この小説が、とてもすごいメタファで作られて、大きなフィルタを通して読むと真実が見えるものみたいな仕上がりなことに感銘を受けた。(私が思い込んでいるだけなのかもしれないのではあるが。解説者の解釈とは違ったので)
一番惹かれたのは「コイビト」という短編だった。
主人公はずっと、自分を支え依存ずる小さなぬいぐるみを持っている。
そして、同類の少女美佐子と出会う。
しかし美佐子の持っていたぬいぐるみは、本当にぬいぐるみだったのだろうか?
ぬいぐるみ=コイビトという図解を、二人ともにあてはめることにできるのだろうか?
たとえば。
美佐子は知的障害か何かの、トイレの時間も教えてあげないと分からない子と付き合っていて、あのいきなり少年につかみかかっているシーンは、あまりに唐突だけれどその間にそのコイビトを揶揄われたのだとしたら理解できる。
スリッパや靴が並べられているのも、そこに人がいるという証明ではないだろうか。
最後に主人公がした行動に対する台詞、現実にいるコドモであれば絶対に言えないような言葉だ。それを美佐子が言った、それは美佐子が本当は子供ではないという暗喩だったりはしないのだろうか?
もしかしたらこの私が作ったフィルタで見た世界の小説解読は全く間違っているのかも知れないけれど、私にはそうとしか見えなかったのだから仕方ないし、そういう全く違う世界を見せてくれたという時点で村田沙耶香さんという小説家さんは素晴らしいと思う。もしこれがただの私の考え違いでも、他の人の読み方の幾通りもフィルタを通してみれば違う解釈があって、たくさんの物語が見えるのだと思うと、この短編は驚異的なもののような気がする。
「御伽の部屋」については・・・・
こんな人間のシンパシーはありえない。
途中で夢落ちか、最初の倒れたシーンの間の妄想なのかと思ってしまった。
これは作者の願望を形にしたものなのではないだろうか。
女の子は初潮を迎えるときに大概絶望すると思う。
女性になれた喜びを持つ子供などそうそういるのだろうか?
生理中にケチャップを被ったり
性交でつながるより子宮を取り去ってそこを照らしたいなど
いつまでも子供の役をやっている状態や
誰もが、特に女性が持つある種の願望を、とても現実のように描いた作品だと思う。
こういう世界があったらうつくしいだろう、けれど、これはどうやっても現実ではありえない。それを作品も表現し始め、佐々木ゆきの理想、ある種の妄想は崩れていく。
要二には結局正常な世界があり、願望が崩れ去って、これは解説にもあったが、
確かにゆきは自分の理想を自分の中に作っていく……。
しかし、もしこれが本当に現実世界での人間であったなら、精神異常として、ふつう、と呼ばれる部類……ふつうの仕事をしてふつうに結婚して……そういう生活は望めないということを、作者はどこまでわかっていて書いていたのだろうか?
最後に、一番最初に書かれた著者の処女作「授乳」は、とてもきれいな作品だと思った。
こども(女のコの主人公)が青年になったばかりの少年を、性的にいたずらしている、それなのに、
他者が介入すると、突然にまるで「我」に還ったかのように、
ふつうの「反応」をする。「対応」をする。
けれど、少女の持っている毒の芽は、うつくしく咲いた感があった。
そして、少女の母も、また、それを持っているのだと最初に示されていた。
とても感慨深いというか、ずっとこれらの作品について模索し続けられる作品集で凄い作品だと思いました。長くなりました(;’∀’)・・・
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授乳 (講談社文庫) 文庫 – 2010/4/15
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受験を控えた私の元にやってきた家庭教師の「先生」。授業は週に2回。火曜に数学、金曜に英語。私を苛立たせる母と思春期の女の子を逆上させる要素を少しだけ持つ父。その家の中で私と先生は何かを共有し、この部屋だけの特別な空気を閉じ込めたはずだった。「――ねえ、ゲームしようよ」。表題作他2編。(講談社文庫)
いままでにない、小説、そして作家。戦慄のデビュー作。
「母が同い年のクラスメイトだったら、きっといじめてるな」
受験を控えた私の元にやってきた家庭教師の「先生」。授業は週に2回。火曜に数学、金曜に英語。私を苛立たせる母と思春期の女の子を逆上させる要素を少しだけ持つ父。その家の中で私と先生は何かを共有し、この部屋だけの特別な空気を閉じ込めたはずだった。「――ねえ、ゲームしようよ」。表題作他2編。
いままでにない、小説、そして作家。戦慄のデビュー作。
「母が同い年のクラスメイトだったら、きっといじめてるな」
受験を控えた私の元にやってきた家庭教師の「先生」。授業は週に2回。火曜に数学、金曜に英語。私を苛立たせる母と思春期の女の子を逆上させる要素を少しだけ持つ父。その家の中で私と先生は何かを共有し、この部屋だけの特別な空気を閉じ込めたはずだった。「――ねえ、ゲームしようよ」。表題作他2編。
- 本の長さ240ページ
- 言語日本語
- 出版社講談社
- 発売日2010/4/15
- 寸法10.8 x 1 x 14.8 cm
- ISBN-104062766418
- ISBN-13978-4062766418
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
受験を控えた私の元にやってきた家庭教師の「先生」。授業は週に2回。火曜に数学、金曜に英語。私を苛立たせる母と思春期の女の子を逆上させる要素を少しだけ持つ父。その家の中で私と先生は何かを共有し、この部屋だけの特別な空気を閉じ込めたはずだった。「―ねえ、ゲームしようよ」。表題作他2編。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
村田/沙耶香
1979年千葉県生まれ。玉川大学文学部芸術学科卒業。「授乳」で第46回群像新人文学賞(小説部門・優秀作)、『ギンイロノウタ』で第31回野間文芸新人賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1979年千葉県生まれ。玉川大学文学部芸術学科卒業。「授乳」で第46回群像新人文学賞(小説部門・優秀作)、『ギンイロノウタ』で第31回野間文芸新人賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
登録情報
- 出版社 : 講談社 (2010/4/15)
- 発売日 : 2010/4/15
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 240ページ
- ISBN-10 : 4062766418
- ISBN-13 : 978-4062766418
- 寸法 : 10.8 x 1 x 14.8 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 30,485位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- カスタマーレビュー:
著者について
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村田 沙耶香
(むらた・さやか)
1979年、千葉県生まれ。玉川大学文学部芸術文化学科卒。2003年、『授乳』で群像新人文学賞(小説部門・優秀作)を受賞しデビュー。2009年、『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、2013年、『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島賞、2016年、『コンビニ人間』で芥川賞受賞。同作は累計発行部数100万部を突破した。その他の著書に『マウス』『星が吸う水』『タダイマトビラ』『地球星人』『殺人出産』『消滅世界』『生命式』などがある。
カスタマーレビュー
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トップレビュー
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個性はもちろん尖ってますが、
すげぇ! とのけぞるほどの、
村田さんの最大パワーは、
デビュー作や初期作なので、
文学っぽさに塗りつぶされ、
いらん描写に薄められて、
少しというかだいぶ、
薄味です。
ぼくはファンなので、
一応最後まで、
興味深く読ませていただきましたが、
これを最初に読んでいたら、
ファンになれたかわかりません。
よくある、
賞をとりそうな作品、
(それを狙っている作品)
デビューしやすそうな作品、
文学好きがあれこれ想像して、
隠喩だのなんだのと、
言いそうなやつになってます。
村田さんの作品は、
変人から狂人までという、
せまい範囲から選ばれる主人公で、
どれも似たタイプになるのですが、
この本の主人公たちは、
自己愛と自己完結が強く、
周りはすべて飾りなので、
あまりにも詩的な表現、
というかゴマカシというか、
逃げというか、
辛辣な言い方になりますが、
空っぽの部分が多すぎて、
(意味はあるのかもですが、
示されないのでなくても変わらん)
これなら村田さんじゃなくても、
他の人にも書けるなと、
初期の力不足は感じました。
なので、
尖った部分はすごかったですが、
あとはイマイチということで、
なんとか読めましたという、
★三つにさせていただきました。
ファン向け作品ですね。
この本から読み始めるのは、
ススメません。
すげぇ! とのけぞるほどの、
村田さんの最大パワーは、
デビュー作や初期作なので、
文学っぽさに塗りつぶされ、
いらん描写に薄められて、
少しというかだいぶ、
薄味です。
ぼくはファンなので、
一応最後まで、
興味深く読ませていただきましたが、
これを最初に読んでいたら、
ファンになれたかわかりません。
よくある、
賞をとりそうな作品、
(それを狙っている作品)
デビューしやすそうな作品、
文学好きがあれこれ想像して、
隠喩だのなんだのと、
言いそうなやつになってます。
村田さんの作品は、
変人から狂人までという、
せまい範囲から選ばれる主人公で、
どれも似たタイプになるのですが、
この本の主人公たちは、
自己愛と自己完結が強く、
周りはすべて飾りなので、
あまりにも詩的な表現、
というかゴマカシというか、
逃げというか、
辛辣な言い方になりますが、
空っぽの部分が多すぎて、
(意味はあるのかもですが、
示されないのでなくても変わらん)
これなら村田さんじゃなくても、
他の人にも書けるなと、
初期の力不足は感じました。
なので、
尖った部分はすごかったですが、
あとはイマイチということで、
なんとか読めましたという、
★三つにさせていただきました。
ファン向け作品ですね。
この本から読み始めるのは、
ススメません。
2020年1月4日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
表題作は、まるで現代の谷崎、サドマゾ関係を特有のマナーで描き出し、
名状しがたい奇妙な味を残している。
谷崎のサドマゾとの大きな相違は、加虐者と被虐者の間に絶対越えられない壁が築かれていることだろう。
両者に感情的な交流はまったくなく、被虐者のキャラクターが象徴しているように、
無機質にサドマゾ行為に耽るさまは、ひたすら不気味であると同時に、
現代の世相や人間関係を反映しているように思う。
短編ですますのはもったいない。ふたりの遊戯を引き伸ばしてもっと長いのを読みたい。
「授乳」が水際立っているに対し、「コイビト」「御伽の部屋」は退屈であった。
とりわけ後者は見込みがないので途中でやめた。
※画像・プロフィールは無視してください
名状しがたい奇妙な味を残している。
谷崎のサドマゾとの大きな相違は、加虐者と被虐者の間に絶対越えられない壁が築かれていることだろう。
両者に感情的な交流はまったくなく、被虐者のキャラクターが象徴しているように、
無機質にサドマゾ行為に耽るさまは、ひたすら不気味であると同時に、
現代の世相や人間関係を反映しているように思う。
短編ですますのはもったいない。ふたりの遊戯を引き伸ばしてもっと長いのを読みたい。
「授乳」が水際立っているに対し、「コイビト」「御伽の部屋」は退屈であった。
とりわけ後者は見込みがないので途中でやめた。
※画像・プロフィールは無視してください
2021年6月28日に日本でレビュー済み
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授乳を読んでの感想は、親の愛を受けずに育った人間は将来で道を踏み外すのかなと思わされた。そうなる前に誰かしらからの愛を受け取りたいと思いました。授乳とは母の無償の愛そのものと私は思います。だから先生は受け入れずにはいられなかったのだろうと思います。
人は愛がなくなれば先生のように虚無で段々と表情を無くして、生気が感じられないような人間になっていくんだと思います。
先生の気持ちがわかる気がするところが所々あり、怖くなりました。
次話のコイビトの感想について。ホシオへの愛、転じて依存はアニメのキャラやアイドル、声優などに注ぐものとなんら変わらないかと思いました。誰しも何かにまるでそこに生命があるが如く取り扱うことは子供時代に経験しているのではないでしょうか。それが今回は行き過ぎた人のお話でした。ちょっとしたホラーでした。少数派は認められるべきとも思いますが他人に行き過ぎた迷惑をかけるのはよしたほうが賢明ですよね。
人は愛がなくなれば先生のように虚無で段々と表情を無くして、生気が感じられないような人間になっていくんだと思います。
先生の気持ちがわかる気がするところが所々あり、怖くなりました。
次話のコイビトの感想について。ホシオへの愛、転じて依存はアニメのキャラやアイドル、声優などに注ぐものとなんら変わらないかと思いました。誰しも何かにまるでそこに生命があるが如く取り扱うことは子供時代に経験しているのではないでしょうか。それが今回は行き過ぎた人のお話でした。ちょっとしたホラーでした。少数派は認められるべきとも思いますが他人に行き過ぎた迷惑をかけるのはよしたほうが賢明ですよね。
2018年6月27日に日本でレビュー済み
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表題の「授乳」は、家庭教師のことにしろ、母親のことにしろ、父親のことにしろ、主人公の女子中学生が、事細かに人間観察をしているところが、巧みに描写されていて、作者の文章表現にレベルの高さを感じました。内容も主人公の内面の歪みが、非常にはっきりと解る程描写されていて奇妙な気持ちにさせられました。この著者の作品は、ほとんど読みましたが、世間の常識を破壊するような文章内容に、底なし沼に嵌った感じにさせられた思いです。村田沙耶香さんに、ノックアウトされた感じです。
2019年2月1日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
授乳がタイトルになっているが、授乳以外にコイビト、御伽の部屋の3つの短編が収められている。
短編ではあるものの、どれも濃厚なクレイジー沙耶香ワールドが展開されており、読みごたえたっぷりだった。
私が村田沙耶香さんの作品に共感するのは、異性に対する気持ちや態度である。村田作品の主人公ほどの暴走はないが、彼女たちの異性への眼差しは共感する。
他の作家さんの作品にはない、異性愛をテーマとしていて、私は自分の気持ちを代弁してくれている村田作品に出会い、救われるような気持ちになった。
短編ではあるものの、どれも濃厚なクレイジー沙耶香ワールドが展開されており、読みごたえたっぷりだった。
私が村田沙耶香さんの作品に共感するのは、異性に対する気持ちや態度である。村田作品の主人公ほどの暴走はないが、彼女たちの異性への眼差しは共感する。
他の作家さんの作品にはない、異性愛をテーマとしていて、私は自分の気持ちを代弁してくれている村田作品に出会い、救われるような気持ちになった。