『竜馬がゆく』『燃えよ剣』の2作の長編小説が立て続けに発表された1962年(昭和37年)は、司馬遼太郎の目が「幕末」という動乱に向いていた年である。同年5月に連載が始まった本書は、その先駆けとなった作品だ。斎藤一、加納惣三郎、井上源三郎、沖田総司などの新選組隊士たちの生き様15編を、抑制の効いた筆致で描ききった連作短編集である。そこには、司馬が追い求めた「漢(おとこ)」の姿が息づいている。
生きては戻れぬ死闘を前にしながら、ひょうひょうと振舞う篠原泰之進。好きな女のために新選組にもぐりこみ、惨殺される深町新作。池田屋事変で一番の活躍をしながらも、その運命にもてあそばれているような寂しさを漂わせる山崎蒸。武芸で身を立てることに戸惑いながらも、敵方にひとりで切り込んでいく長坂小十郎。時代に逆らって生きる個性豊かな隊士たちは、いずれも無骨で、真っ直ぐで、さわやかだ。
なかでも、「沖田総司の恋」「菊一文字」で、沖田への不器用な心配りを見せる近藤勇と土方歳三の姿が印象深い。「総司のことになると目が曇る」近藤と土方の姿を、おかしみさえ滲ませながら人間臭く描くことで、司馬は、激しい風雲に飲み込まれざるをえなかった者たちの悲劇をいっそう際立たせている。新選組という「類のない異様な」集団を多角的な視座を用いてとらえた本書は、1個人の人生から、歴史の壮大なうねりを照らす司馬の持ち味が、いかんなく発揮された傑作である。(中島正敏)
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混沌たる時代を切り開こうとしながらも、志半ばで倒れていった新選組隊士たちの剣と愛、そして哀歓を綴った、全国松竹系公開映画「御法度」原作。1964年刊の新装改版。
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内容(「BOOK」データベースより)
悲恋に涙する沖田総司、隊士の心を妖しくときめかす前髪の美剣士、薩摩の間者富山弥兵衛、真贋の判じがたい虎徹に執する近藤勇…幕末の大動乱期、剣に生き剣に死んでいった新選組隊士一人一人の哀歓、生死のかたちを冴え冴えと浮彫りにする。
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著者について
1923年大阪府生まれ。大阪外国語大学モンゴル語学科卒業後、産経新聞社に入社。59年「梟の城」で直木賞受賞。独自の史観を駆使し、戦後の歴史小説に新風を吹き込んだ。代表作は『竜馬がゆく』『坂の上の雲』『翔ぶがごとく』など。93年に文化勲章を受章。96年に72歳で死去。
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著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
司馬/遼太郎
1923年(大正12年)、大阪府生まれ。大阪外国語大学蒙古語科卒業後、産経新聞社に入社。59年、『梟の城』で直木賞を受賞。その後、66年に菊池寛賞、72年に吉川英治文学賞、75年に日本芸術院賞恩賜賞、81、86年に読売文学賞、82年に朝日賞、88年に大仏次郎賞を受賞し、93年に文化勲章を受章。96年(平成8年)2月、七十二歳で永眠(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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