日本は鉄道が「特異的」に発達した国だと著者は言う。人口が多く、おまけに人口密集地が帯状につながっていて、輸送需要が高いルートが多い。また、明治以来、日本政府は国策により鉄道中心の交通体系を推進してきた。日本は「まさに鉄道計画者にとっては夢の国」(英、クリスチャン・ウォルマー氏)だったのである。その結果、日本人は無類の鉄道好きとなり、日本の鉄道に対して過大の評価と期待を持つようになった。一方で、輸送手段としての鉄道の役割はかなり以前から縮小、後退を続けている。世界中の鉄道が「冬の時代」に突入しており、日本の鉄道も例外ではない。
著者は、日本人の抱く鉄道についての2つの思い込みを指摘する。
1.日本の鉄道技術は世界一である。
2.鉄道ができると暮らしが豊かになる
これが「思い込み」である根拠として、英仏独米日5カ国の鉄道の歴史、交通体系、現状を客観的に捉えて、日本の鉄道の立ち位置を検証する。それにより日本の鉄道の驚くべき特徴が明らかにされる。たとえば、世界の鉄道利用者の30%は日本人であり、日本の利用者の63%が首都圏であること。日本ほど鉄道事業者が多数存在する国はないこと。欧米では鉄道、地下鉄、路面電車、バスは公営であり、運営は一元化されていること。日本の鉄道技術の多くは英仏独米から移入されており、新幹線も各国のローテク技術をまとめて造られたこと。新幹線の海外輸出は難航していること、等々。
世界一ではないかと言われる日本の「定刻運行」であるが、その背景に過密ダイヤと施設、列車の制約があり、鉄道職員が過度のプレッシャーを受けていることを著者は指摘する。定刻に遅れまいとして安全よりも時間の正確さを追求する体質は、海外からは「病的」と見られていると。同時に、日本が世界に誇れるのは「技術」ではなくて、鉄道に携わる「人」の優秀さと勤勉さであると断言する。世界の鉄道を見て回ってきた著者のこの言葉は重い。
日本の鉄道は、社会と交通の変化に押されて衰退期に入った。すでに地方では乗客数の減少が顕著であるが、大都市でも減少傾向は現れている。今後の鉄道の衰退は避けられない以上、地域の公共交通全体を広く考え、各種交通機関の連携が重要であるとしつつ、海外の先進事例に学ぶことを著者は提案している。長年の交通ライターとしてのキャリアと鉄道愛から本書は生まれた。鉄道の未来を考える上での基本図書であることは間違いない。
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