本書は、14人の研究者が日本の近現代史を振り返り、そこから何を学べるかを考察するというのが主旨である。明治維新から現代に至るまで、分かり易く解説されているので、近現代史入門としてはうってつけの本である。
ただ、「おわりに」にあるように、本書の内容は、自民党本部で行われた「歴史を学び未来を考える本部」での講義が基になっている為か、やや日本に甘い傾向がある。
個人的に突っ込みどころを以下に。
・明治維新を立憲革命と定義しているが、戦前の日本の政治制度は立憲君主制とはとても呼べるものではない。また、日本ではただの1度も市民革命が起こった事はない。
・日露戦争をやたら評価しているが、実際は帝国主義国同士の争いでしかなく、日本は被支配者達の為に戦った訳ではない。また、非西欧の国が初めて西欧諸国に勝ったのは日本が初めてではなく、日露戦争の数百年前にフィリピンがマゼランと戦って撃退している。
・上記に関連して、日本は韓国を併合する際、西欧諸国の同意を取り付ける為、それらの国々の植民地の保有を認めた。日本が植民地の人々の為に戦った訳ではないのは明らかである。本書では、この事実を無視している。
・日韓基本条約及びそれに付随する一連の協定で請求権が解決されたと主張するが、これは誤りである。日本の国会答弁でも、個人の請求権は未だに認められているとされている。
いくつか間違いはあるものの、全体的には良い本だった。
日本近現代史講義-成功と失敗の歴史に学ぶ (中公新書) (日本語) 新書 – 2019/8/20
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本の長さ310ページ
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言語日本語
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出版社中央公論新社
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発売日2019/8/20
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ISBN-104121025547
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ISBN-13978-4121025548
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
明治維新から一五〇年余り。日本近現代史の研究は日々蓄積され、塗り替えられている。日本国内の閉じた歴史にとどまるのではなく、世界史と融合した新しい歴史を模索する流れが強まっている。明治維新に始まり、日清・日露戦争、第二次世界大戦、東京裁判と歴史認識問題、戦後日中関係、そして未来に向けた歴史観の問題まで。特定の歴史観やイデオロギーに偏らず実証を旨とする、第一線の研究者による入門一四講。
著者について
山内昌之
1947年、札幌市に生まれる。北海道大学文学部卒業。東京大学学術博士。カイロ大学客員助教授、東京大学助教授、ハーバード大学研究員、東京大学教授・同中東地域研究センター長などを経て、現在、武蔵野大学国際総合研究所特任教授。東京大学名誉教授。フジテレビジョン特任顧問と三菱商事顧問を兼ねる。国際関係史、中東イスラーム地域研究を専攻。司馬遼太郎賞受賞、紫綬褒章受章。著書に『スルタンガリエフの夢』(サントリー学芸賞)、『瀕死のリヴァイアサン』(毎日出版文化賞)、『ラディカル・ヒストリー』(吉野作造賞)、『岩波イスラーム辞典』(共編、毎日出版文化賞)などがある。
細谷雄一
1971年、千葉県に生まれる。立教大学法学部卒業。英国バーミンガム大学大学院国際関係学修士号取得(MIS)。慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程修了。博士(法学)。北海道大学専任講師などを経て、現在、慶應義塾大学法学部教授。著書に『戦後国際秩序とイギリス外交』(サントリー学芸賞)、『外交による平和』(政治研究櫻田會奨励賞)、『大英帝国の外交官』『外交』『倫理的な戦争』(読売・吉野作造賞)、『国際秩序』『歴史認識とは何か』『安保論争』『迷走するイギリス』などがある。
1947年、札幌市に生まれる。北海道大学文学部卒業。東京大学学術博士。カイロ大学客員助教授、東京大学助教授、ハーバード大学研究員、東京大学教授・同中東地域研究センター長などを経て、現在、武蔵野大学国際総合研究所特任教授。東京大学名誉教授。フジテレビジョン特任顧問と三菱商事顧問を兼ねる。国際関係史、中東イスラーム地域研究を専攻。司馬遼太郎賞受賞、紫綬褒章受章。著書に『スルタンガリエフの夢』(サントリー学芸賞)、『瀕死のリヴァイアサン』(毎日出版文化賞)、『ラディカル・ヒストリー』(吉野作造賞)、『岩波イスラーム辞典』(共編、毎日出版文化賞)などがある。
細谷雄一
1971年、千葉県に生まれる。立教大学法学部卒業。英国バーミンガム大学大学院国際関係学修士号取得(MIS)。慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程修了。博士(法学)。北海道大学専任講師などを経て、現在、慶應義塾大学法学部教授。著書に『戦後国際秩序とイギリス外交』(サントリー学芸賞)、『外交による平和』(政治研究櫻田會奨励賞)、『大英帝国の外交官』『外交』『倫理的な戦争』(読売・吉野作造賞)、『国際秩序』『歴史認識とは何か』『安保論争』『迷走するイギリス』などがある。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
山内/昌之
1947年札幌市生まれ。北海道大学大学院文学研究科博士課程修了。東京大学学術博士。現在、武蔵野大学国際総合研究所特任教授、ムハンマド五世大学客員教授。東京大学名誉教授。紫綬褒章受章。主著に『スルタンガリエフの夢』(サントリー学芸賞)、『瀕死のリヴァイアサン』(毎日出版文化賞)、『ラディカル・ヒストリー』(吉野作造賞)、『岩波イスラーム辞典』(共編、毎日出版文化賞)など
細谷/雄一
1971年千葉県生まれ。慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程修了。博士(法学)。現在、慶應義塾大学法学部教授。著書に『戦後国際秩序とイギリス外交』(サントリー学芸賞)、『倫理的な戦争』(読売・吉野作造賞)など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1947年札幌市生まれ。北海道大学大学院文学研究科博士課程修了。東京大学学術博士。現在、武蔵野大学国際総合研究所特任教授、ムハンマド五世大学客員教授。東京大学名誉教授。紫綬褒章受章。主著に『スルタンガリエフの夢』(サントリー学芸賞)、『瀕死のリヴァイアサン』(毎日出版文化賞)、『ラディカル・ヒストリー』(吉野作造賞)、『岩波イスラーム辞典』(共編、毎日出版文化賞)など
細谷/雄一
1971年千葉県生まれ。慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程修了。博士(法学)。現在、慶應義塾大学法学部教授。著書に『戦後国際秩序とイギリス外交』(サントリー学芸賞)、『倫理的な戦争』(読売・吉野作造賞)など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
登録情報
- 出版社 : 中央公論新社 (2019/8/20)
- 発売日 : 2019/8/20
- 言語 : 日本語
- 新書 : 310ページ
- ISBN-10 : 4121025547
- ISBN-13 : 978-4121025548
- Amazon 売れ筋ランキング: - 29,900位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
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2019年8月23日に日本でレビュー済み
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本書を読むにあたっては、できれば、山内先生が書いた序章と、瀧井が書いた第一章は飛ばして、第二章から読み始め、最後に序章、第一章の順に読み進むことを推奨する。それくらい、特に第一章の瀧井の文章は、他に比較して、面白くない。
まず「序章」である。山内先生の悪い癖だが、文章が晦渋なのである。よく読むとよいことが書いてあるのだが、とにかく日本語が硬い。硬すぎる。いわゆる岩波言葉で書いてあって、まるで外国語を読むようだ。山内先生が、いかに偏った言語環境の中で育ったかが分かる文章で、彼の場合、気合を込めて文章を書けば書くほど晦渋になる癖があるが、この序章は、その悪い見本みたいな文章である。
ついで第一章。瀧井は「伊藤博文」(中公新書)でサントリー学芸賞を受賞しているのだが、この第一章を読むと「瀧井の本なんか絶対に読むか!」と叫びたくなるような内容になっている。瀧井は法制史の専門家だそうだが、歴史を語る資質に欠けているとしか思えない。第一章の主眼は、明治時代を元気が出る歴史として描いた司馬遼太郎の「司馬史観」全否定にあるようなのだが、当然のことながら、瀧井の司馬否定の試みは失敗している。司馬は、しょせんは小説家である。講談師である。寄席で語る講談の内容について、大学教授が目を吊り上げて、どうする。大学教授には大学教授の世界があり、庶民には庶民の世界がある。司馬遼太郎が明治時代を元気が出る時代として描いたのは、そうした方が売れるからで、事実、司馬遼太郎はベストセラー作家になったのだが、ヒット作を連発する司馬遼太郎に、本が全く売れない大学教授が嫉妬するようになったのはお門違いで、住む世界が違うのである。テレビでやっている水戸黄門や遠山の金さんと、実在の徳川光圀、遠山金四郎は全くの別物だが、それでいいのである。本書の冒頭に瀧井一博を持ってきたのは、大失敗と言わざるをえない。
第二章の岡本隆司先生描く日清戦争は傑作と言っていい。昨今、脱構築なる奇怪なる「運動」があって、やたらと日清戦争の意義を否定し、まるで日本が中国を侵略したかのように描く「おバカな連中」が大量に出てきているが(代表例が中公新書「日清戦争」を書いた大谷正)、岡本先生は日清戦争の世界史的意義を強調してやまない。日清戦争こそは「東アジア史の分水嶺」なのであって、勃興する日本が停滞する中国を打ち負かしてアジアの主導権を奪った日清戦争は「ある意味で、現在も続いている」という指摘には、思わず膝を打つ。そして海によって隔てられ、海によって守られた我が日本と、地続きで連なる大陸国家群(中国、朝鮮、モンゴル、ロシアなど)では、その歴史観がまるで異なり、文字通り氷炭相容れざる状態にあるのであって、中国朝鮮は日本に対し「歴史を学べ」と上から目線でいちゃもんをつけてくるが、じゃあ歴史を学べば相互理解が進むかというと、そうではなく、岡本先生は、むしろ「歴史を学べば学ぶほど、相手が理解できなくなる」と評している。日本は、ルールに基づいた法治が馴染む西欧市民社会に類似した「近代社会」だが、中国や朝鮮は、その不幸な歴史的発展過程から、ルールや法律よりも権力や軍事力がものをいう人治社会である。この氷と炭のような隣国と簡単に理解しあえるものではないという「あきらめ」を、そろそろ全日本人が共有すべきというのが、岡本先生の教えである。
第三章の日露戦争については、細谷雄一先生は、日本海海戦で日本の連合艦隊がロシアのバルチック艦隊を全滅させた結果、当時の覇権国である大英帝国にとって、シーパワーとしてのロシアは消滅し、かえって大英帝国の外交オプションを増加させ、それが英露協商、英仏ロ協商と続く、ドイツ包囲網へと発展する契機となったという指摘は新鮮だった。「日本の軍事行動が、意図せずしてヨーロッパの大国間関係に巨大な影響」を及ぼすことは、現在も続いている現象であろう。
第四章の対華21か条要求を巡っては奈良岡先生が、第一次世界大戦勃発直後から日本国内に渦巻いた「欧州列強が中国問題に関与する余裕を失っている今こそ、日本が中国で権益を拡張するチャンスだ」とする火事場泥棒的な対中国強硬論の存在を指摘する。大隈重信がどうのとか、加藤高明がどうのとかではないのだ。日本人の多くが火事場泥棒思想のとりことなって舞い上がり、政治家に圧力をかけたのである。そしてその背景には「中国は日本の意のままになる客体である」とする中国をなめ切った間違った中国観が日本人の間に広く流布していたことを指摘している。まあ、政府がいくつもあって四分五裂し、事実上の失敗国家状態にあった当時の中国の状態をみれば、多くの日本人がそう思ったとしても、やむをえない面もある。当時の中国は今日のイラクやシリアみたいな国だったのであるから。
第五章で特筆されるのは、中国研究のエースである川島真先生が、日本の左翼研究者の間で根強い「日中一五年戦争説」を真っ向から否定している部分だ。江口圭一以下の共産主義シンパの左翼研究者は「日本の中国侵略は1931年の満州事変に始まる」とずっと言い続けてきたし、近年は中国共産党もこの15年戦争説に和している。これに対し川島先生は「しかし、実際のところ、塘沽停戦協定で満洲事変に区切りがついた1933年から盧溝橋事件のあった1937年までの間を「戦争」とするのには相当な無理がある」と言い切っている。覚えておこう。
面白かったのが第六章の小林道彦先生である。満洲事変を引き起こした関東軍は精鋭と言われるが、その現有兵力はわずか8800にすぎず、しかも作戦行動を支える後方兵站部隊は仙台にいたという。関東軍は基本が内地師団の持ち回りで、今日でいえば、イラクのサマワに派遣された陸上自衛隊みたいな存在だった。これが22万の大兵力を擁する張学良の東北軍と対峙していたのである。だから、ガチで正面衝突すれば衆寡敵しないはずだった。事実、その後の関東軍は苦戦を続け、内地からの応援がなければ継戦は不可能で、さすがの石原莞爾も「万策尽きた」と諦めかけていた。そこへアメリカから驚天動地のニュースが飛び込んでくる。幣原喜重郎外相からリークを受けたアメリカのスティムソン国務長官が「錦州爆撃は中止されるだろう」と記者会見するや、「幣原は関東軍の作戦行動について、勝手にアメリカと約束した。これは統帥権干犯である」と国会で大騒ぎになったのだ。北一輝が編み出した造語「統帥権干犯」は伝家の宝刀で、これで死に体に陥った関東軍が息を吹き返す。何のことはない。満洲事変は関東軍の暴走でも何でもない。暴走を支援したのは日本の国会議員たちだったのである。日本のメディアだったのである。
本書は2015年12月から2018年7月まで、自民党本部で行われた「歴史を学び未来を考える本部」で行われた講義録を基にまとめたものである。これだけ豪華な教授陣を動員し、これだけ突っ込んだ歴史講義を自由民主党という政党は組織し、学習しているのである。現在、安倍政権は8年目に突入し、11月には桂太郎を抜いて明治以来の憲政史上最長の政権になろうとしている。安倍内閣の支持率は8年目にしてなお急騰して58%という結果も出ている。こうした「奇跡のような強さを誇る安倍政権」の強さの背景には、本書に示されたような「学習する組織としての自由民主党」の存在があることを改めて思い知った。自由民主党万歳、安倍晋三万歳。
まず「序章」である。山内先生の悪い癖だが、文章が晦渋なのである。よく読むとよいことが書いてあるのだが、とにかく日本語が硬い。硬すぎる。いわゆる岩波言葉で書いてあって、まるで外国語を読むようだ。山内先生が、いかに偏った言語環境の中で育ったかが分かる文章で、彼の場合、気合を込めて文章を書けば書くほど晦渋になる癖があるが、この序章は、その悪い見本みたいな文章である。
ついで第一章。瀧井は「伊藤博文」(中公新書)でサントリー学芸賞を受賞しているのだが、この第一章を読むと「瀧井の本なんか絶対に読むか!」と叫びたくなるような内容になっている。瀧井は法制史の専門家だそうだが、歴史を語る資質に欠けているとしか思えない。第一章の主眼は、明治時代を元気が出る歴史として描いた司馬遼太郎の「司馬史観」全否定にあるようなのだが、当然のことながら、瀧井の司馬否定の試みは失敗している。司馬は、しょせんは小説家である。講談師である。寄席で語る講談の内容について、大学教授が目を吊り上げて、どうする。大学教授には大学教授の世界があり、庶民には庶民の世界がある。司馬遼太郎が明治時代を元気が出る時代として描いたのは、そうした方が売れるからで、事実、司馬遼太郎はベストセラー作家になったのだが、ヒット作を連発する司馬遼太郎に、本が全く売れない大学教授が嫉妬するようになったのはお門違いで、住む世界が違うのである。テレビでやっている水戸黄門や遠山の金さんと、実在の徳川光圀、遠山金四郎は全くの別物だが、それでいいのである。本書の冒頭に瀧井一博を持ってきたのは、大失敗と言わざるをえない。
第二章の岡本隆司先生描く日清戦争は傑作と言っていい。昨今、脱構築なる奇怪なる「運動」があって、やたらと日清戦争の意義を否定し、まるで日本が中国を侵略したかのように描く「おバカな連中」が大量に出てきているが(代表例が中公新書「日清戦争」を書いた大谷正)、岡本先生は日清戦争の世界史的意義を強調してやまない。日清戦争こそは「東アジア史の分水嶺」なのであって、勃興する日本が停滞する中国を打ち負かしてアジアの主導権を奪った日清戦争は「ある意味で、現在も続いている」という指摘には、思わず膝を打つ。そして海によって隔てられ、海によって守られた我が日本と、地続きで連なる大陸国家群(中国、朝鮮、モンゴル、ロシアなど)では、その歴史観がまるで異なり、文字通り氷炭相容れざる状態にあるのであって、中国朝鮮は日本に対し「歴史を学べ」と上から目線でいちゃもんをつけてくるが、じゃあ歴史を学べば相互理解が進むかというと、そうではなく、岡本先生は、むしろ「歴史を学べば学ぶほど、相手が理解できなくなる」と評している。日本は、ルールに基づいた法治が馴染む西欧市民社会に類似した「近代社会」だが、中国や朝鮮は、その不幸な歴史的発展過程から、ルールや法律よりも権力や軍事力がものをいう人治社会である。この氷と炭のような隣国と簡単に理解しあえるものではないという「あきらめ」を、そろそろ全日本人が共有すべきというのが、岡本先生の教えである。
第三章の日露戦争については、細谷雄一先生は、日本海海戦で日本の連合艦隊がロシアのバルチック艦隊を全滅させた結果、当時の覇権国である大英帝国にとって、シーパワーとしてのロシアは消滅し、かえって大英帝国の外交オプションを増加させ、それが英露協商、英仏ロ協商と続く、ドイツ包囲網へと発展する契機となったという指摘は新鮮だった。「日本の軍事行動が、意図せずしてヨーロッパの大国間関係に巨大な影響」を及ぼすことは、現在も続いている現象であろう。
第四章の対華21か条要求を巡っては奈良岡先生が、第一次世界大戦勃発直後から日本国内に渦巻いた「欧州列強が中国問題に関与する余裕を失っている今こそ、日本が中国で権益を拡張するチャンスだ」とする火事場泥棒的な対中国強硬論の存在を指摘する。大隈重信がどうのとか、加藤高明がどうのとかではないのだ。日本人の多くが火事場泥棒思想のとりことなって舞い上がり、政治家に圧力をかけたのである。そしてその背景には「中国は日本の意のままになる客体である」とする中国をなめ切った間違った中国観が日本人の間に広く流布していたことを指摘している。まあ、政府がいくつもあって四分五裂し、事実上の失敗国家状態にあった当時の中国の状態をみれば、多くの日本人がそう思ったとしても、やむをえない面もある。当時の中国は今日のイラクやシリアみたいな国だったのであるから。
第五章で特筆されるのは、中国研究のエースである川島真先生が、日本の左翼研究者の間で根強い「日中一五年戦争説」を真っ向から否定している部分だ。江口圭一以下の共産主義シンパの左翼研究者は「日本の中国侵略は1931年の満州事変に始まる」とずっと言い続けてきたし、近年は中国共産党もこの15年戦争説に和している。これに対し川島先生は「しかし、実際のところ、塘沽停戦協定で満洲事変に区切りがついた1933年から盧溝橋事件のあった1937年までの間を「戦争」とするのには相当な無理がある」と言い切っている。覚えておこう。
面白かったのが第六章の小林道彦先生である。満洲事変を引き起こした関東軍は精鋭と言われるが、その現有兵力はわずか8800にすぎず、しかも作戦行動を支える後方兵站部隊は仙台にいたという。関東軍は基本が内地師団の持ち回りで、今日でいえば、イラクのサマワに派遣された陸上自衛隊みたいな存在だった。これが22万の大兵力を擁する張学良の東北軍と対峙していたのである。だから、ガチで正面衝突すれば衆寡敵しないはずだった。事実、その後の関東軍は苦戦を続け、内地からの応援がなければ継戦は不可能で、さすがの石原莞爾も「万策尽きた」と諦めかけていた。そこへアメリカから驚天動地のニュースが飛び込んでくる。幣原喜重郎外相からリークを受けたアメリカのスティムソン国務長官が「錦州爆撃は中止されるだろう」と記者会見するや、「幣原は関東軍の作戦行動について、勝手にアメリカと約束した。これは統帥権干犯である」と国会で大騒ぎになったのだ。北一輝が編み出した造語「統帥権干犯」は伝家の宝刀で、これで死に体に陥った関東軍が息を吹き返す。何のことはない。満洲事変は関東軍の暴走でも何でもない。暴走を支援したのは日本の国会議員たちだったのである。日本のメディアだったのである。
本書は2015年12月から2018年7月まで、自民党本部で行われた「歴史を学び未来を考える本部」で行われた講義録を基にまとめたものである。これだけ豪華な教授陣を動員し、これだけ突っ込んだ歴史講義を自由民主党という政党は組織し、学習しているのである。現在、安倍政権は8年目に突入し、11月には桂太郎を抜いて明治以来の憲政史上最長の政権になろうとしている。安倍内閣の支持率は8年目にしてなお急騰して58%という結果も出ている。こうした「奇跡のような強さを誇る安倍政権」の強さの背景には、本書に示されたような「学習する組織としての自由民主党」の存在があることを改めて思い知った。自由民主党万歳、安倍晋三万歳。
ベスト1000レビュアー
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序章:令和から見た日本近現代史・・◎
第1章:立憲革命としての明治維新・・〇
第2章:日清戦争と東アジア・・〇
第3章:日露戦争と近代国際社会・・〇
第4章:第一次世界大戦と日中対立の原点・・〇
第5章:近代日中関係の変容期・・〇
第6章:政党内閣と満州事変・・〇
第7章:戦間期の軍縮会議と危機の外交・・〇
第8章:「南進」と対米開戦・・〇
第9章:米国の日本占領政策とその転換・・〇
第10章:東京裁判における法と政治・・△
第11章:日本植民地支配と歴史認識問題・・〇
第12章:戦後日中関係・・〇
第13章:ポスト平成に向けた歴史観の問題・・△
山内氏のやや読みにくいが内容が素晴らしい序章から始まります。自虐史観に捻じ曲げられた「〇〇新書」が多い中で本書はバランスの取れた優れた本と思われます。本文は短い章の集まりで読み易い本です。
第1章:立憲革命としての明治維新・・〇
第2章:日清戦争と東アジア・・〇
第3章:日露戦争と近代国際社会・・〇
第4章:第一次世界大戦と日中対立の原点・・〇
第5章:近代日中関係の変容期・・〇
第6章:政党内閣と満州事変・・〇
第7章:戦間期の軍縮会議と危機の外交・・〇
第8章:「南進」と対米開戦・・〇
第9章:米国の日本占領政策とその転換・・〇
第10章:東京裁判における法と政治・・△
第11章:日本植民地支配と歴史認識問題・・〇
第12章:戦後日中関係・・〇
第13章:ポスト平成に向けた歴史観の問題・・△
山内氏のやや読みにくいが内容が素晴らしい序章から始まります。自虐史観に捻じ曲げられた「〇〇新書」が多い中で本書はバランスの取れた優れた本と思われます。本文は短い章の集まりで読み易い本です。
殿堂入りベスト10レビュアー
本書の長所は、令和から各トピックを論じる視点と展望である。物足りなさは、各論文が比較的短く、詳論されて尽くしていないことである。第二編「立憲革命としての明治維新」は、大日本帝国憲法制定をどう世界史的に評価するかという問いに挑む。明治維新期における立憲革命はアジアに例を見ない画期的出来事であった。それは正当に評価出来よう。しかし、伊藤・大久保・岩倉らが選択したプロイセン型の欽定憲法は、形式的な三権分立の下、天皇主権の立憲主義である。しかも、統帥権は天皇大権に属し、軍の暴走を止めることが出来ない構造的欠陥があった。その上主権者である天皇は、神格化され、現人神であった。これは立憲君主制ではなく、絶対王政に近いものだ。「君臨すれども統治せず」原則=王権の形式化・象徴化はない。これが致命的欠陥である。こういう明治憲法の内容を見れば、立憲革命などとは、喜んでいられないはずだ。
本書をよく呼んで、令和から見た日本近現代史を正しく評価してほしい。
お勧めの一冊だ。
本書をよく呼んで、令和から見た日本近現代史を正しく評価してほしい。
お勧めの一冊だ。
2019年12月14日に日本でレビュー済み
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序章は名文調で好みなんですが、ここのレビューではあまり評判が良くないようですね。基本的に、各章の著者の代表著作のダイジェスト的なものになっていて、お得感がありますが、日清戦争と日露戦争の章はいま一つです。前者は地政学的な意義を述べるくらいで、1頁もあれば足りそうなスカスカの内容です。これで日清戦争について学ぶことはできません。後者は、むしろ同じ中公の横手氏のやつを読めばいいんじゃないかという気がしてきます。両者ともこのテーマの専門家ではないので人選ミスです。
それと、5章は日本史の研究者が担当した方がよかったでしょう。近現代の日中関係について日本の視点から述べる(本書のタイトルは日本近現代史講義)なら、その背景をなす、日本国内の様子が描かれるべきでした。あと、7章はよくまとまっていて、内容としてはいいのですが、ヨーロッパ国際関係について記述のほとんどが割かれているというのは、少し奇異な感じがします。
それと、5章は日本史の研究者が担当した方がよかったでしょう。近現代の日中関係について日本の視点から述べる(本書のタイトルは日本近現代史講義)なら、その背景をなす、日本国内の様子が描かれるべきでした。あと、7章はよくまとまっていて、内容としてはいいのですが、ヨーロッパ国際関係について記述のほとんどが割かれているというのは、少し奇異な感じがします。
2019年11月17日に日本でレビュー済み
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14人の研究者による分筆故に、体系的な記述は望むべくもないが、平易な文章で、我が国の明治以降の歩みが、新書300頁に手際良く纏められており、理解し易い。また最新の研究成果を織り込んで、これまでの見方を超え、多角的な視点から記述されており、帯にある通り「日本国内の閉じた歴史にとどまるのではなく、世界史と融合した新しい歴史を模索する」姿勢に貫かれていて、様々思考・思索する材料を提供してもくれる。但し最終章の中西寛氏による「歴史観」に関する課題整理は、本書の対象を超える江戸期を含めたり、同じ海洋国家であるイギリスを短絡に例えとしたりなど、前章までの総括でなく、氏独自の乱暴な提示とも言うべき書きぶりで、折角の書の印象を損ねているのが、惜しまれる。
2020年7月19日に日本でレビュー済み
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日本の歴史、就中近現代史を学ぶには、複数の著者が様々な観点から記述している一冊のため多少の重複感はあるけれども、是非目を通すべき一冊だと思う。
歴史認識は、過去のみに関わる事に非ず、過去以上にそれぞれの時代を生きる人の問題だとのメッセージから始まり、実に含蓄のある言葉が多い。全てを挙げることはここでは控えるが、中でも我が国の朝鮮・台湾の「植民地化」に対する「併合と言え!西洋の植民地に対する取扱いと比べれば、搾取ではなく逆に対象国を発展させたのだから」といういわゆる右派の人達に対するカウンターアーギュメントは印象的だった。曰く、
●西洋の植民地支配の搾取的なところと日本の植民地支配を比べるのは不公平:時代が違う!宗主国の植民地に対する赤字財政の結果、植民地を経済的に発展させ、人口を増やすのは、当時の植民地支配のスタンダードであり、同時期には西洋諸国も似たりよったりの植民地運営をしていた。
という趣旨の記述には、時間軸を必ず揃えて物事は評価しないといけないことを思い出させてもらったり、
●江沢民の愛国教育の目的は、天安門事件を再発防止!
にあったことは、何事にも原因があっての結果があることも思い出させてくれた。
とにかく、買って損はない一冊。この手の本がデジタル化されていないと、書籍購入を一気にデジタルで、に進むことが憚れる。
歴史認識は、過去のみに関わる事に非ず、過去以上にそれぞれの時代を生きる人の問題だとのメッセージから始まり、実に含蓄のある言葉が多い。全てを挙げることはここでは控えるが、中でも我が国の朝鮮・台湾の「植民地化」に対する「併合と言え!西洋の植民地に対する取扱いと比べれば、搾取ではなく逆に対象国を発展させたのだから」といういわゆる右派の人達に対するカウンターアーギュメントは印象的だった。曰く、
●西洋の植民地支配の搾取的なところと日本の植民地支配を比べるのは不公平:時代が違う!宗主国の植民地に対する赤字財政の結果、植民地を経済的に発展させ、人口を増やすのは、当時の植民地支配のスタンダードであり、同時期には西洋諸国も似たりよったりの植民地運営をしていた。
という趣旨の記述には、時間軸を必ず揃えて物事は評価しないといけないことを思い出させてもらったり、
●江沢民の愛国教育の目的は、天安門事件を再発防止!
にあったことは、何事にも原因があっての結果があることも思い出させてくれた。
とにかく、買って損はない一冊。この手の本がデジタル化されていないと、書籍購入を一気にデジタルで、に進むことが憚れる。