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数学の大統一に挑む 単行本 – 2015/7/13
エドワード・フレンケル
(著),
青木 薫
(翻訳)
xのn乗 + yのn乗 = zのn乗
上の方程式でnが3以上の自然数の場合、これを満たす解はない。
私はこれについての真に驚くべき証明を知っているが、ここには余白が少なすぎて記せない。
17世紀の学者フェルマーが書き残したこの一見簡単そうな「フェルマーの予想」を証明するために360年にわたって様々な数学者が苦悩した。
360年後にイギリスのワイルズがこれを証明するが、その証明の方法は、谷村・志村予想というまったく別の数学の予想を証明すれば、フェルマーの最終定理を証明することになるというものだった。
私たちのなじみの深いいわゆる方程式や幾何学とはまったく別の数学が数学の世界にはあり、それは、「ブレード群」「調和解析」「ガロア群」「リーマン面」「量子物理学」などそれぞれ別の体系を樹立している。しかし、「モジュラー」という奇妙な数学の一予想を証明することが、「フェルマーの予想」を証明することになるように、異なる数学の間の架け橋を見つけようとする一群の数学者がいた。
それがフランスの数学者によって始められたラングランス・プログラムである。
この本は、80年代から今日まで、このラングランス・プログラムをひっぱってきたロシア生まれの数学者が、その美しい数学の架け橋を、とびきり魅力的な語り口で自分の人生の物語と重ね合わせながら、書いたノンフィクションである。
上の方程式でnが3以上の自然数の場合、これを満たす解はない。
私はこれについての真に驚くべき証明を知っているが、ここには余白が少なすぎて記せない。
17世紀の学者フェルマーが書き残したこの一見簡単そうな「フェルマーの予想」を証明するために360年にわたって様々な数学者が苦悩した。
360年後にイギリスのワイルズがこれを証明するが、その証明の方法は、谷村・志村予想というまったく別の数学の予想を証明すれば、フェルマーの最終定理を証明することになるというものだった。
私たちのなじみの深いいわゆる方程式や幾何学とはまったく別の数学が数学の世界にはあり、それは、「ブレード群」「調和解析」「ガロア群」「リーマン面」「量子物理学」などそれぞれ別の体系を樹立している。しかし、「モジュラー」という奇妙な数学の一予想を証明することが、「フェルマーの予想」を証明することになるように、異なる数学の間の架け橋を見つけようとする一群の数学者がいた。
それがフランスの数学者によって始められたラングランス・プログラムである。
この本は、80年代から今日まで、このラングランス・プログラムをひっぱってきたロシア生まれの数学者が、その美しい数学の架け橋を、とびきり魅力的な語り口で自分の人生の物語と重ね合わせながら、書いたノンフィクションである。
- 本の長さ496ページ
- 言語日本語
- 出版社文藝春秋
- 発売日2015/7/13
- ISBN-104163902805
- ISBN-13978-4163902807
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
憧れのモスクワ大学の力学数学部の試験に全問正解したにもかかわらず父親がユダヤ人であるために不合格。それでも少年は諦めず、数学を学び続けた。「ブレイド群」「リーマン面」「ガロア群」「カッツ・ムーディー代数」「層」「圏」…、まったく違ってみえる様々な数学の領域。しかし、そこには不思議なつながりがあった。やがて少年は数学者として、異なる数学の領域に架け橋をかける「ラングランズ・プログラム」に参加。それを量子物理学にまで拡張することに挑戦する。ソ連に生まれた数学者の自伝がそのまま、数学の壮大なプロジェクトを叙述する。
著者について
1968年旧ソ連のコロムナという都市で生まれる。両親の友人の数学者の手ほどきをうけ、幼い頃から数学オリンピックで金メダルをとるなど才能を発揮したが、父親がユダヤ人であるためモスクワ大学の入学を試験で高得点をあげたにもかかわらず面接で落とされる。石油経済研究所で応用数学を学び、ここで、フランスの数学者ラングランスが始めた数学と数学の間の架け橋をかける「ラングランス・プログラム」に興味を持ち、その第一人者となる。現在、カリフォルニア大学バークレー校の数学の教授である。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
フレンケル,エドワード
1968年に旧ソ連のコロムナという地方都市で生まれる。高校時代は量子物理学に興味をもつが、両親の友人である数学者の手引きで数学の魅力に目覚める。父親がユダヤ人であるため、モスクワ大学の入学試験では、全問正解したにもかかわらず不合格となり、やむなく石油ガス研究所(日本でいうところの工業大学)に入学し、応用数学を学ぶ。だがその一方、ひそかに純粋数学の研究を続け、また学部在学中に、運よくソ連国外に出た論文が認められてハーバード大学に客員教授として招かれる。カリフォルニア大学バークレー校の数学教授
青木/薫
1956年、山形県生まれ。京都大学理学部卒業、同大学院博士課程修了。理学博士。翻訳家。「幅広い層に数学への興味を抱かせる本を翻訳して、数学の普及に大きく貢献している」として2007年度の日本数学会賞出版賞を受賞している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1968年に旧ソ連のコロムナという地方都市で生まれる。高校時代は量子物理学に興味をもつが、両親の友人である数学者の手引きで数学の魅力に目覚める。父親がユダヤ人であるため、モスクワ大学の入学試験では、全問正解したにもかかわらず不合格となり、やむなく石油ガス研究所(日本でいうところの工業大学)に入学し、応用数学を学ぶ。だがその一方、ひそかに純粋数学の研究を続け、また学部在学中に、運よくソ連国外に出た論文が認められてハーバード大学に客員教授として招かれる。カリフォルニア大学バークレー校の数学教授
青木/薫
1956年、山形県生まれ。京都大学理学部卒業、同大学院博士課程修了。理学博士。翻訳家。「幅広い層に数学への興味を抱かせる本を翻訳して、数学の普及に大きく貢献している」として2007年度の日本数学会賞出版賞を受賞している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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登録情報
- 出版社 : 文藝春秋 (2015/7/13)
- 発売日 : 2015/7/13
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 496ページ
- ISBN-10 : 4163902805
- ISBN-13 : 978-4163902807
- Amazon 売れ筋ランキング: - 41,755位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 4,281位ノンフィクション (本)
- カスタマーレビュー:
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カスタマーレビュー
5つ星のうち4.2
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2017年12月9日に日本でレビュー済み
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Amazonで購入
番組自体は全然知らず、数学が出来ないなりに数学好きだったため、数学の大統一理論の話が啓蒙書として出たのかと勘違いし、アマゾンのオススメにもあったので読んでみました。全編通して数学のエリート、天才がいかにして育ってきたのか、がよくわかりました。でも、数学自体の話が少なかったので、思っていたのとは違いました。著者の先生の数学感や天才感は伝わってきます。そういう意味では面白かったし、一見違う現象や数式に見えても、抽出した内容や数学的な意味が実は同じという感覚、数学的な感覚の面白さ、そういうのを掴むのにはいい本だと思います。あと、先生はイケメンで、恋しそうなビジュアルでした(笑)
18人のお客様がこれが役に立ったと考えています
役に立った
2020年5月15日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
1.ただの層どまりで、ファイバー束や強いファイブレーションのホモトピー、及び、弱いファイブレーションの手術カタストロフィーによるメタボリック・システムや準ファイブレーション、また、さらに進んで、自己を、準ファイブレーションどもを付加したテンソル・バンドルどもの関係を表現する「構造群」どもとして、特殊化・個別化して生成してゆく具体的普遍であるところの、汎宇宙・普遍宇宙 幾何学 = 超テンソル論 (それも、和田博氏の多元数で表現したもの)の概念にまで進んでいない。
2.組みひも、結び目、絡み目という概念装置の包含関係と、それらの限界を見ていない。
3.乗法のみを事とする、グロタンディークの概型(スキーム)理論だけに頼っている。加法に基づくトポロジカルな構造( = 補概型)も併せて考慮すべきである。(乗法p進数 プラス 加法p進数 の両方から成る双概型の理論が要る。)
4.「相対論」と、其れと同値な「不確定性原理」に基づく「量子力学」の全体を盲信・丸呑みしてしまっている。
2.組みひも、結び目、絡み目という概念装置の包含関係と、それらの限界を見ていない。
3.乗法のみを事とする、グロタンディークの概型(スキーム)理論だけに頼っている。加法に基づくトポロジカルな構造( = 補概型)も併せて考慮すべきである。(乗法p進数 プラス 加法p進数 の両方から成る双概型の理論が要る。)
4.「相対論」と、其れと同値な「不確定性原理」に基づく「量子力学」の全体を盲信・丸呑みしてしまっている。
2020年6月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ロシアの才能ある数学者が、ソ連時代の過酷な反ユダヤの人種差別の中、紆余曲折を経て、アメリカで活躍する経緯を描いた自伝ですが、専門の群や層の研究からラングランズ・プログラムの研究に至る話が、エピソードを交えて分かりやすく書かれています。
特に量子物理学の分野で、悩まされる“双対性”が、ラングランズでも双対群として存在する話は驚きでした。
いろいろな数学・物理分野をつなぐ“ロゼッタストーン”の発見と進展を予感させる話です。
その一方で、南部陽一郎さんの“自発的対称性の破れ”の業績もあり、自然は多様で奥深い感がしています。
特に量子物理学の分野で、悩まされる“双対性”が、ラングランズでも双対群として存在する話は驚きでした。
いろいろな数学・物理分野をつなぐ“ロゼッタストーン”の発見と進展を予感させる話です。
その一方で、南部陽一郎さんの“自発的対称性の破れ”の業績もあり、自然は多様で奥深い感がしています。
2022年5月15日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
本書は、ソ連(現ロシア)生まれで、米国
カルフォルニア大学バークレー校で教鞭をとる
数学者 エドワード・フレンケル氏
Edward Vladimirovich Frenkel (1968-)
による半生記であり、数学啓蒙書です。
原題は "Love and Math"で、副題は
"The Heart of Hidden Reality" です。
どちらも抽象的であまり意味を成しません。
要するに、本書の内容は次の2点です。
①ユダヤ系である著者が数学者となるまでに
ソ連で受けた国家レベルの最も粗暴な形態での
厄災・人災・苦労・辛苦・差別・不当・絶望。
②ラングランズ・プログラム。
ラングランズ・プログラムとはカナダ生まれで
米国で教鞭をとった数学者ラングランズ氏
Robert Langlands (1936-)による現代数学
における広汎な予想の集まりを指します。
よってラングランズ予想とも呼ばれます。
もともと、整数論におけるガロア群の表現と
有限体上の曲線における考察で生まれました。
ガロア群の表現と保型関数(保型形式)との
間に一つの関係性を打ち立てようとするのが
ラングランズ予想です。それによって
例えば整数や素数に関する問題が、保型形式
を用いて解くことが可能になります。そして
保型形式には非常に高度の対称性を持つという
利点があります。(ラングランズ予想には
いろいろな定式化のやり方がありますので
どういう述べ方をするかによって、内容が
必ずしも同値ではないことがあります。厳密
なことは専門書でご確認をお勧めします)
著者はラングランズ予想を量子力学の分野に
広げようと研究している由です。
フィールズ賞を受賞した米国の理論物理学者
エドワード・ウィッテン氏(1951-)と
共同研究を進めていることが本書でも詳しく
紹介されています。物理学の分野では従来
「重力」「電磁気力」(量子力学における)
「弱い力」「強い力」という4つの力が
知られています。これらの力を同じ法則で
表すことを目指すのが「統一場理論」であり
(重力を別にした)3つの力の統一を目指す
のが「大統一理論」です。
統一場理論の候補としてよく知られているのが
「弦理論」です。そのひとつ「超弦理論」も
研究されています。本書の冒頭、著者が数学を
勉強し始めた動機は、量子力学を理解するため
には数学が必要であると、師匠筋から勧められ
たことでした。数学者となった著者が
ラングランズ・プログラムを量子力学まで
広げようとしていることは、比喩的な意味で
初恋の対象への回帰とも理解できます。すると
原題"Love and Math" の "Love" は Physics
を指していると解釈することも間違いではない
と思います(基本は「数学への愛」です)。
著者はラングランズ・プログラムについて
それが何たるかをいろいろ工夫して語って
います。局所的にはよくできていると思います
が、あくまでアイデアやイメージであるのは
啓蒙書であるため当然です。本書を奇貨として
専門書で勉強されることをお勧めします。
矛盾するようですが、ざっくりと語りますと
ラングランズ・プログラムに通底するのは
「アナロジー」という考え方です。類推と
訳されることが多いのですが、むしろ類比と
訳した方が真意に近いでしょう。
「AにおけるBは、CにおけるDである」
という思考パターンがアナロジーです。
物騒ですが分かりやすい例を作ると
「ソ連におけるスターリンは、ドイツ第三帝国
におけるヒトラーである」となります。
整数論には難しい問題が多いのですが、それを
(上述の如く)代わりに保型形式を考えること
によってアプローチできるならば
それは強力な手法となります。事実、
「フェルマーの最終定理(FLT)」という
整数についてのある種の不定方程式の問題を
直接、考える代わりに
「楕円曲線はモジュラーである」という命題
(谷山=志村=ヴェイユ予想)を証明する
ことによって、FLTが証明されたのは
有名な話です。この文脈においてFLTは
ラングランズ・プログラムの中の一例で
あると言うことができます。本書でも
FLTについては、比較的詳しく語られ
ています。
さて冒頭で述べましたように、本書の半分は
ユダヤ系である著者が、ソ連でいかに苦労した
かという壮絶な「いじめ」(というよりも
国家レベルの犯罪・人間性に対する罪と呼んだ
方がいいかもしれません)の記述です。
父親がユダヤ人(母親はロシア人)であると
いうだけの理由で
「ユダヤ人はモスクワ大学には入学できま
せん」と入学を拒否されます。
モスクワ大学は地元では
MGU(エム・ゲー・ウー)と略称で呼ばれ
ソ連=ロシアで最も多くの数学者を輩出した
大学です。もちろん他にも、サンクトペテル
ブルク大学(旧レニングラード大学)や
カザン大学など、歴史のある大学が世界的に
知られています。
実はソ連に成る前のロシア帝国の時代から
ロシアは世界でも最も厳しいユダヤ人差別の国
でした。実はあの大作家ドストエフスキーも、
トルストイも、ユダヤ人を批判する内容の文章
を書いています。他は推して知るべしです。
ソ連が成立ししばらくは緩んだかのようですが
スターリン政権の末期にはユダヤ人差別は極度
に悪化、フルシチョフ政権、ブレジネフ政権下
でも継続しました。
著者が「ユダヤ人はモスクワ大学に入学でき
ないことを知らないのですか?」と女性事務員
に冷たく突き放されたのが1984年のことで
チェルネンコ政権の末期です。ゴルバチョフ
政権が誕生するのは翌1985年のことです。
MGUに入学できなかった著者が、後年、米国
ハーバード大学に「留学」できたのは
ペレストロイカとグラスノスチの影響があった
と思われます。
1978年フィンランドのヘルシンキで開かれた
国際数学者会議(ICM)で、ソ連の数学者
Gregory Aleksandrovich Margulis(1946-)
がフィールズ賞を受賞しました。しかしソ連
当局はマルグリス氏の出国を認めなかったため
ヘルシンキでの授賞式に出席することができま
せんでした。それはマルグリス氏がリトニア系
ユダヤ人の子孫だったからです。
後年マルグリス氏は米国イェール大学で教え
ウルフ賞(2005)、アーベル賞(2020)も
受賞、数学の世界で「三冠」を達成しました。
(三冠数学者は他にもいらしゃいます)
1978年当時から、ソ連ではユダヤ人差別が
行われているらしいということは、西側でも
次第に知られて来るようになっていました。
ユダヤ人をMGUに入学させないために
ユダヤ人受験生には特別に難しい問題を与えて
「成績不良」の口実で落としていました。
その具体的な問題も伝わっていました。
手元にある本には本当に極めて難しい問題
が載っています。
そうした情報が西側に伝わって来ていたのは
「Samizdat (サミズダート)」という
手段によります。ロシア語で Sam は「自己」
izdat は「出版(社)」を指しますから
Samizdat は「自己出版」ですが、現実は
「地下出版」のことです。サミズダートが
いろいろな方便によって西側にも流れて来て
ソ連国内の状況が分かるのでした。
私たちがサミズダートを通じて知ることができ
たのはあくまで間接情報でした。それに対し
本書の記述はリアルであり、ヴィヴィッドで
あり、直接的であり、具体的です。
国家という巨大な車輪が一人の人間を容易に
踏み潰していくような感覚にとらわれます。
それは大なり小なり、ソ連のみならず、極東の
島国でも行われていると思います。
ソ連という崩壊した国(連邦、同盟)を鏡とし
現状について考える上で本書は有益です。
カルフォルニア大学バークレー校で教鞭をとる
数学者 エドワード・フレンケル氏
Edward Vladimirovich Frenkel (1968-)
による半生記であり、数学啓蒙書です。
原題は "Love and Math"で、副題は
"The Heart of Hidden Reality" です。
どちらも抽象的であまり意味を成しません。
要するに、本書の内容は次の2点です。
①ユダヤ系である著者が数学者となるまでに
ソ連で受けた国家レベルの最も粗暴な形態での
厄災・人災・苦労・辛苦・差別・不当・絶望。
②ラングランズ・プログラム。
ラングランズ・プログラムとはカナダ生まれで
米国で教鞭をとった数学者ラングランズ氏
Robert Langlands (1936-)による現代数学
における広汎な予想の集まりを指します。
よってラングランズ予想とも呼ばれます。
もともと、整数論におけるガロア群の表現と
有限体上の曲線における考察で生まれました。
ガロア群の表現と保型関数(保型形式)との
間に一つの関係性を打ち立てようとするのが
ラングランズ予想です。それによって
例えば整数や素数に関する問題が、保型形式
を用いて解くことが可能になります。そして
保型形式には非常に高度の対称性を持つという
利点があります。(ラングランズ予想には
いろいろな定式化のやり方がありますので
どういう述べ方をするかによって、内容が
必ずしも同値ではないことがあります。厳密
なことは専門書でご確認をお勧めします)
著者はラングランズ予想を量子力学の分野に
広げようと研究している由です。
フィールズ賞を受賞した米国の理論物理学者
エドワード・ウィッテン氏(1951-)と
共同研究を進めていることが本書でも詳しく
紹介されています。物理学の分野では従来
「重力」「電磁気力」(量子力学における)
「弱い力」「強い力」という4つの力が
知られています。これらの力を同じ法則で
表すことを目指すのが「統一場理論」であり
(重力を別にした)3つの力の統一を目指す
のが「大統一理論」です。
統一場理論の候補としてよく知られているのが
「弦理論」です。そのひとつ「超弦理論」も
研究されています。本書の冒頭、著者が数学を
勉強し始めた動機は、量子力学を理解するため
には数学が必要であると、師匠筋から勧められ
たことでした。数学者となった著者が
ラングランズ・プログラムを量子力学まで
広げようとしていることは、比喩的な意味で
初恋の対象への回帰とも理解できます。すると
原題"Love and Math" の "Love" は Physics
を指していると解釈することも間違いではない
と思います(基本は「数学への愛」です)。
著者はラングランズ・プログラムについて
それが何たるかをいろいろ工夫して語って
います。局所的にはよくできていると思います
が、あくまでアイデアやイメージであるのは
啓蒙書であるため当然です。本書を奇貨として
専門書で勉強されることをお勧めします。
矛盾するようですが、ざっくりと語りますと
ラングランズ・プログラムに通底するのは
「アナロジー」という考え方です。類推と
訳されることが多いのですが、むしろ類比と
訳した方が真意に近いでしょう。
「AにおけるBは、CにおけるDである」
という思考パターンがアナロジーです。
物騒ですが分かりやすい例を作ると
「ソ連におけるスターリンは、ドイツ第三帝国
におけるヒトラーである」となります。
整数論には難しい問題が多いのですが、それを
(上述の如く)代わりに保型形式を考えること
によってアプローチできるならば
それは強力な手法となります。事実、
「フェルマーの最終定理(FLT)」という
整数についてのある種の不定方程式の問題を
直接、考える代わりに
「楕円曲線はモジュラーである」という命題
(谷山=志村=ヴェイユ予想)を証明する
ことによって、FLTが証明されたのは
有名な話です。この文脈においてFLTは
ラングランズ・プログラムの中の一例で
あると言うことができます。本書でも
FLTについては、比較的詳しく語られ
ています。
さて冒頭で述べましたように、本書の半分は
ユダヤ系である著者が、ソ連でいかに苦労した
かという壮絶な「いじめ」(というよりも
国家レベルの犯罪・人間性に対する罪と呼んだ
方がいいかもしれません)の記述です。
父親がユダヤ人(母親はロシア人)であると
いうだけの理由で
「ユダヤ人はモスクワ大学には入学できま
せん」と入学を拒否されます。
モスクワ大学は地元では
MGU(エム・ゲー・ウー)と略称で呼ばれ
ソ連=ロシアで最も多くの数学者を輩出した
大学です。もちろん他にも、サンクトペテル
ブルク大学(旧レニングラード大学)や
カザン大学など、歴史のある大学が世界的に
知られています。
実はソ連に成る前のロシア帝国の時代から
ロシアは世界でも最も厳しいユダヤ人差別の国
でした。実はあの大作家ドストエフスキーも、
トルストイも、ユダヤ人を批判する内容の文章
を書いています。他は推して知るべしです。
ソ連が成立ししばらくは緩んだかのようですが
スターリン政権の末期にはユダヤ人差別は極度
に悪化、フルシチョフ政権、ブレジネフ政権下
でも継続しました。
著者が「ユダヤ人はモスクワ大学に入学でき
ないことを知らないのですか?」と女性事務員
に冷たく突き放されたのが1984年のことで
チェルネンコ政権の末期です。ゴルバチョフ
政権が誕生するのは翌1985年のことです。
MGUに入学できなかった著者が、後年、米国
ハーバード大学に「留学」できたのは
ペレストロイカとグラスノスチの影響があった
と思われます。
1978年フィンランドのヘルシンキで開かれた
国際数学者会議(ICM)で、ソ連の数学者
Gregory Aleksandrovich Margulis(1946-)
がフィールズ賞を受賞しました。しかしソ連
当局はマルグリス氏の出国を認めなかったため
ヘルシンキでの授賞式に出席することができま
せんでした。それはマルグリス氏がリトニア系
ユダヤ人の子孫だったからです。
後年マルグリス氏は米国イェール大学で教え
ウルフ賞(2005)、アーベル賞(2020)も
受賞、数学の世界で「三冠」を達成しました。
(三冠数学者は他にもいらしゃいます)
1978年当時から、ソ連ではユダヤ人差別が
行われているらしいということは、西側でも
次第に知られて来るようになっていました。
ユダヤ人をMGUに入学させないために
ユダヤ人受験生には特別に難しい問題を与えて
「成績不良」の口実で落としていました。
その具体的な問題も伝わっていました。
手元にある本には本当に極めて難しい問題
が載っています。
そうした情報が西側に伝わって来ていたのは
「Samizdat (サミズダート)」という
手段によります。ロシア語で Sam は「自己」
izdat は「出版(社)」を指しますから
Samizdat は「自己出版」ですが、現実は
「地下出版」のことです。サミズダートが
いろいろな方便によって西側にも流れて来て
ソ連国内の状況が分かるのでした。
私たちがサミズダートを通じて知ることができ
たのはあくまで間接情報でした。それに対し
本書の記述はリアルであり、ヴィヴィッドで
あり、直接的であり、具体的です。
国家という巨大な車輪が一人の人間を容易に
踏み潰していくような感覚にとらわれます。
それは大なり小なり、ソ連のみならず、極東の
島国でも行われていると思います。
ソ連という崩壊した国(連邦、同盟)を鏡とし
現状について考える上で本書は有益です。