[ネタばれ含む]
ジブリ版によって原作である小説のほうの認知度が低くなってしまった、というある種の悲劇に見舞われた作品であり、原作者がアニメ版を好意的に評価せず、後に宮崎駿と直接対談を行ったとのこと…らしい…で、これがひとつの”手打ち”にあたるのかも知れない、とは思うが、今更読んだ感想として、原作者が批判したくなる理由はよくわかる。宮崎駿は原作のテーマを殆ど否定しているようにしか見えないからである。
この小説では魔女をマイノリティの暗喩として描いている。実際、小説の序盤では魔女との対比として”ふつう”というワードがなんども出てくる。魔女は”ふつうではない”のである。その魔女と”ふつう”の人間の男性のあいだに生まれたハーフのキキは、母親から教えられた魔法のちからでほうきで空を飛ぶことを覚え、冒頭、母と同じく魔女として生きる人生を選択する。ひとの歴史の中で”ふつうの人生”を選ばずに少数派である”魔女の血”を継承するという選択である。
ところが駿はキキが母親が「ほうきで空を飛ぶことしか覚えなかった」と語るように魔女の血を継承する事を否定するところから物語を始める。旅にでる動機も魔女の掟にしたがうというよりは都会の生活に憧れる、実家から出て一人暮らしはじめる大学生っぽい感じである。おまけに原作1巻…以降も出てくるのか知らない…ではモブと大差なく、名前も出てこない扱いの”絵描き”であるウルスラをフィーチュアし、彼女に「魔女の血、絵描きの血、パン職人の血…」と語らせ、マイノリティの暗喩である”魔女の血”を”自分に合った人生の選択肢のひとつ”のように格下げしてしまう。
原作の序盤とアニメは似たようなストーリーで進行するが、魔女=マイノリティであるという前提に基づくと、町の人々が彼女を拒絶し、魔女をぶきみに思って恐れるという描写の意味が全然違ってくる。アニメ版ではおまわりさんが「よーわからんけどあんま騒ぎを起さんでくれ」くらいの扱いであり、余所者に排他的、くらいの描写に見える。
原作ではキキが始める運送業に「魔女の宅急便」という名前を直に付けるので、”魔女”というマイノリティのアイデンティティを前面に押し出すというのに意識的であると伺える。が、アニメ版ではこれもなくなっている。アニメでは”Kiki's Delivery”とあり、”魔女”でなくキキというひとりの少女の”個”にフォーカスしているのがわかる。原作ではアニメ版のチャラ男とはキャラが違うトンボがほうきで空を飛ぼうとするくだりにてキキが「魔女の血がなければほうきでとべない」と語るように「魔女の血」というものにはある種の血統主義的な意味が内包されている。
が、原作者がそのような血統主義を肯定するつもりがないのは、原作ラストにて帰省したキキが母親に語る台詞からも伺える。作中に出てくる「おすそわけ」というワードに見られる、意見の違う他人とも価値を共有しあおう、そのためにはマイノリティである魔女もときには自分の考えを譲歩しなくてはならない、というのが此処でのキキの台詞から読み取れる。
原作者はアニメについてキキの旅立ちで鈴を鳴らしてほしい、と要求したそうだが、原作を読むとこの鈴というのがこういった物語の象徴的なメルクマールであると解るのだが、アニメでは余り重要な意味を持っていないように見える。
こういった文脈を踏まえるとアニメのラストでキキが一度失われた魔法が復活したあとでもジジの声が聞き取れなないまま、という結末も魔女の血の希薄化のように思えなくもない。
…こう書くと今更読んだ原作でアニメをディスっているようにしか見えないので一応言うと、ジブリ版はひとりの少女の精神的成長というものにフォーカスして描かれており、現代的な性格に変更されているキキが自分の中に受け継がれていて、アニメ序盤ではそれを余り望ましく思っていない”魔女としての自分”(此処では”血”というよりは原作にもある”女の子としての幼さ”と重ねられるような、時代遅れな存在である劣等感のようなものと捉えられる)をトンボとの確執で精神的に不安定になって魔法が使えなくなったキキがそれを受け入れる、気の合わない女の子とも理解し合う(ニシンのパイの娘が原作に登場する、万年筆を届ける依頼をする女の子を参照にしていると思われるが、一層スれた性格に変更されている)、エンドロールでキキのコスプレをしている子どもが居るように魔女という存在が世間から受け入れられる、というかたちで「魔女の血を引く少女の自立の物語」としては素晴らしい物語になっている。ジジの声が理解できなくなるのも「大人にはトトロがみえない」というのと同じく、大人に成長することの代わりに失われていく子どもの夢想のようなもの、と解釈すると最初は言葉が理解出来なくなったのに動揺したのをすんなり受け入れるキキの姿にも違和感はない。キキがほうきで空を飛ぶことしか覚えなかった、というのも映画の最後までいくと魔女の血からひとつだけ選択するというキキの”血筋にとらわれない個人としてのアイデンティティである”とわかる。
つまり思想的な違いからくる物語の捉え方が原作とのズレを生んだのだと思われ、「相手を出し抜いてお宝を頂戴してみせるルパンはある種のトリックスターだが、高度経済成長期の誰でも金を持ってる80年前後、欲しい物がありゃ何でも金で買える時代にルパンの居場所なんて無い、もうルパンは時代の子どもではないのだ、ローマの遺跡を俺の手に余ると言うがそもそもルパンの手に収まるものなどもうない、だから少女の心を盗むくらいしか出来ない」との考えから出来上がったらしいカリ城がルパンのアニメ関係者やファンから批判されたものの、それは駿なりにルパンを読み解いた結果なのだ、という問題と同様であると思われる。前述の対談は読んだ事がないが、その辺の認識の相違の擦り合せが行われたのであろうと察せられる。
ついでに言うと駿は自分なりの解釈が行き過ぎる傾向にあり、ルパンでもそこで終わりゃいいのに赤ジャケを殆ど全編に渡って着ないアルバトロスや、これまでのルパンは全部偽物でしたという意図を込めたと駿本人が語ったさらば愛しきルパンよまで作るので、アニメ関係者からすりゃ自分たちの仕事を全否定されたように思えるのでまあムカついても仕方がないと思われる。ファーストシリーズでも元からあった2クールめのシナリオを高畑と共にほぼ全ボツにして路線変更を行ったらしいので、都度、駿が現れては、自分たちの仕事を全否定し、世間から喝采だけ浴びて去ってくので面白かろう筈もない。劇場三作目に駿の推薦で監督になった押井が「ルパン三世完結編」のプロットを出してきたときは内心腸が煮えくり返っていたと思われる。アニメのシナリオに長く関わった飯岡順一による「私のルパン奮戦記」を読むといかに駿にムカついているかが解るが、駿は高畑が監督をとつめた劇場版「じゃりン子チエ」の監督を当初は務める予定だったものの、「人間は足元だけ映して猫を主人公にしよう」とか言って降板されられた(当たり前だ)と大塚康生がインタビューで語っていたが、このように自分の解釈にあわせて何処まで原作を改変してもかまわない、という考えを持っているのも問題だと思われる。そして最大の問題は、駿は天才なので、原作よりも、ときに関係者を激怒させてまで出来上がるアニメが滅茶苦茶面白いということで、カリ城やアルバトロス、さらばがセカンドシリーズやクローンをぶっちぎりで上回る傑作だったのと同様、原作者には大変申し訳無いが、この魔女宅もアニメのほうが圧倒的に面白いというのが偽らざる感想である。
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新装版 魔女の宅急便 (角川文庫) Kindle版
| 価格 | 新品 | 中古品 |
ひとり立ちするために初めての街にやってきた13歳の魔女キキが、新しい街で始めた商売宅急便屋さん。相棒の黒猫ジジと喜び哀しみをともにしながら街の人たちに受け入れられるようになるまでの1年を描く。
- 言語日本語
- 出版社KADOKAWA
- 発売日2015/6/25
- ファイルサイズ680 KB
-
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
ひとり立ちするためにはじめての街にやってきた13歳の魔女キキと相棒の黒猫ジジ。懸命に考えて自立するために始めた仕事は、ほうきで空を飛んで荷物を届ける宅急便屋さん。荷物を運びながら大事なことを発見します。再刊。
--このテキストは、paperback_bunko版に関連付けられています。
--このテキストは、paperback_bunko版に関連付けられています。
内容(「BOOK」データベースより)
お母さんは魔女、お父さんは普通の人、そのあいだに生まれた一人娘のキキ。魔女の世界には、13歳になるとひとり立ちをする決まりがありました。満月の夜、黒猫のジジを相棒にほうきで空に飛びたったキキは、不安と期待に胸ふくらませ、コリコという海辺の町で「魔女の宅急便」屋さんを開きます。落ち込んだり励まされたりしながら、町にとけこみ、健やかに成長していく少女の様子を描いた不朽の名作、待望の文庫化! --このテキストは、paperback_bunko版に関連付けられています。
出版社からのコメント
13歳で故郷を離れたキキは、海辺の町・コリコで一人暮らしをはじめます。
町の人たちとうまくやっていけるかどうか心配な気持ち、やりたい仕事を見つけたときのワクワクした気持ち……。
戸惑いながらも、一つずつ経験を重ね、成長していくキキの姿は、子どもから大人までたくさんの読者の共感を呼んでいます。
アニメ・実写と映画化もされたこの作品に、続きがあるのをご存じですか?
第二巻では14歳、第三巻では16歳、そして完結編の第六巻では、なんとお母さんに!
とんぼさんとの恋のゆくえや、子育ての悩みも、いきいきと描かれます
読者の方から、「子どもの頃にキキと出会い、キキと一緒に私も成長しました」と、熱いメッセージが届く、大人気のシリーズです。 --このテキストは、tankobon_hardcover版に関連付けられています。
町の人たちとうまくやっていけるかどうか心配な気持ち、やりたい仕事を見つけたときのワクワクした気持ち……。
戸惑いながらも、一つずつ経験を重ね、成長していくキキの姿は、子どもから大人までたくさんの読者の共感を呼んでいます。
アニメ・実写と映画化もされたこの作品に、続きがあるのをご存じですか?
第二巻では14歳、第三巻では16歳、そして完結編の第六巻では、なんとお母さんに!
とんぼさんとの恋のゆくえや、子育ての悩みも、いきいきと描かれます
読者の方から、「子どもの頃にキキと出会い、キキと一緒に私も成長しました」と、熱いメッセージが届く、大人気のシリーズです。 --このテキストは、tankobon_hardcover版に関連付けられています。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
角野/栄子
東京生まれ。大学卒業後、出版社に勤務。25歳からブラジル滞在の体験を描いた『ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて』で作家デビュー。以来、第一線で活躍する。1982年『大どろぼうブラブラ氏』で産経児童出版文化賞大賞、84年『わたしのママはしずかさん』で路傍の石文学賞、『ズボン船長さんの話』で旺文社児童文学賞、『おはいんなさい えりまきに』で産経児童出版文化賞、85年『魔女の宅急便』で野間児童文芸賞、小学館文学賞、IBBYオナーリスト文学賞など多数受賞。2000年紫綬褒章受章、14年旭日小綬章を受章(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです) --このテキストは、paperback_bunko版に関連付けられています。
東京生まれ。大学卒業後、出版社に勤務。25歳からブラジル滞在の体験を描いた『ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて』で作家デビュー。以来、第一線で活躍する。1982年『大どろぼうブラブラ氏』で産経児童出版文化賞大賞、84年『わたしのママはしずかさん』で路傍の石文学賞、『ズボン船長さんの話』で旺文社児童文学賞、『おはいんなさい えりまきに』で産経児童出版文化賞、85年『魔女の宅急便』で野間児童文芸賞、小学館文学賞、IBBYオナーリスト文学賞など多数受賞。2000年紫綬褒章受章、14年旭日小綬章を受章(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです) --このテキストは、paperback_bunko版に関連付けられています。
著者について
登録情報
- ASIN : B00ZQJVW8E
- 出版社 : KADOKAWA (2015/6/25)
- 発売日 : 2015/6/25
- 言語 : 日本語
- ファイルサイズ : 680 KB
- Text-to-Speech(テキスト読み上げ機能) : 有効
- X-Ray : 有効
- Word Wise : 有効にされていません
- 本の長さ : 186ページ
- Amazon 売れ筋ランキング: - 13,234位Kindleストア (の売れ筋ランキングを見るKindleストア)
- カスタマーレビュー:
著者について
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童話作家。代表作『魔女の宅急便』(福音館書店、小学館文学賞ほか文学賞多数受賞)をはじめとして、多くの作品を生み出してきた。(「BOOK著者紹介情報」より:本データは『 パパはじどうしゃだった (ISBN-13: 978-4092897854 )』が刊行された当時に掲載されていたものです)
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カスタマーレビュー
5つ星のうち4.4
星5つ中の4.4
220 件のグローバル評価
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2020年12月31日に日本でレビュー済み
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Amazonで購入
33人のお客様がこれが役に立ったと考えています
役に立った
2021年7月20日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
I found the book lacking in some common kanji, but other than that it was easy to read and enjoyable. I am roughly at an N3-N2 level for reference.
他の国からのトップレビュー
James Prosser
5つ星のうち5.0
Lovely Book
2016年2月15日に英国でレビュー済みAmazonで購入
I personally fell in love with Kiki's Delivery Service after seeing the animated film by Studio Ghibli. I greatly enjoyed watching it in English and Japanese and so wanted to read the original. As I'm still learning Japanese, I am not reading it especially quickly but I think the language should be very accessible once you have a basic grasp of the Kanji (around N4/N3) and should have no problem understanding the sentences with the help of a dictionary.
The book itself is large and nicely illustrated with a clear font (written vertically).
Overall highly recommended for all Kiki fans.
The book itself is large and nicely illustrated with a clear font (written vertically).
Overall highly recommended for all Kiki fans.
K. Wright
5つ星のうち5.0
Stunning.
2020年3月21日に英国でレビュー済みAmazonで購入
Really pretty for any Ghibli fan.
A student
5つ星のうち5.0
Good book to learn from
2020年6月9日にアメリカ合衆国でレビュー済みAmazonで購入
Still an absolute beginner so tackling reading Japanese straight on is hard. I recommend to anyone who is also starting to also study up on some vocabulary, grammar, particles etc. Also memorizing all hiragana and katakana. It makes learning Japanese from reading this book significantly easier... and well, actually possible. Also, I recommend using this book to learn because it’s a fun story to read about especially if you are a fan of the film version. It motivates me to read more even though it’s hard because I want to learn more about the story.
Brady
5つ星のうち5.0
In Over My Head, but a Great read!
2021年10月10日にアメリカ合衆国でレビュー済みAmazonで購入
So i'll be honest, i was a bit in over my head when i bought the original 日本語 (Japanese) version. I need to work on my vocab and kanji more, but for those who are in a similar situation and willing to put in the research to translate it's a great time!
The author, from what i've read thus far, has done a fabulous job with his descriptions. A good read for kids and adults who already know, or, are learning 日本語!
The author, from what i've read thus far, has done a fabulous job with his descriptions. A good read for kids and adults who already know, or, are learning 日本語!
Customer Amazon202020
5つ星のうち5.0
Good for learning Japanese
2021年1月3日にアメリカ合衆国でレビュー済みAmazonで購入
I’m enjoying translating page by page to learn kanji. Although I am reading it at snail’s pace, so far it has been an interesting story. The book itself is very light and small.





