まさしく本書は文学作品です。
たとえば第一章で胎児性水俣病の子供たちがバスに乗り出かける場面の描写がこうだ。
「ひとりで何年も寝転がらされている子たちのまなざしは、どのように思惟的な眸よりもさらに透視的であり、十歳そこそこの生活感情の中で、孤独、孤絶こそもっとも深く培われたのであり、だからこの子たちがバスに乗り、その貌が一途に家の外の空に向けて輝くとしても不思議ではなかった。」「そのような様子の子どもたちをみるのは、自分たちの死後、この子たちがどうなるか、と考えざるをえない親たちにとってはいかにもいじらしく、(中略)しのぶちゃんのご自慢の花帽子が、窓から入る風にふわりと浮き上がり、座席の間の床の落ち、しのぶちゃんがきょとんとしてあらぬ方をみて帽子の落ちたことを知らないで(彼女は目も耳も少しわるいので)いるのがさもおかしい、といって笑み崩れ・・」
と長々と引用してしまいましたが、こういう文章を読むだけで、悲惨な中にも微笑ましい情景が目に浮かぶ見事な描写だと納得いただけるだろう。本書が魂の文学と言われる所以は、このような著者の文学的クオリティの高さに裏付けられたものなのですね。
町や国全体の経済発展に大きく貢献した会社の廃液が原因でか回復不能な現状にある水俣病患者たちはしばしばこういったという「わたしたちがモノ言えば、国家のため、県のため、市のためになりまっせん」
国全体、県全体、市全体の経済的発展のために食い尽くすのは個人のいのちそのもの。
311を経験した我々日本国民は、果たして同じ過ちを繰り返していないか。
「文明と、人間の原存在の意味への問い」である水俣病を取り扱いながらも、被害者と加害者という二極対立を超えた、我々国民世論に対する普遍的な問題提起をひしひしと感じさせる本書は、クオリティの高い文体に支えられているからこそ、読むものに強い印象を残す作品となりました。
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第164回芥川賞・直木賞 受賞作決定
芥川賞は宇佐見りん『推し、燃ゆ』。直木賞は西條奈加『心淋し川』。
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