全体量が薄く、40に満たない平易な文体のQ&Aで構成され、各Q&Aは4~6頁くらいで完結する本書は、すぐに読み終える事もでき、昨今の憲法改正論議周辺の論点の「初歩」を手早く理解したいという読者に適した本だろう。性質上、あまり深い議論には至らないため、あくまで「初歩」や「入門」に向いているという程度ではあるが、基本的論点についてのある種の基本的見解は簡潔にまとめられている。ただし「ある種の」というのは、基本的に昨今の(保守派が主導する)憲法改正に反対する立場からの、という意味であり、本書が憲法改正反対派の基本的見解がまとめられた本である事は読者が当然事前に踏まえておくべき事である。
目次を開き最初から読んでいくと、憲法とはそもそもどのような法なのか、憲法は何を定めているのか、憲法は誰が作ったのか、他国の憲法はどんななのか、日本の憲法の特徴は何なのか、といった憲法に関する素朴な疑問が次々に扱われ、最初はタイトルに反して憲法の「全体像」を手堅い知識を背景に置きつつ、「幅広く」簡素に解説する本なのかもしれない、という気配もあったが、やはりそういう事はなく、全体としては話題・論点はかなり絞られている。あくまで先に挙げたような話は、本書の中では前置きに属し、分量も多くはない。本書の趣旨については「オーソドックスなスタイルの憲法の解説書とは少し趣を変えて、まず最初に改正される可能性の高い憲法96条と、これまでも改正論の中心になってきた憲法9条に注目してみました」(3)という伊藤氏自身の言葉を引用するだけで十分だろう。
後半というか、66頁からの三章以降はほぼ全てが九条、自衛隊、戦争、国防、外交、平和などの問題に費やされている。これは勿論、憲法に関する論点でもあるが、伊藤氏自身が「憲法の内容からは少し離れますが、9条に関連する自衛隊や安全保障、国際貢献などについても紹介しています」(3)と言っているように、純粋な憲法論を離れた外交政策論、国防政策論などのような話も多く含まれている。だがそれは九条の是非を説得的に論じるには、純憲法論以外にも目を向けるべきだという当然の必要に応じたものであり、問題ではないだろう。伊藤氏の最も真っ直ぐな種類の護憲的絶対平和主義的信念には大きく賛否が分かれるところではあるだろうが、こういう本があってはいけない、という事はないだろう。伊藤氏と立場を同じくする人にとっては、改めて平和主義的立場から九条や国際紛争の問題をどのように考えていくべきか(再)確認できるだろうし、九条や絶対平和主義に批判的な(日本の現状の通俗的用法で言うところの)右翼の人も、「典型的な護憲派」「典型的な平和主義者」がどのような認識、問題意識、発想、価値観を持っているのかを、手早く簡潔に学ぶ事ができ、参考になるだろう。敵を知るのもまた勉強であり政治である。右翼でも左翼でも、護憲派でも改憲派でもないようなノンポリ的な自意識を持っている人も、憲法や九条を巡る代表的な立場の片側の典型的主張を手早く簡潔に知る事ができる本書は参考になり得るはずである。
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