総評としては高校数学入門書の新基準となりうる良書である。勉強する単元の講義から始まり練習問題→応用問題という構成となっており、練習問題前半は教科書例題レベルを中心に扱っているが後半からは教科書章末から入試基礎レベル、応用問題は(簡単な)入試標準レベルの問題も含まれ、侮れない網羅性を持つ。特に図形と方程式、三角関数、数列、ベクトルはなかなかのレベルまで網羅しており、微積も数3の微積にスムーズにつなげられるように配慮されてある。
1A版と一緒に本書の内容を「完璧に」理解していればセンター7割前後、具体名は避けるが下位国立大学、中堅私大の入試なら合格点を確保できるだけの地力を身につけることができるだろう。(ただし1A版はなぜか全く理解できないが1A最重要単元である整数分野の記述が無いので別途他書で補う必要あり。)
対象としては先取り学習したい(中高一貫校の)中学2-3年、高校1-2年生、定期テスト以外まともに数学を勉強したことのない受験生の最初の一冊として最適。しかし本当に読んでもらいたいのは十分に理解することを怠り、姉妹書の標準問題精講や1対1の数学・青チャート等でいたずらに解法暗記に明け暮れるも模試等でイマイチ結果に結びつかないそれなりに勉強を進めているはずの受験生・浪人生である。共役複素数とは何か?軌跡とは何か?微分するとは何か?ベクトルとは何か?これらを中学生の時の自分に説明して納得してもらえる自信はあるだろうか。もし言葉に詰まりそうであれば急がば回れということで本書に目を通すことを勧める。
本書の特徴はその凄まじいまでに充実した演習に入る前の講義の記述にある。私が知る範囲で本書に似たコンセプトの有名書籍としてはマセマの初めから始める数学が挙げられるが、丁寧すぎて人によってはまわりくどくかえってわかりにくいと感じてしまうマセマの馬場博士の記述に対して、本書の記述はあくまで簡潔かつ明快である。しかし簡潔でありながらもその分野を数学的に学ぶ意義とは何かを読者になんとかして理解してもらおうとする丁寧さが両立されており、文章構成及び具体例の出し方一つ一つに筆者の魂と苦心の跡が読み取れる。(特に30ページの練習問題を通した論証説明の記述は必読。高校生・大学生、時には経験を積んだ社会人すら犯しがちな論理を構築する際にやっていいこととやってはならないことを簡潔かつ明確にまとめている。)
問題の解説も良く、精講という項目で数学が得意な人が頭の中でどのようなことを考えているか言語化されており、数学が苦手な人はここを繰り返し読むことでで問題の考え方や解答方針を理解することに重点を置くと良い。また解答も奇をてらわずオーソドックスかつ丁寧で計算過程の省略も一切なく全くの初学者も挫折しないようにしてある。
本書をしっかり頭に入れたあとは、難関大学を目指すのなら演習量が絶対的に足りないので姉妹書の基礎問題精講(問題の選定が良く、必要十分な網羅性を持つが、解説と解答がイマイチ)、文系の数学重要事項完全習得編(網羅性に若干穴があるが、問題の選定・解説解答ともに良し)等でさらなるインプットとアウトプットすることを勧める。
- 単行本(ソフトカバー): 384ページ
- 出版社: 旺文社 (2019/9/25)
- 言語: 日本語
- ISBN-10: 4010345217
- ISBN-13: 978-4010345214
- 発売日: 2019/9/25
- 商品パッケージの寸法: 14.8 x 1.6 x 21 cm
- おすすめ度: 5件のカスタマーレビュー
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