植村さんは幸運の人だ。
その幸運を呼び込んだのは、
彼の純真で魅力的な人柄だったのであろう。
アメリカのブドウ農場で、不法労働で捕まった時、
移民調査官に見逃してもらったのが、そうだ。
ヨーロッパのスキー場で、言葉もスキーもできないのに、
雇ってもらったのもそうだ。
どのような人であったかは知らないが、
よほど人に愛される人だったのであろう。
おそらく多くの若者がその後、
この本を読んで同じように海外に飛び出し、
そして厳しい現実に打ちのめされたに違いないと思う。
うろ覚えだが、ある若きヨットマンは、
返還前の沖縄に無許可で渡航し、
あっさり捕まったと聞く。
若者だからという理由で許してもらったなどということは全くない。
近年ではK君という登山家が、
単独・無酸素という言葉を乱用し、
ネット上で叩かれ、
果てはエベレストで命を落とした。
その批判の一つに、
単独をうたいながら、
キリマンジャロ登山でポーターを雇ったことが挙げられている。
植村さんもwikiや植村直巳冒険館HPでは「キリマンジャロ単独登頂」となっている。
しかし実はポーターを雇っているのである。
4,600mのキボ小屋までポーターが同行したと、
本書にはっきり書いてある。
キリマンジャロは、夏の富士登山と変わらず、
誰でも登れるとまで、植村さん自身ははっきり書いている。
この辺り植村さんの死後の神格化と、
そのフォロワーたちの悲喜劇については複雑な思いになった。
もちろん植村さんについてはあの時代にキリマンジャロまで行ったこと自体が、
素晴らしい冒険であり、
現代の人間の条件とは全然違う、と言うことはできる。
エベレスト遠征隊で第1次アタック隊員に選ばれて、
日本人として初めて登頂したことが示すように、
卓越した身体能力と確かな技術があったことも確かであろう。
ただ植村さんの書き方は、あまりにも気負いなく、素朴で、
多くのフォロワーが「自分もできるかも」「自分もやってみたい」、
と思ってしまうようなところがある。
私も若い頃に読まなくてよかったと思っている。
若い頃に読んでいたら、
どこか海外で大きなトラブルを起こして迷惑をかけたに違いない、と思うからだ。
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