硫黄島は、はじめから絶望的な戦場であった。しかも栗林は、総指揮官としての自分の役割が「勝つ」ことではないと知っていた。本書では「米軍の中でも命知らずの荒くれ揃いで知られる海兵隊の兵士たちをして『史上最悪の戦闘』『地獄の中の地獄』と震えあがらせた」栗林忠道をその多くの手紙から浮かび上がらせる。栗林は、常に家族を想い、兵たちと苦楽をともにし、「普通の人々が普通の生活を送れるようにするために自分たちは存在する」という常識を忘れず、彼我の戦力差を直視して作戦を立てることができる稀有な合理主義者であった。
栗林は2万将兵に死よりも苦しい生を生きよと言い、潔く散ることさえも禁じた。その命令を守り抜いた将兵たちのために栗林が大本営に送った最後の戦訓電報は痛烈な抗議文だった。「実質を伴わぬ弥縫策を繰り返し、行き詰まってにっちもさっちもいかなくなったら『見込みなし』として放棄する。その結果、見捨てられた戦場では、効果が少ないと知りながらバンザイ突撃で兵士たちが死んでいく。将軍は腹を切る。アッツでもタラワでも、サイパンでもグアムでもそうだった。その死を玉砕という美しい名で呼び、見通しの誤りと作戦の無謀を『美学』で覆い隠す欺瞞を、栗林は許せなかったのではないか」。
硫黄島が占領され、東京で絨毯爆撃による虐殺が行われたことを知った栗林は、それまで禁じてきた最後の突撃を敢行する。「いま日本は戦に敗れたりといえども、日本国民が諸君の忠君愛国の精神に燃え、諸君の勲功をたたえ、諸君の霊に対し涙して黙禱を捧げる日が、いつか来るであろう。安んじて諸君は国に殉ずべし」。生き残った兵はゲリラとなって洞窟に潜んだ。最後の兵2名が投降したのは、昭和24年1月6日。終戦から3年半、玉砕からは4年近くが経っていた。
散るぞ悲しき―硫黄島総指揮官・栗林忠道 (新潮文庫) (日本語) 文庫 – 2008/7/29
梯 久美子
(著)
著者の作品一覧、著者略歴や口コミなどをご覧いただけます
この著者の 検索結果 を表示
あなたは著者ですか?
著者セントラルはこちら
|
-
本の長さ302ページ
-
言語日本語
-
出版社新潮社
-
発売日2008/7/29
-
寸法14.8 x 10.5 x 2 cm
-
ISBN-10410135281X
-
ISBN-13978-4101352817
よく一緒に購入されている商品
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ: 1 / 1 最初に戻るページ: 1 / 1
Kindle 端末は必要ありません。無料 Kindle アプリのいずれかをダウンロードすると、スマートフォン、タブレットPCで Kindle 本をお読みいただけます。
Kindle化リクエスト
このタイトルのKindle化をご希望の場合、こちらをクリックしてください。
Kindle をお持ちでない場合、こちらから購入いただけます。 Kindle 無料アプリのダウンロードはこちら。
このタイトルのKindle化をご希望の場合、こちらをクリックしてください。
Kindle をお持ちでない場合、こちらから購入いただけます。 Kindle 無料アプリのダウンロードはこちら。
商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
水涸れ弾尽き、地獄と化した本土防衛の最前線・硫黄島。司令官栗林忠道は5日で落ちるという米軍の予想を大幅に覆し、36日間持ちこたえた。双方2万人以上の死傷者を出した凄惨な戦場だった。玉砕を禁じ、自らも名誉の自決を選ばず、部下達と敵陣に突撃して果てた彼の姿を、妻や子に宛てて書いた切々たる41通の手紙を通して描く感涙の記録。大宅壮一ノンフィクション賞受賞。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
梯/久美子
1961(昭和36)年熊本県生れ。北海道大学文学部卒業。編集者を経て文筆業に。初の単行本である『散るぞ悲しき』は、2006(平成18)年に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞、米・英・韓・伊など世界7カ国で翻訳出版されている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1961(昭和36)年熊本県生れ。北海道大学文学部卒業。編集者を経て文筆業に。初の単行本である『散るぞ悲しき』は、2006(平成18)年に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞、米・英・韓・伊など世界7カ国で翻訳出版されている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
この商品を買った人はこんな商品も買っています
ページ: 1 / 1 最初に戻るページ: 1 / 1
カスタマーレビュー
5つ星のうち4.5
星5つ中の4.5
203 件のグローバル評価
評価はどのように計算されますか?
全体的な星の評価と星ごとの割合の内訳を計算するために、単純な平均は使用されません。その代わり、レビューの日時がどれだけ新しいかや、レビューアーがAmazonで商品を購入したかどうかなどが考慮されます。また、レビューを分析して信頼性が検証されます。
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2016年9月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
先の大戦について 陸軍悪玉・海軍善玉的評価(司馬史感の影響大と思う)が一般的だが、硫黄島の戦いでは、明らかに海軍のほうがおかしい。
この本には書いてないが、無用な死(たとえば 護衛艦なしの兵員輸送中で、沈没による多くの兵隊が(つまるところ国に)殺されたなど、現場を知らず、知ろうともしない無責任な上層部命令を出して、戦後ものうのうと生きているのは少なくない。
栗林大将のような、同じ戦死でも、明確な使命感を与え、部下と共に戦った方をもっと広く知らしめたい。その意味でこの本は、不朽の名著と思う。
アメリの国力を知っていた立派な人もいた。スエーデン駐在武官の小野寺少将もそうだ。
山本五十六を持ち上げるのも ほどほどにした方がいい。
この本には書いてないが、無用な死(たとえば 護衛艦なしの兵員輸送中で、沈没による多くの兵隊が(つまるところ国に)殺されたなど、現場を知らず、知ろうともしない無責任な上層部命令を出して、戦後ものうのうと生きているのは少なくない。
栗林大将のような、同じ戦死でも、明確な使命感を与え、部下と共に戦った方をもっと広く知らしめたい。その意味でこの本は、不朽の名著と思う。
アメリの国力を知っていた立派な人もいた。スエーデン駐在武官の小野寺少将もそうだ。
山本五十六を持ち上げるのも ほどほどにした方がいい。
2019年12月30日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
〇太平洋戦争の激戦地硫黄島の日本軍総指揮官だった栗林忠道中将の生涯を紹介するノンフィクション。
○高潔な現地司令官、健気に戦う兵士、冷酷な軍本部、という構図は、他にもあったように思うが、硫黄島もその典型的な一例であり、著者の綿密な調査によってそれが浮き彫りにされている。
○栗林中将は、過去の日本軍の作戦を研究のうえ、全滅必至の戦いにおいて、兵に簡単に突撃を許さず、最後まで苦しい籠城戦を展開した後に死ぬ方針を採る。それが本土を守るため少しでも意味のある死になると考えたからである。兵士はその方針にしたがって最後まで米軍を苦しめて玉砕する。
○栗林中将の時世の歌「国の為重きつとめを果たし得て、矢玉尽き果て散るぞ悲しき」はその真情をよく表している。しかしながら大本営はこれを「散るぞ口惜し」と書き換えて発表する。想像するに発表文を稟議で回した際に、誰かが書き換え上位者たちがこれを追認したのであろう。大本営の幹部の椅子にはこのような人物たちが座っていたということである。彼らも戦争遂行に全力を尽くしてはいただろう。しかし、彼らの知性と教養がもっと上等であったならば、敗戦という結末は変わらなかったにしても、悲劇はもっと少なくて済んだのではないかと思う。
○高潔な現地司令官、健気に戦う兵士、冷酷な軍本部、という構図は、他にもあったように思うが、硫黄島もその典型的な一例であり、著者の綿密な調査によってそれが浮き彫りにされている。
○栗林中将は、過去の日本軍の作戦を研究のうえ、全滅必至の戦いにおいて、兵に簡単に突撃を許さず、最後まで苦しい籠城戦を展開した後に死ぬ方針を採る。それが本土を守るため少しでも意味のある死になると考えたからである。兵士はその方針にしたがって最後まで米軍を苦しめて玉砕する。
○栗林中将の時世の歌「国の為重きつとめを果たし得て、矢玉尽き果て散るぞ悲しき」はその真情をよく表している。しかしながら大本営はこれを「散るぞ口惜し」と書き換えて発表する。想像するに発表文を稟議で回した際に、誰かが書き換え上位者たちがこれを追認したのであろう。大本営の幹部の椅子にはこのような人物たちが座っていたということである。彼らも戦争遂行に全力を尽くしてはいただろう。しかし、彼らの知性と教養がもっと上等であったならば、敗戦という結末は変わらなかったにしても、悲劇はもっと少なくて済んだのではないかと思う。
2020年5月26日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
そんなに山ほど本を読むタイプではありません。たぶん普通です。
でもこの本は、何度も読みたくなって、結局3回買いました。いま、5回目読み返してます。
様々な偶然が重なって、この時期にしか書きえなかった本。
たまたまこの事実に触れてしまった筆者が、使命感を持ち並々ならぬ情熱を注いで書き上げた本。
あまり知られていなかった硫黄島の現実を、もしかしたら自虐史観教育?の中で育った私たちにも、
日本軍にすばらしい知将がいたという真実を告げてくれる本。
そして何より、戦争というものがあまりにも悲しく、生産的でなく、無力なことを教えてくれる本。
人生No1の本です。ぜひ、多くの方に読んでいただきたいです。
でもこの本は、何度も読みたくなって、結局3回買いました。いま、5回目読み返してます。
様々な偶然が重なって、この時期にしか書きえなかった本。
たまたまこの事実に触れてしまった筆者が、使命感を持ち並々ならぬ情熱を注いで書き上げた本。
あまり知られていなかった硫黄島の現実を、もしかしたら自虐史観教育?の中で育った私たちにも、
日本軍にすばらしい知将がいたという真実を告げてくれる本。
そして何より、戦争というものがあまりにも悲しく、生産的でなく、無力なことを教えてくれる本。
人生No1の本です。ぜひ、多くの方に読んでいただきたいです。
ベスト1000レビュアー
Amazonで購入
戦前の日本軍は、大元帥が凡人なので、その部下もそれに相応しく、東條英機や山本五十六のような軽はずみの阿呆しかおらぬと思っていた。しかし、
本書により、栗林忠道のようなまともな軍人の存在を、初めて知り、とても嬉しく思った。大量に情報が氾濫しているので、真実に出会うのはその人の運次第だ。栗林忠道のような人物が日本陸軍にもいたことを知り、とても嬉しく思った。
エピローグには、次のように書かれているが、正にその通りだ。
「硫黄島に渡ってからの栗林の軌跡を辿っていくと、軍の中枢にいて戦争指導を行った者たちと、第一線で生死を賭して戦った将兵たちとでは、「軍人」という言葉でひとくくりにするのがためらわれるほどの違いがあることが改めて見えてくる。」(282頁)と。
また、栗林中将は軍隊は一般国民の命を守るために存在しているという意識を強く持っていたが、これは当然なことで、戦後の日本国憲法の下での自衛隊な基本理念のはすだ。
しかし、実際には、1985年8月12日の日航123便ジャンボ機墜落事故(事件)について遺族の小田周二氏や青山透子が指摘指摘通り、自衛隊標的機が衝突し、これを隠蔽するために、生存者数十名以上を虐殺したとするならば、今もって栗林の「悲しき」は晴れていないのである。
本書により、栗林忠道のようなまともな軍人の存在を、初めて知り、とても嬉しく思った。大量に情報が氾濫しているので、真実に出会うのはその人の運次第だ。栗林忠道のような人物が日本陸軍にもいたことを知り、とても嬉しく思った。
エピローグには、次のように書かれているが、正にその通りだ。
「硫黄島に渡ってからの栗林の軌跡を辿っていくと、軍の中枢にいて戦争指導を行った者たちと、第一線で生死を賭して戦った将兵たちとでは、「軍人」という言葉でひとくくりにするのがためらわれるほどの違いがあることが改めて見えてくる。」(282頁)と。
また、栗林中将は軍隊は一般国民の命を守るために存在しているという意識を強く持っていたが、これは当然なことで、戦後の日本国憲法の下での自衛隊な基本理念のはすだ。
しかし、実際には、1985年8月12日の日航123便ジャンボ機墜落事故(事件)について遺族の小田周二氏や青山透子が指摘指摘通り、自衛隊標的機が衝突し、これを隠蔽するために、生存者数十名以上を虐殺したとするならば、今もって栗林の「悲しき」は晴れていないのである。
2013年12月31日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
高熱ガスが噴き出す地獄の硫黄島での壮絶な戦闘の詳細については散々語り尽されているので
触れないが、この本からはリーダーのあるべき姿、家長たる父の在り方等以外に"散るぞ悲しき"に
込められた当時の日本の問題点と、そこから推測した今の日本も省みるべき点を以下に挙げてみる。
1.現実に向き合う事の大切さ
守勢に転じた各地で負けが多くなっていた日本軍が、現場に合った戦法でしっかり準備すれば
大いに善戦できた事を彼らは証明した。しかし大本営の現実を無視した伝統重視の指示や陸、
海軍の意見の食い違いで陣地構築が現場指揮官の思うように進まなかったので全力を出し切る
事ができなかった。理想論や精神論、伝統や慣例は刻々と変化する状況において全く意味がなく、
現実的かつ理論的に考える重要性を示している。
2.長期的ビジョンの大切さ
1920年代からアメリカは上陸専門の海兵隊を組織して日本との戦闘に備えていたと書かれている。
死守せよと命じられた硫黄島をあっさり放棄する大本営の行き当たりばったりな指示を見ると、戦う
前から対日戦の構想を練って準備を重ねていたアメリカに対して日本も同じような事をしていたとは
思えない。短期ではなく長期的なビジョンを持ち、常日頃からあらゆる事態を想定して準備しておく
慎重さが重要である事を考えさせられた。日本人は細かい事は得意だが大きい事を考えるのが
不得意というのは今も昔も変わっていない気がする。
3.幅広い視点での情報分析、判断力の大切さ
当時はドイツに習う事に重きを置き、アメリカを軽視した結果が無謀な戦争に繋がったと言えるので
アメリカに留学してその強大な国力を目の当たりにしていた栗林中将はその無謀さを嘆いていた。
偏った詰め込み教育を排し、英語を学ぶ=グローバルと言った幼稚な発想の教育ではなく、例えば
大学卒業までに最低3ヶ国くらい実際に行って国際感覚を身に着けられるような体験型教育を実施
する教育改革が必要では、と感じさせられた。英語は知っているけど海外に行った事の無い日本人
は多いのではないだろうか。まったく本末転倒である。
このように必死で国を守る為に戦い抜き、日本が本気を出せばここまでできるという事を見せつけた
人々が居たからこそ、敗戦したとはいえ戦後も日本が世界から一目置かれる存在になっている事は
紛れもない真実である。太平洋戦争での最も熾烈な戦いの教訓が活かされる事を願うと共に、この
貴重な記録を後世に残してくれた著者に心から感謝と敬意を表したい。
触れないが、この本からはリーダーのあるべき姿、家長たる父の在り方等以外に"散るぞ悲しき"に
込められた当時の日本の問題点と、そこから推測した今の日本も省みるべき点を以下に挙げてみる。
1.現実に向き合う事の大切さ
守勢に転じた各地で負けが多くなっていた日本軍が、現場に合った戦法でしっかり準備すれば
大いに善戦できた事を彼らは証明した。しかし大本営の現実を無視した伝統重視の指示や陸、
海軍の意見の食い違いで陣地構築が現場指揮官の思うように進まなかったので全力を出し切る
事ができなかった。理想論や精神論、伝統や慣例は刻々と変化する状況において全く意味がなく、
現実的かつ理論的に考える重要性を示している。
2.長期的ビジョンの大切さ
1920年代からアメリカは上陸専門の海兵隊を組織して日本との戦闘に備えていたと書かれている。
死守せよと命じられた硫黄島をあっさり放棄する大本営の行き当たりばったりな指示を見ると、戦う
前から対日戦の構想を練って準備を重ねていたアメリカに対して日本も同じような事をしていたとは
思えない。短期ではなく長期的なビジョンを持ち、常日頃からあらゆる事態を想定して準備しておく
慎重さが重要である事を考えさせられた。日本人は細かい事は得意だが大きい事を考えるのが
不得意というのは今も昔も変わっていない気がする。
3.幅広い視点での情報分析、判断力の大切さ
当時はドイツに習う事に重きを置き、アメリカを軽視した結果が無謀な戦争に繋がったと言えるので
アメリカに留学してその強大な国力を目の当たりにしていた栗林中将はその無謀さを嘆いていた。
偏った詰め込み教育を排し、英語を学ぶ=グローバルと言った幼稚な発想の教育ではなく、例えば
大学卒業までに最低3ヶ国くらい実際に行って国際感覚を身に着けられるような体験型教育を実施
する教育改革が必要では、と感じさせられた。英語は知っているけど海外に行った事の無い日本人
は多いのではないだろうか。まったく本末転倒である。
このように必死で国を守る為に戦い抜き、日本が本気を出せばここまでできるという事を見せつけた
人々が居たからこそ、敗戦したとはいえ戦後も日本が世界から一目置かれる存在になっている事は
紛れもない真実である。太平洋戦争での最も熾烈な戦いの教訓が活かされる事を願うと共に、この
貴重な記録を後世に残してくれた著者に心から感謝と敬意を表したい。