今回、翻訳と原著を対照して読んで、フランシス・フクヤマの文章は大変こなれていて英語でも非常に読みやすいことに気付きました。ただ翻訳者は、経済学の基本的訓練を受けていないようですし、私の専門外ですがフクヤマの専門である政治学についても造詣は決して深くないように思われます。
フクヤマは経済学を良く勉強しておりダグラス・ノースの制度分析に基づく経済史の議論にも精通していることが分かります。おそらく社会学など関連する社会科学だけでなく、歴史や哲学と言った人文科学の成果も熟知して、自家薬籠中のこととして読者に分かりやすく伝えていると思われます。その博識、知識の深さ、洞察、加えて啓蒙の能力には正直舌を巻きます。生来の頭脳明晰さに加え大変な努力家であることもまず間違いないでしょう。こういう人こそ本当の碩学というのだと今回改めて尊敬の念をいだきました。
こういう著者の本は一人で翻訳するのは難しいと思います。出版社の講談社にお願いしたいのは、関係諸分野の専門家に校閲を依頼するのが適当だということです。第3章の「官僚制」を例に取って説明しましょう。
公共財の性質を説明する部分で、「公共財は私物化できず」とありますが、not appropriatedという言語は専門用語で「専有できない」という意味です。普通の財は一人が所有、消費してしまえば他の人は排除されます。すなわち一般財は「専有可能」なのです。また、「情報の不均衡」とありますが、 information asymmetriesと言う原語も「情報の非対称性」という専門用語です。図の3の「国家機能の分布範囲」の各訳語も問題があります。一番問題なのは improving equity を「公正の促進」と訳していますが、意味は「(所得分配の)公平性の改善」で全くの誤訳です。同じくこの図の用語で property right を財産権と訳しています。間違いではないですがより一般的に所有権と訳した方がいいでしょう(ノースは初期の著作でこの点に的を絞っていますが、これまでの邦訳は所有権で、これが定訳として定着しています。)。「マクロ経済的管理」も「マクロ経済運営」とか「マクロ経済の管理」と訳すのが一般的です。「不完全情報の克服」は直訳になっていますが、これでは良く意味が分かりません。「克服」の部分を「補正」とか「補完」とか「弊害の最小化」などと経済学の知識に照らし意訳するのが望ましいところです。それからこれは専門外なので私が間違っているかもしれませんが、minimalist state も政治学の専門用語なのではないでしょうか。わざわざ「政府の役割を最小限に抑制する国家」という原書にない言葉を補っているのですから、その後に「最小限国家」と訳すのではなく「ミニマリスト国家」とカタカナで書いておけばよろしいかと思います。 訳者が自信なさそうに訳しているのが伺われるこういう部分は、出版社のエディターが気を利かせて専門家に問い合わせて上げてもよろしいかと考えます。
いずれにせよフクシマは誤った用語の使い方をせず正しい概念理解で一般の読者にも分かりやすく噛み砕いた易しい英語で書いています。電子書籍なら不明な単語も簡単に辞書機能でその場で意味が取れる便利な世の中になっています。概して価格も安いのが普通です。フクシマやジョン・ミヤシャイマーの政治関係の本は、本当に分かりやすい英語で書かれいていますので、原書で読むのをお勧めします。ともに内容も素晴らしく、もちろん星5つです。
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政治の衰退 上 フランス革命から民主主義の未来へ 単行本 – 2018/6/20
フランシス・フクヤマ
(著),
会田 弘継
(翻訳)
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本書では、「国家」「法の支配」「政府の説明責任」の3つがダイナミックに作用し合うさまを21世紀初頭までたどっていきたい。もし本書の各章を通じて流れるテーマが1つだけあるとすれば、それは世界中の政治に欠陥があるということである。よくない政府がいかにしてよい政府に転じるかを理解するには、まず双方の歴史的起源を理解するところから始める必要がある。
『政治の起源』では、国家、法の支配、政府の説明責任の出現について、アメリカとフランスの革命期までみてきた。これら2つの革命は、制度の3つの分類すべてがある時そろって地球上の特定の場所に出現したことを意味している(すべてを併せたものを自由民主主義と我々は呼ぶ)。
本書では、この3つがダイナミックに作用し合うさまを21世紀初頭までたどっていきたい。もし本書の各章を通じて流れるテーマが1つだけあるとすれば、それは世界中の政治に欠陥があるということである。よくない政府がいかにしてよい政府に転じるかを理解するには、まず双方の歴史的起源を理解するところから始める必要がある。
『政治の起源』では、国家、法の支配、政府の説明責任の出現について、アメリカとフランスの革命期までみてきた。これら2つの革命は、制度の3つの分類すべてがある時そろって地球上の特定の場所に出現したことを意味している(すべてを併せたものを自由民主主義と我々は呼ぶ)。
本書では、この3つがダイナミックに作用し合うさまを21世紀初頭までたどっていきたい。もし本書の各章を通じて流れるテーマが1つだけあるとすれば、それは世界中の政治に欠陥があるということである。よくない政府がいかにしてよい政府に転じるかを理解するには、まず双方の歴史的起源を理解するところから始める必要がある。
- 本の長さ394ページ
- 言語日本語
- 出版社講談社
- 発売日2018/6/20
- 寸法14.3 x 2.6 x 19.5 cm
- ISBN-10406217152X
- ISBN-13978-4062171526
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
「国家」と「法」と「民主主義」は、なぜ衰退するのか―フクヤマがひもとく人類史。
著者について
フランシス・フクヤマ
1952年アメリカ・シカゴ生まれ。コーネル大学で古典哲学を学んだ後、ハーバード大学大学院で政治学博士号を取得。ランド研究所を経て、1980年代に米国務省政策企画部で中東・欧州を担当。1989年11月、ベルリンの壁崩壊直前に外交専門誌『ナショナル・インタレスト』に発表した論文「歴史の終わりか?」は大きな波紋を投げかけた。現在は、スタンフォード大学でシニア・フェローを務める。
会田 弘継
1951年埼玉県生まれ。青山学院大学教授。米誌The American Interest 編集委員。東京外国語大学卒業後、共同通信社に入社。ジュネーブ支局長、ワシントン支局長、論説委員長などを歴任。日本記者クラブ理事を務めた。著書に『追跡・アメリカの思想家たち』『破綻するアメリカ』など、訳書に『政治の起源』(フランシス・フクヤマ著)『難破する精神』(マーク・リラ著)など。
1952年アメリカ・シカゴ生まれ。コーネル大学で古典哲学を学んだ後、ハーバード大学大学院で政治学博士号を取得。ランド研究所を経て、1980年代に米国務省政策企画部で中東・欧州を担当。1989年11月、ベルリンの壁崩壊直前に外交専門誌『ナショナル・インタレスト』に発表した論文「歴史の終わりか?」は大きな波紋を投げかけた。現在は、スタンフォード大学でシニア・フェローを務める。
会田 弘継
1951年埼玉県生まれ。青山学院大学教授。米誌The American Interest 編集委員。東京外国語大学卒業後、共同通信社に入社。ジュネーブ支局長、ワシントン支局長、論説委員長などを歴任。日本記者クラブ理事を務めた。著書に『追跡・アメリカの思想家たち』『破綻するアメリカ』など、訳書に『政治の起源』(フランシス・フクヤマ著)『難破する精神』(マーク・リラ著)など。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
フクヤマ,フランシス
1952年アメリカ・シカゴ生まれ。コーネル大学で古典哲学を学んだ後、ハーバード大学大学院で政治学博士号を取得。ランド研究所を経て、1980年代に米国務省政策企画部で中東・欧州を担当。1989年11月、ベルリンの壁崩壊直前に外交専門誌「ナショナル・インタレスト」に発表した論文「歴史の終わりか?」は大きな波紋を投げかけた。同論文は後に『歴史の終わりと最後の人間』(1992年刊。邦題は『歴史の終わり』)として世界的ベストセラーとなった。スタンフォード大学でシニア・フェローを務める
会田/弘継
1951年埼玉県生まれ。青山学院大学教授。米誌「The American Interest」編集委員。東京外国語大学英米語学科卒業後、共同通信社に入社。ワシントン支局記者、ジュネーブ支局長、ワシントン支局長、論説委員長などを歴任。日本記者クラブ理事を務めた(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1952年アメリカ・シカゴ生まれ。コーネル大学で古典哲学を学んだ後、ハーバード大学大学院で政治学博士号を取得。ランド研究所を経て、1980年代に米国務省政策企画部で中東・欧州を担当。1989年11月、ベルリンの壁崩壊直前に外交専門誌「ナショナル・インタレスト」に発表した論文「歴史の終わりか?」は大きな波紋を投げかけた。同論文は後に『歴史の終わりと最後の人間』(1992年刊。邦題は『歴史の終わり』)として世界的ベストセラーとなった。スタンフォード大学でシニア・フェローを務める
会田/弘継
1951年埼玉県生まれ。青山学院大学教授。米誌「The American Interest」編集委員。東京外国語大学英米語学科卒業後、共同通信社に入社。ワシントン支局記者、ジュネーブ支局長、ワシントン支局長、論説委員長などを歴任。日本記者クラブ理事を務めた(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
登録情報
- 出版社 : 講談社 (2018/6/20)
- 発売日 : 2018/6/20
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 394ページ
- ISBN-10 : 406217152X
- ISBN-13 : 978-4062171526
- 寸法 : 14.3 x 2.6 x 19.5 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 197,605位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 86位フランス史
- - 139位政治史・比較政治
- - 728位ヨーロッパ史一般の本
- カスタマーレビュー:
カスタマーレビュー
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2019年1月2日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
本上巻は「第1部 国家」(第1~13章)と「第2部 諸外国の制度」の一部分(第14~18章)から成り
政治への動機が国家に与える影響を具体例を通して検討しています
公正で自立的な政治執行組織は如何に生まれ さらに経済との関係はどうあるのか
具体例から手掛かりを探しています
政治の変化も様々な関係の中から生じますが
それらの具体例から世界の有り様が見えて来ます
私たちと国家という関係はどのようなものであるのか
多くの例とその変遷を見ることで未来への視点が得られるかも知れません
なお下巻は
「第2部 諸外国の制度」の残部(第19~26章)
「第3部 民主政」(第27~30章)
「第4部 政治の衰退」(第31~36章)から成ります
未だ下巻は読んでいませんが
上巻の視点を引き継ぎ
政治的な発展を見て行くことで
現在の課題に向かって行くのではないかと想像されます
政治への動機が国家に与える影響を具体例を通して検討しています
公正で自立的な政治執行組織は如何に生まれ さらに経済との関係はどうあるのか
具体例から手掛かりを探しています
政治の変化も様々な関係の中から生じますが
それらの具体例から世界の有り様が見えて来ます
私たちと国家という関係はどのようなものであるのか
多くの例とその変遷を見ることで未来への視点が得られるかも知れません
なお下巻は
「第2部 諸外国の制度」の残部(第19~26章)
「第3部 民主政」(第27~30章)
「第4部 政治の衰退」(第31~36章)から成ります
未だ下巻は読んでいませんが
上巻の視点を引き継ぎ
政治的な発展を見て行くことで
現在の課題に向かって行くのではないかと想像されます
2019年12月27日に日本でレビュー済み
前著「政治の起源」で有史以来フランス革命までの政治形態の発生と発展について述べた結論をひとことでいうと「国家」「法の支配」「説明責任」となる。そこからの発展形態としての例を、近代官僚制の見本として「プロセイン」を見る。
「プリンシパル(主体)」と「エージェント(代理人)」の関係構築により、皮肉にも軍事競争下に向かい、スウェーデン、デンマーク、フランス、日本にも大きな影響を与えた。
さらに、民主主義発祥の地である「イタリア」「ギリシャ」の家族主義、国家への強い不信感、市民社会の欠如により「パトロネージュ(利益分配)」と「クライアンティズム(利益誘導)」が生まれ、実はそれが「アメリカ」に伝播される。「裁判所と政党の国=アメリカ」である。鉄道、森林、猟官などを巡り、国家機能が脆弱なままに民主主義に突入するという過程はこのあとほとんんどの発展途上国が経験することになる。
さらに「国民形成」の過程として「政治的な境界線」「住民移動」「下位集団の支配的文化への同化」「国民意識の修正」をあげ「ナイジェリア」の例をひきながら下巻へという流れです。
「プリンシパル(主体)」と「エージェント(代理人)」の関係構築により、皮肉にも軍事競争下に向かい、スウェーデン、デンマーク、フランス、日本にも大きな影響を与えた。
さらに、民主主義発祥の地である「イタリア」「ギリシャ」の家族主義、国家への強い不信感、市民社会の欠如により「パトロネージュ(利益分配)」と「クライアンティズム(利益誘導)」が生まれ、実はそれが「アメリカ」に伝播される。「裁判所と政党の国=アメリカ」である。鉄道、森林、猟官などを巡り、国家機能が脆弱なままに民主主義に突入するという過程はこのあとほとんんどの発展途上国が経験することになる。
さらに「国民形成」の過程として「政治的な境界線」「住民移動」「下位集団の支配的文化への同化」「国民意識の修正」をあげ「ナイジェリア」の例をひきながら下巻へという流れです。








