルゴリズム自体について説明している。ここでは、公開鍵暗号、DES、RSA、DSAといった暗号の基本的な話題を、種々の変種や改良を含めて詳しく解説している。一方向ハッシュ関数、楕円曲線暗号、有限オートマトンを使った公開鍵暗号などにも触れている。
暗号技術に関連する話題として、通信プロトコルや疑似ランダムシーケンスに関する詳細な記述もある。中でも、ディジタル署名の技術は重要である。また電子投票や電子通貨などの話題も登場する。巻末の1600件余の論文リストが充実しており、その中には日本の著者たちが学会誌等に日本語で発表した論文も多数含まれている。付録として、DES、LOKI91、IDEA、GOST、Blowfish、3-Way、RC5、A5、SEALの9通りのC言語ソースコードを、約50頁にわたって掲載している。プログラムの注釈は和訳してあり、使いやすい。
ひとつだけ問題点をあげるなら、原著の出版が1996年であり、暗号技術の最近の進展を補う必要があることである。監訳者が述べているように、AESなどいくつかの新しい方式が現れているが、実用上で本書の内容を大幅に揺るがすには至っていない。
全体で800頁を越える本書は、14人による分担翻訳であるが、監訳者による統一がとれていて読みやすい。適宜訳注を補ってあり、上記のAESについてもそこで触れている(p.304)。本書は、数ある暗号技術の本の中でも、特におすすめの1冊である。(有澤 誠)
内容(「MARC」データベースより)
簡単な歴史から始まり、基礎的な概念から数学的な基礎、実際のアルゴリズムへの応用、さらにはそれを実装するCのソースコードまで、あらゆる意味での暗号を本格的に解説。暗号に関する世界的バイブルの日本語訳。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
シュナイアー,ブルース
イリノイ州オークパークにある暗号とコンピュータセキュリティ専門コンサルティングを行うCounterpane Systemsの社長で、E‐Mail Security(John Wiley & Sons,1995、邦訳:『E‐Mailセキュリティ』、オーム社)、Protect Your Macintosh(Peachpit Press,1994)の著者でもある。またメジャーな雑誌に何十もの暗号についての記事を執筆。Dr.Dobbs Journalの寄稿編集者で、“Algorithms Alley”(アルゴリズムの道)というコラムを編集。Computer and Communication Security Reviewsの寄稿編集者でもある。さらに、IACR理事会役員で、EPIC諮問委員会の委員で、New Security Paradigms Workshopのプログラム委員会にも席を置いている。それに加えて、時間を見つけては暗号、コンピュータセキュリティ、プライバシーについてしばしば講演を行っている
山形/浩生
1964年東京生まれ。東京大学工学系研究科都市工学専攻、マサチューセッツ工科大学不動産センター修士課程修了。大手シンクタンクで地域開発やODA関連調査のかたわら、翻訳、執筆活動を行なう
安達/真弓
宮城県出身。会社員を経て、現在はフリーランスでプレスリリースの翻訳や出版翻訳にたずさわる
新井/俊一
1978年生まれ。中学校卒業後、独学でソフトウェア全般の研究開発を開始する。2002年に有限会社メロートーンを設立、取締役社長。現在は、経済産業省及びIPAの未踏ソフトウェア創造事業の資金を受けて、音楽情報科学を応用したソフトウェアの研究開発に取り組む
緒方/理友
情報セキュリティ関連業務に従事。侵入検知システムの導入や関連教育に携わったのち、現在はセキュリティ監査技術を研究している。シニアリスクコンサルタント(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)