日本軍兵士の過酷すぎる実態 語り継がれていないアジア・太平洋戦争
アジア・太平洋戦争による日本人死者は、民間人が80万人、軍人・軍属が230万人の計310万人。日露戦争の戦没者が9万人であることを踏まえると、とてつもない数字だ。さらに驚くべきことに、その9割が戦争末期、1944年以降のわずか1年ほどのあいだに亡くなったと推算されるという。短期間に甚大な死を引き起こす要因となった、日本軍兵士たちのおかれた苛酷な肉体的・精神的状況の実態を、豊富な資料に基づき緻密に描き出した新書が売れている。
「被爆や空襲、沖縄戦のような体験は、いまなおよく語り継がれています。しかし戦場の話は、多くの人が従軍したにもかかわらず、あまり語り継がれていない。関連した本も最近の作品は漠然とした内容が多い。そこを具体的に、詳細に書いたことが、驚きをもって多くの読者に受け止められたのではないでしょうか」(担当編集者)
昨今、日本軍の勇猛さをとかく賞賛するような本も多いが、本書は異を唱える。立論に説得力があるのは、情緒に流れていないからだ。
「著者は兵士の目線、地を這うような目線での具体的な体験談を紡ぎ出すと同時に、鳥瞰的に戦争を捉えることも忘れません。他国と比べて異常に高い餓死率など客観的な数字を記することで、極端な例だけを取り上げた恣意的な内容ではないとわかり、兵士たちの『声』がより真に迫るものに感じられるんです」(担当編集者)
評者:前田 久
(週刊文春 2018年05月24日号掲載)
310万人に及ぶ日本人犠牲者を出した先の大戦。実はその9割が1944年以降と推算される。本書は「兵士の目線・立ち位置」から、特に敗色濃厚になった時期以降のアジア・太平洋戦争の実態を追う。異常に高い餓死率、30万人を超えた海没死、戦場での自殺と「処置」、特攻、体力が劣悪化した補充兵、靴に鮫皮まで使用した物質欠乏…。勇猛と語られる日本兵たちが、特異な軍事思想の下、凄惨な体験を強いられた現実を描く。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
吉田/裕
1954(昭和29)年生まれ。77年東京教育大学文学部卒。83年一橋大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。83年一橋大学社会学部助手、助教授を経て、96年より一橋大学社会学部教授。2000年より一橋大学院社会学研究科教授。専攻・日本近現代軍事史。日本近現代政治史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)