現代の日本で、半藤さんより戦争に詳しい人はいないと思われる。世間では司馬遼太郎の「坂の上の雲」を以て、日露戦争の歴史をまなんだような気になっている連中(たとえば、国会議員のごとき)が多いが、司馬氏の作品は小説というフィクションで、歴史とは違う。何が違うかといえば、歴史とは史的真実というものを追求する学問の世界に属する文学だが、小説とは、文章を読むことで読者に快感を与える(感動と言いかえてもいい)ことを目的とする芸術に属する文学、つまり文藝である。日本は、近代化の途中でどこでどう間違ったか、「文藝」を「文学」と称することになったので、文士を文芸者(芸者)ではなく文学者(学者)と見て不必要なまでに小説家を尊重する傾向があるが、ウソを交える物語を作る小説家(芸者)が、いかにも史的真実を語っているような顔つきで歴史小説なるウソ話を語るのは、それこそ騙りというものである。このあたりの小説家のいやらしさに自ら気がついたのは大岡昇平で、大岡は最後になると、ホントに起こったことはこれだと「レイテ戦記」を書き上げた。その筆裁きぶりは、これが文学といえなくてもいい、この作品は小説じゃないのだと覚悟したものだ。小説家の大岡がである。大岡にとっては、それほど戦争という体験は過酷なものだった。とてもウソまじりで語れたものじゃなかったのである。従って、この作品が大岡の他の作品たとえば、「武蔵野婦人」や「野火」のようなものと違って著しく読みにくいものなのは、実際にこの長大な作品の一字一句を精読した者には納得がいくだろう。
さて、話は半藤氏にもどる。氏はつねづね自身を称して「歴史探偵」と言い、「歴史家」とも「小説家」ともいっていないが、ここに氏の歴史作家としての弱みがある。その弱みとは、どこまでも「史的真実」を追求しようとする覚悟に乏しく、つい話を読者に迎合する興味本位に流してしまうことである。氏が雑誌記者だったことを思えば当然といえるが、「史」と銘打つ以上はこれでは困る。どんな方面の歴史でも、資料というのはあくまで「点」だから、それに基づいて話をつくるには、点と点を線で結ばねばならない。この線がイマジネーション(想像)であるが、この能力の使用にあたってそこに如何に己の全重量をかけるかが史家の誠実というものになる。残念ながら「歴史小説家」は「歴史家」ではない。氏の歴史探偵とは、果たしてなにものか。「歴史家」でもなく、「歴史小説家」でもないという半端なもの書きの逃げ口上でなければ幸いなのだが。┄┄ともあれ、第1巻においては、総論風にのべた。引き続く感想は第2巻以後のレビューにおいて、具体的に展開したい。
日露戦争史1 (平凡社ライブラリー) (日本語) 文庫 – 2016/4/8
半藤 一利
(著)
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本の長さ399ページ
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言語日本語
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出版社平凡社
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発売日2016/4/8
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ISBN-104582768393
-
ISBN-13978-4582768398
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
太平洋戦争の真の敗因は日露戦争の“勝利”にある。この戦争を境にして、日本はそれまでと違う国に、日本人は別の人間になってしまった―そう考える著者が、日露開戦の背景から“勝利”までのプロセスを詳細に描いた長編ノンフィクション。第一巻は日英同盟、ロシアの背信、そして奇襲攻撃へ、開戦直後までの政府・軍部の攻防と国民の熱狂。日本人はこの戦争を境にどう変わり、今に至るのか?
著者について
(はんどう かずとし)
1930年、東京生まれ。東大卒業後、文藝春秋で「週刊文春」「文藝春秋」編集長などを経て作家。『日本のいちばん長い日』、『ノモンハンの夏』(山本七平賞)、『「真珠湾」の日』など著書多数。『昭和史』『昭和史 戦後篇』で毎日出版文化賞特別賞を受賞。2015年、菊池寛賞受賞。
1930年、東京生まれ。東大卒業後、文藝春秋で「週刊文春」「文藝春秋」編集長などを経て作家。『日本のいちばん長い日』、『ノモンハンの夏』(山本七平賞)、『「真珠湾」の日』など著書多数。『昭和史』『昭和史 戦後篇』で毎日出版文化賞特別賞を受賞。2015年、菊池寛賞受賞。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
半藤/一利
1930年、東京生まれ。東京大学文学部卒業後、文藝春秋入社。「週刊文春」「文藝春秋」編集長、取締役などを経て作家。著書は『日本のいちばん長い日』『漱石先生ぞな、もし』(正続、新田次郎文学賞)、『ノモンハンの夏』(山本七平賞)など多数。『昭和史 1926‐1945』『昭和史 戦後篇 1945‐1989』(平凡社)で毎日出版文化賞特別賞を受賞した。2015年、菊池寛賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1930年、東京生まれ。東京大学文学部卒業後、文藝春秋入社。「週刊文春」「文藝春秋」編集長、取締役などを経て作家。著書は『日本のいちばん長い日』『漱石先生ぞな、もし』(正続、新田次郎文学賞)、『ノモンハンの夏』(山本七平賞)など多数。『昭和史 1926‐1945』『昭和史 戦後篇 1945‐1989』(平凡社)で毎日出版文化賞特別賞を受賞した。2015年、菊池寛賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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上位レビュー、対象国: 日本
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2019年1月2日に日本でレビュー済み
司馬遼太郎『坂の上の雲』が、英雄の活躍する小説として痛快であるのに対し、本作はフィクションよりも事実を重視する。
開戦に至るまでの重苦しさ。開戦以来の薄氷を履むような勝利。事実の持つ迫力に圧倒される。
通読して思う事は、昭和の大敗戦に至る萌芽は、日露戦争に既に現れていたという事。
それは、本音を言えない社会において、建前が暴走するという事である。
ポーツマスで講和条約が結ばれた後、日比谷焼き討ち事件が起きた。一般には、日本が戦争に勝ったのに賠償金を取れなかった為、民衆の不満が爆発したとされている。
しかし戦争に勝ったというのは建前で、本当の所、日本には戦争を継続する為の資金も兵士も底をついていた。勝って講和したのではなく、持久戦でボロボロになる前に引き分けに持ち込んだという方が正しかった。
しかし当時の日本政府には、真実を明らかにする事ができなかった。そして、政府の心配を嗤うかのように、建前が暴走する。
現在でも、本音と建前を使い分けねばならない社会は、世界中に存在する。
日本は、日本国民は、どうだろうか。
開戦に至るまでの重苦しさ。開戦以来の薄氷を履むような勝利。事実の持つ迫力に圧倒される。
通読して思う事は、昭和の大敗戦に至る萌芽は、日露戦争に既に現れていたという事。
それは、本音を言えない社会において、建前が暴走するという事である。
ポーツマスで講和条約が結ばれた後、日比谷焼き討ち事件が起きた。一般には、日本が戦争に勝ったのに賠償金を取れなかった為、民衆の不満が爆発したとされている。
しかし戦争に勝ったというのは建前で、本当の所、日本には戦争を継続する為の資金も兵士も底をついていた。勝って講和したのではなく、持久戦でボロボロになる前に引き分けに持ち込んだという方が正しかった。
しかし当時の日本政府には、真実を明らかにする事ができなかった。そして、政府の心配を嗤うかのように、建前が暴走する。
現在でも、本音と建前を使い分けねばならない社会は、世界中に存在する。
日本は、日本国民は、どうだろうか。
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本書を読むと、日露戦争の遠因は1900年の北進事変にある。
北進事変の解決のために清国に出兵した列強10か国のうち、事変解決後他の国がすでに清国から引き揚げた後もなにかと言いがかりをつけロシアは清国内に勢力を拡大していた。
ロシアが清国・韓国に居座って我が国を脅かすようでは困る。日露は長い交渉を経たが、ロシア側はその帝国主義的拡大路線を変更することなく、その主張は益々エスカレート、満州全域と39度以北の朝鮮を自己の勢力範囲とすると言うことを日本に対する最期通牒とした。
ここに到って、日本は当時英国と結んでいた日英同盟を背景に対ロ外交断絶するに至ったのである。
開戦後の戦況については本書で詳しく述べられている。詳しすぎて頭にはいらないくらいである。
私が本書を読んで感じるのは,朝鮮こそ清国やロシアの進出から守るべき日本にとっての最後の砦であったということだ。
日清戦争前は朝鮮は清国の属国であった。日露戦争なかりせば、朝鮮はロシアの属国たる地位に甘んじなければならなかったろう。
第二次大戦後、韓国は独立し、その国是は対日報復であるらしい。しかし、私に言わせればそれは、お門違いというものだ。
日清、日露戦争、第二次世界大戦を通じてようやく韓国は独立国として認められた。日本のおかげで、なんとか今日の地位を築いているのであって、何かと言えば、竹島問題も慰安婦問題も日本の歴史認識の間違いだと主張する韓国こそ、よく歴史を学んでもらいたいものである。
北進事変の解決のために清国に出兵した列強10か国のうち、事変解決後他の国がすでに清国から引き揚げた後もなにかと言いがかりをつけロシアは清国内に勢力を拡大していた。
ロシアが清国・韓国に居座って我が国を脅かすようでは困る。日露は長い交渉を経たが、ロシア側はその帝国主義的拡大路線を変更することなく、その主張は益々エスカレート、満州全域と39度以北の朝鮮を自己の勢力範囲とすると言うことを日本に対する最期通牒とした。
ここに到って、日本は当時英国と結んでいた日英同盟を背景に対ロ外交断絶するに至ったのである。
開戦後の戦況については本書で詳しく述べられている。詳しすぎて頭にはいらないくらいである。
私が本書を読んで感じるのは,朝鮮こそ清国やロシアの進出から守るべき日本にとっての最後の砦であったということだ。
日清戦争前は朝鮮は清国の属国であった。日露戦争なかりせば、朝鮮はロシアの属国たる地位に甘んじなければならなかったろう。
第二次大戦後、韓国は独立し、その国是は対日報復であるらしい。しかし、私に言わせればそれは、お門違いというものだ。
日清、日露戦争、第二次世界大戦を通じてようやく韓国は独立国として認められた。日本のおかげで、なんとか今日の地位を築いているのであって、何かと言えば、竹島問題も慰安婦問題も日本の歴史認識の間違いだと主張する韓国こそ、よく歴史を学んでもらいたいものである。
2014年10月16日に日本でレビュー済み
日露戦争を戦ったたちは、明治維新を戦った人たち、そして、太平洋戦争の中心となる人たちだ。
当たり前だけど、歴史はつながっている。
政府は厭戦。マスコミ、国民、知識人は好戦的だった。 戦争以外の当時の世相についてもたくさん触れられていて面白い。
東京大学ラフカディオ・ハーン解雇、夏目金之助講師就任。月給400円から年俸800円に。節約の精神と、自国民で教育できるという自負がうかがわれる。
1904年2月4日開戦、2月24日金子堅太郎、講和対策のために米国に向かう。
素晴らしい。
当たり前だけど、歴史はつながっている。
政府は厭戦。マスコミ、国民、知識人は好戦的だった。 戦争以外の当時の世相についてもたくさん触れられていて面白い。
東京大学ラフカディオ・ハーン解雇、夏目金之助講師就任。月給400円から年俸800円に。節約の精神と、自国民で教育できるという自負がうかがわれる。
1904年2月4日開戦、2月24日金子堅太郎、講和対策のために米国に向かう。
素晴らしい。