開国・幕末期から大正政変まで明治期全体について20のテーマを設定し、最新の研究成果も踏まえてそれぞれの要点を概説した本。江戸以前と比較して、残されている資料の量も圧倒的に多く、もう研究すべきことはあまり残されていないようにも思えるが、これまで注目されていなかった資料を用いたり、通説、定説とされるものにあえて挑戦することで、多様な研究が続けられていることが本書を読んで良く分かった。例えば、皇室制度の研究は宮内省公文書の公開の進展と利用の簡便化によって、平成二十年代から活性化してきたとのこと。また、大日本帝国憲法の成立過程に関しては、本書の複数の執筆者が「通説的地位を占め続け」る、あるいは「到達点」、「鉄板的な通説」と呼ぶ稲田正次『明治憲法成立史』という著作が存在するが、異なる視点からそれに挑戦する研究が近年色々となされているようである。
アカデミアの研究者による執筆なので、驚くような説や見解が述べられるということはないが、例えば西南戦争について、西郷軍の軍事技術水準がこれまで考えられていたより高かったことが近年の発掘調査などから明らかになる一方、西郷軍にはない工兵隊を政府軍が持っていたことが熊本鎮台(熊本城)での籠城戦に有利に働いたことなど、技術的視点からの解説(第9講)などは興味深かった。また、台湾出兵を巡る欧米諸国への対応を通して明治政府が万国公法(国際法)への理解を深化させたこと(第7講)、藩閥政府に忠実であったと通説的には理解されている貴族院が、政党からだけではなく政府からも独立すべき存在として設立され、実際に政府を批判、追求する事例も種々あったこと(第14講)など教科書や一般的な概説では気付かない事実を色々と知ることが出来るのも有益である。
各テーマをある程度掘り下げて解説するには360ページを超えるページ数であっても20テーマくらいが限界なのは理解できるが、政治・外交や戦争にテーマが偏っているのは少し残念であった。教育や産業、科学技術、鉄道、通信の発達、あるいは地方史、特に北海道や沖縄の明治史など知りたいテーマも色々あり、続編が企画されることを期待したい。
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