自分のための「自己完結型」の文章を書く。自分の平均的な執筆速度を知る。「書くことがない」人は、自由連想方式、「100の質問」方式を。10時間あるよりも「15分しかない!」ときのほうが効果的に書くことができる。POS方式、SOAP方式で客観的に書く力をつける。…etc.自分のための文章トレーニング、誕生。
誰にわからせるために書くか、ということだが、この本の中では「まずは自分にわからせよう」ということを目的にしてきた。自分が読んでわからない文章は、まずひとにはわかってもらえる可能性はないからだ。あるいは、最初からひとにわからせることだけを目的として書かれるビジネス文章、記録のためのカルテの文章もけっこう使えますよ、という話もした。
しかし、放っておくと私たちはどうしても「かっこいい表現にしたい」「読む人がうーんと唸るような内容を書きたい」と思いすぎてしまうので、それを防ぐためには写経のように一定のスピードを保ってサクサク書く、という方法を提案してみた。
考えすぎず、表現にこったりせず、自分で決めた分量を目指して、とにかく前へ前へ、と書いていく。まずは、読者は自分だけでオーケー。
そんなふうに文章を書いて所定の分量をクリアしたら、そのときはきっと、三キロくらいのレースを走り終えてゴールに飛び込んだときのような爽快感や達成感を味わうことができるだろう。ゴチャゴチャしていた心や頭も、すっきり整理ができているのではないだろうか。
さらに、写経のように書かれた文章は、自分だけではなくほかの読み手にも、すんなりと気持ちを伝えてくれるはずだ。また、一定のスピードで読めるので、読み手の心まですっきり落ち着かせる、という思わぬ効果を与えることもある。
何か書きたい。でも、何を書いてよいか、わからない。作家のように気のきいたことも書けない。それに、読んだ人に笑われないか、自信もない。
実は、そういう人がもっとも「文章を書くこと」に向いている。「文章を書くこと? ああ、とても好きだし、けっこう得意ですよ」と自信満々な人の書くことは、たいていひとりよがりで他者には理解不能か、読むと心や頭がごちゃごちゃしてきて、かえって不穏な気分になるか、ということが多いものだ。
自分のために書く文章。ひとに何かを伝えるために書く文章。どちらも基本は同じで、とにかくシンプルに実用的に、あまりこだわらずにサラサラと気持ちの表面をなぞるように書く。
そうすれば、自分の心もすっきり整理でき、言いたいこともひとに伝わり、文章はまさにその効能を最大限に発揮できるはずだ。
さあ、きっとあなたもペンを取り、あるいはパソコンを開いて、何か書きたくなってきたはず。豊かで楽しい文章の世界は、すぐそこであなたを待っている。 --「エピローグ」より抜粋
著者について
1960年札幌市生まれ。東京医科大学卒業。精神科医。学生時代より雑誌等に寄稿。その後も臨床経験を生かして、現代人の心の問題ほか、政治・社会批評、文化批評、サブカルチャー批評など幅広いジャンルで活躍している。仕事のストレス解消は本を書くこと、だと言う。
著書に『ポケットは80年代がいっぱい』(バジリコ)、『親子という病』(講談社現代新書)、『「私はうつ」と言いたがる人たち』(PHP新書)、『セックスがこわい』(筑摩書房)、『イヌネコにしか心を開けない人たち』(幻冬舎新書)、『頭がよくなる立体思考法』(ミシマ社)など多数。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
香山/リカ
1960年札幌市生まれ。東京医科大学卒業。精神科医。学生時代より雑誌等に寄稿。その後も臨床経験を生かして、現代人の心の問題ほか、政治・社会批評、文化批評、サブカルチャー批評など幅広いジャンルで活躍している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)