編集者あがりのライターです。「書き手視点」の内容が多い中で、珍しく「編集者視点」で書かれた文章術の本だと感じました。
ライターと編集者の違いとは何か? それはライターの仕事が「書くこと」であるのに対して、編集者の仕事は「書かせる」ことにあります。内容を打ち合わせして、構成を決めて、ライターに書いてもらう。それを編集して掲載する。なぜ編集者が直接書いてはいけないのか。自分が書くと雑誌作りが止まってしまうからです。それよりも、たくさんのライターに手分けして、いろんなテーマで記事を書いてもらって、それを1冊にまとめるほうが、ずっと効率が良いんですね。特にこの考え方は、メディアが紙からWebに移って、重要になってきています。
ただ、他人に書かせるということは、内容をチェックしなくちゃいけないということなんですよね。んでもってライターのクオリティも正直ピンキリです。誤字脱字や事実誤認のチェックなんてのは良い方で、時には「てにをは」レベルから直さなくちゃいけないこともあります。一方でライターにもプライドがありますから、客観的に見れば文法的に間違っていても、こっちで勝手に直すと怒られる……そんな体験を何度もしてきました。
特に本書のキモは165ページから176ページまでの「実際の校正例」でしょう。素人レベルのライターが書いた風な、言いたいことはわかるんだけど、いまいちストンと理解しづらい「悪文」を、いかにわかりやすい文章に修正するか、一字一句こと細かに校正されています。いまのWeb媒体であれば、校正前の内容をそのまま載せてしまう……なんてことがあるかもしれません。または、そんなライターに発注した方が悪かったと反省し、編集者が自分で校正して掲載し、手切れ金がわりに原稿料を支払って、二度と発注しないか。多分、自分なら後者を選ぶと思います。
……でも、だから駄目なんですよね。いつまでたってもライターが育たなくて、編集者自身が校正で死ぬ想いをすることになる。だったら、最低1回は記事をライターに戻して、自分の頭で考えさせて、修正させて、その上で引き取って足りないところを編集側で赤入れして、掲載する。そのための指南書として、たいへん興味深く読みました。
本書で書かれているとおり、正直自分も編集者時代、文章の書き方について学んだことはありません。後輩を見ていても「書ける奴は最初から書ける」「書けない奴はいつまでたっても書けない」という印象がありました。ただ、少子化で書き手自身が減っている一方で、Webの普及で媒体自体は死ぬほど増えている。だから優秀なライターの囲い込みに、みな必死になっている。だからこそ、ライターは自分たちで育成した方が良い。そうはいっても、わかりやすい指南書がない。そんな問題意識を持っているWeb編集者の皆さんにお勧めの一冊です。
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