チベット密教には三種類の女性原理<(1)忿怒相の立像の女神。(2)インド仏教の哲学的概念を具現化した坐像の女神。(3)自分より大きい男神と抱擁・合体する女神。>(p.43)が存在する。そして、チベット独自の(3)が行われた理由は、「合体修行を行う男女の身体には女性原理と男性原理のエネルギーが流れており、男性は自分自身を女神として観想し、女性はその逆を行うことで、合体修行を行う個々人の中で女性原理と男性原理の二つの力(これは、性交を通して一定方向に向けることができる)が活性化し、統合する。」(p.45)からだと言う。
仏教史的には、ヒンドゥー教の隆盛に対抗するために、仏性理論より仏性実践を重視する後期密教が誕生した。仏性実践には、ヒンドゥー教シャークタ(性力)派のタントラやシャクティ(性力)信仰を導入し、仏教思想でアレンジした男性原理(精神・智・方便・金剛界)と女性原理(肉体・感・般若・胎蔵界)の合体(性交)修行である無上瑜伽を最上とした。性力派では、下半身のチャクラからプラーナを頭頂に導くこと(ジョル)が最上とされ、性交がその最も効果的な方法とされた。それがそのままチベットに移入されたのである。
釈尊は、相応部経典の『Anapanasati-sutta(出入息念経)』で四念処法の実践的修行法を説いたが、ウェダナー(感情=心所)およびチッタ(心=心王)の瞑想修行で喜楽や心悦が達成されるとした。性交を行う男女修行者には喜楽や心悦と類似した体験を得た者もいたに違いない。しかしそれは、煩悩を減じ功徳を増やした上で自然に体験する修行ではなく、麻薬で得られる幻覚のようなものである場合が遙かに多い。焦る必要はない。四沙門果の第一段階であるシュダオンの聖者になるためには、素直な心と継続的な向上心があれば十分である。
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