本書は四部構成になっている。第一部では今日のコミュニケーション状況に関する対話、第二部では我が国の教養主義の来歴に関する対話、第三部では今日の大学という場に関する対話、そして第四部では総論が語られる。
教養主義はもはや死に瀕していると著者は言う。人々の読書離れが進み、売れるのは薄いハウツー本やわかりやすい物語ばかりになり、そして人々はネットというツールで断片的な情報を拾って済ませてしまう。知のタコツボ化が進み、横断的なコミュニケーションが成立しにくくなっている。それは大学についても言え、大学制度の改悪により学者の守備範囲はさらに狭くなり、小粒化している…。
このままだと読書は死に、我が国で育まれてきた教養主義は死に絶える。臨床哲学風に言えば、この状況に対する処方箋は教養の性急なバージョンアップやリバイバルではない。必要なのはリハビリテーションであり、即ち対話的教養の涵養という訳である。
著者は最後の最後で対話的教養について説明しているが、私なりにそれを書き換えると、「実りある対話をするためには対話空間が要求するメタ教養が必要であり、それは言い換えれば比喩力と呼べるが、比喩力を培うためには精読的な営みの蓄積が欠かせない」。…どうにも当たり前のことを言っているように思えるが、要するに知の柔軟性を持つには硬い芯を形作る必要性があるということだろう。言うまでもなく、古代ギリシャ哲学の時代から対話が重視されてきた。そして今日、凄まじいスピードで進む社会環境の変化の中で、教養主義を死に至らしめないためには、我々は著者が営んでいるように、対話を営んでいくべきなのだろう。
決して難しい本ではない。対話形式なのでスラスラ読める。私は対話内容がやや薄いように感じたが、第二部の対話は興味深く読めた。著者の言いたい事はわかりやすい。また、脚注がとても多いため、奥行きが与えられているので、興味のある事項があったら自分で拡げることも出来るだろう。入門書としても読める本である。久しくこういう本を読んでいなかった私にとってはリハビリテーションになった一冊だった。
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