クリスティーによる物語も、中村妙子さんの日本語訳もすばらしいです。
これまでに読んだクリスティーの作品で、最も日本語訳が好きだと思う作品です。
ストーリーについては、他の方も多く書かれているので、ここでは、訳について少しレビューしたいと思います。
例えば、
車の車輪が泥に取られたため、作業をする男たちの描写
「……サンドイッチを食べ食べ、二人の男がスコップで泥を掘ったり、ジャッキを投げ合ったり、…。男たちは悪態をつきつき、汗を流しながら働き、車輪は怒ったような唸り声をあげて空廻りした。」
「食べ食べ」「つきつき」とは、日常的にそう使われる言葉ではなく、部分的に抜き出してもしっくりこないかもしれません。
でも、文章中で読むと、とてもリズム感が良く、男たちが活発に作業する様子が、読みながら感覚としてよく伝わりました。
これは、一例に過ぎませんが、すばらしい訳だと思います。
「春にして君を離れ」というタイトルは、シェイクスピアの詩の一節から抜き出したもので、英語では「Absent in the Spring」というようです。
このタイトルの訳が中村妙子さんオリジナルかどうか、私が少し調べてもわからなかったのですが、これもまた、素敵な言葉ですね。
機械的な訳ではとても生み出せないタイトル、日本語訳だと思います。
以下、直接関係のない話ですが、
ソフトやプログラムを用いた翻訳が発達して、じきに人間が行う翻訳の仕事がなくなるのではないか、という話を聞いたことがあります。
しかし、本作を読んで、それはまだまだ難しいと実感しました。
うまく言えないのですが、物語を翻訳するという行為は、機械的なものでは決してなく、小説を執筆することと同様、文学作品として創作するということに近いものではないかと、本作を通して思いました。
春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫) (日本語) 文庫 – 2004/4/16
アガサ・クリスティー
(著)
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本の長さ331ページ
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言語日本語
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出版社早川書房
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発売日2004/4/16
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ISBN-104151300813
-
ISBN-13978-4151300813
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
優しい夫、よき子供に恵まれ、女は理想の家庭を築き上げたことに満ち足りていた。が、娘の病気見舞いを終えてバグダッドからイギリスへ帰る途中で出会った友人との会話から、それまでの親子関係、夫婦の愛情に疑問を抱きはじめる…女の愛の迷いを冷たく見据え、繊細かつ流麗に描いたロマンチック・サスペンス。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
クリスティー,アガサ
1890年、保養地として有名なイギリスのデヴォン州トーキーに生まれる。1914年に24歳でイギリス航空隊のアーチボルド・クリスティーと結婚し、1920年には長篇『スタイルズ荘の怪事件』で作家デビュー。1926年には謎の失踪を遂げる。様々な臆測が飛び交うが、10日後に発見された。1928年にアーチボルドと離婚し、1930年に考古学者のマックス・マローワンに出会い、嵐のようなロマンスののち結婚した。1976年に亡くなるまで、長篇、短篇、戯曲など、その作品群は100以上にのぼる。現在も全世界の読者に愛読されており、その功績をたたえて大英帝国勲章が授与されている
中村/妙子
東京大学文学部卒、英米文学翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1890年、保養地として有名なイギリスのデヴォン州トーキーに生まれる。1914年に24歳でイギリス航空隊のアーチボルド・クリスティーと結婚し、1920年には長篇『スタイルズ荘の怪事件』で作家デビュー。1926年には謎の失踪を遂げる。様々な臆測が飛び交うが、10日後に発見された。1928年にアーチボルドと離婚し、1930年に考古学者のマックス・マローワンに出会い、嵐のようなロマンスののち結婚した。1976年に亡くなるまで、長篇、短篇、戯曲など、その作品群は100以上にのぼる。現在も全世界の読者に愛読されており、その功績をたたえて大英帝国勲章が授与されている
中村/妙子
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2018年11月2日に日本でレビュー済み
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2018年6月17日に日本でレビュー済み
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アガサ クリステイーの作品は色々読ませていただいたのですが、この本は知りませんでした。
そして、こんな小説をおよそ100年も前に書かれていたのですね。
人の気持ちのわからない人、でも、自分ではそれでよいと思っていて、何も疑わない。
自分の信じている価値観で生きていて、それに属さない人は 間違っていると信じている。
今風にいえば 発達障害にもあたるのでしょうか。
子供の虐待にもつながることをしておきながら、自分はよき母 よき妻と信じて疑わない。
本人に悪気はないけれど、身近にいる人間は、一緒に生活しているのがつらくてしょうがない。
その当時ももちろんこういう人はいたのでしょうが、
教養ある上品な人間として振る舞われているので、
社会的には罪には問われず、本人も自分は正しい人間だと思っている。
こういう小説を書けるアガサはやはりすごい作家だと思います。
そして、こんな小説をおよそ100年も前に書かれていたのですね。
人の気持ちのわからない人、でも、自分ではそれでよいと思っていて、何も疑わない。
自分の信じている価値観で生きていて、それに属さない人は 間違っていると信じている。
今風にいえば 発達障害にもあたるのでしょうか。
子供の虐待にもつながることをしておきながら、自分はよき母 よき妻と信じて疑わない。
本人に悪気はないけれど、身近にいる人間は、一緒に生活しているのがつらくてしょうがない。
その当時ももちろんこういう人はいたのでしょうが、
教養ある上品な人間として振る舞われているので、
社会的には罪には問われず、本人も自分は正しい人間だと思っている。
こういう小説を書けるアガサはやはりすごい作家だと思います。
2019年3月2日に日本でレビュー済み
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ジョーンはホームから離れた地で、自分の今までを回想し、真相と思えるものにも手が届いていた。なのに。
変わったように見えたけれど元の場所に戻るとまた元通り、それってリアル。
旅行先での新鮮で刺激的な経験は家に戻ってしばらくすると薄れてくる。日常が舞い戻るから。
感じたことを忘れない為には、定期的に思い出すようにしないとな。写真やアルバムを見返すでもよさそう。
感情は揺れやすいものだから、気持ちよりも習慣や日常を変えないと本当の変化は訪れないのかも知れない。
他人は、自分が思うように感じているわけではない、という事は肝に命じておきたい。
ロドニーはいい旦那さんを全うしていると思う。
変わったように見えたけれど元の場所に戻るとまた元通り、それってリアル。
旅行先での新鮮で刺激的な経験は家に戻ってしばらくすると薄れてくる。日常が舞い戻るから。
感じたことを忘れない為には、定期的に思い出すようにしないとな。写真やアルバムを見返すでもよさそう。
感情は揺れやすいものだから、気持ちよりも習慣や日常を変えないと本当の変化は訪れないのかも知れない。
他人は、自分が思うように感じているわけではない、という事は肝に命じておきたい。
ロドニーはいい旦那さんを全うしていると思う。
2019年5月11日に日本でレビュー済み
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アガサクリスティーの作品はどれも好きですが、この作品だけは殺人とかその推理を楽しむいつものストーリーではなく、誰もが少しは持っている闇、決して見たくないものに気付かされるところに引きずり込まれました。若い時は自分自身というよりか、母と重ね合わせ考えさせられましたが、自分がこの主人公と近い歳になってくると心を刺されたような痛みを感じます。
この本は、殺人だけがミステリーじゃないと初めて気付かせてくれました。不思議な面白い本です。
この本は、殺人だけがミステリーじゃないと初めて気付かせてくれました。不思議な面白い本です。
2019年2月8日に日本でレビュー済み
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アガサクリティーなのにミステリーではない。
ミステリーと思い込んで読んでいたのだが人は死なない。
ある既婚女性の回顧が延々と語られる。夫や子供達、友達について。
ある日彼女は気づく。これまでの私は自己中心的で相手の気持ちなど一度も考えたたことがなかったのじゃないかと。そのときの焦り、困惑ぶりにゾッとする。
自分はどうなのか?と考えてしまうから。
サスペンスと言われれば確かにそうかもしれない。
自分がどんな人間か考えて自分が厭になったらどうしようかと。
結末でどうするのかと思っていたが、これでよかった。この方が楽だ私も。
ミステリーと思い込んで読んでいたのだが人は死なない。
ある既婚女性の回顧が延々と語られる。夫や子供達、友達について。
ある日彼女は気づく。これまでの私は自己中心的で相手の気持ちなど一度も考えたたことがなかったのじゃないかと。そのときの焦り、困惑ぶりにゾッとする。
自分はどうなのか?と考えてしまうから。
サスペンスと言われれば確かにそうかもしれない。
自分がどんな人間か考えて自分が厭になったらどうしようかと。
結末でどうするのかと思っていたが、これでよかった。この方が楽だ私も。
2019年8月20日に日本でレビュー済み
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個人的にアガサクリスティの代表作(オリエント急行殺人事件、ABC殺人事件、アクロイド殺し等)
は読んでいたのですが、この作品は恥ずかしながら未読でした。
評判が高かったので読み始めたところ、翻訳は非常にすばらしく読みやすい文章ではあるのですが、
読み進めるうちに次第に不穏な雰囲気があらわになってきて「どう考えてもハッピーエンドで終わらないだろ」
という不吉な予感しか感じられず、読み進めるのに非常に時間がかかりました。
終盤で明らかになる真相に(というか、主人公が真相に気がつく瞬間に)明らかなカタルシスはあるのですが、
その後の展開が、もうなんと言って良いのか分からないような重苦しい展開となり、
最後は主人公の旦那さんの重い独白で終わるという構成。
読んだ人は共感してくれると思うのだけど最後の一文を読んだ瞬間に、なんとも言えない気持ちに包まれました。
自分の人生に当てはめてみても、果たして主人公のような振る舞いをしてないか、と考え込んでしまいました。
この小説は殺人事件は無いですし、厳密な意味では推理小説ではないのかも知れないけれども、
アガサクリスティが残したものすごい名作だ、と個人的には思いました。
希有な読書体験をしたい人にオススメな1冊ですね。
は読んでいたのですが、この作品は恥ずかしながら未読でした。
評判が高かったので読み始めたところ、翻訳は非常にすばらしく読みやすい文章ではあるのですが、
読み進めるうちに次第に不穏な雰囲気があらわになってきて「どう考えてもハッピーエンドで終わらないだろ」
という不吉な予感しか感じられず、読み進めるのに非常に時間がかかりました。
終盤で明らかになる真相に(というか、主人公が真相に気がつく瞬間に)明らかなカタルシスはあるのですが、
その後の展開が、もうなんと言って良いのか分からないような重苦しい展開となり、
最後は主人公の旦那さんの重い独白で終わるという構成。
読んだ人は共感してくれると思うのだけど最後の一文を読んだ瞬間に、なんとも言えない気持ちに包まれました。
自分の人生に当てはめてみても、果たして主人公のような振る舞いをしてないか、と考え込んでしまいました。
この小説は殺人事件は無いですし、厳密な意味では推理小説ではないのかも知れないけれども、
アガサクリスティが残したものすごい名作だ、と個人的には思いました。
希有な読書体験をしたい人にオススメな1冊ですね。
2019年4月27日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
長くて、やや疲れた。ずっと心理描写だし。でも、他人について全く分からない、しかもそれに気づかない、自分が正しいと信じて疑わない主人公にぞっとする面白さを感じた。でも思い当たるフシはたくさんあるし気づき始めたのに、家に戻ったら無かったことにしたのはなんでだろう?弱いからってことかな?あと、なんだ気付ける能力あるんじゃん…と思ってしまった。でもこういう人もいるのか…。
他人の心を分かったつもりで、仲良いつもりで、実際は1ミリも分かってない、もしくはすげー見当違いな理解をしてるのかもしれないっていう恐怖がグッと来ました
他人の心を分かったつもりで、仲良いつもりで、実際は1ミリも分かってない、もしくはすげー見当違いな理解をしてるのかもしれないっていう恐怖がグッと来ました