「誰であれ、今生きている人間の人間の肉体には、何万年何億年の
時を経て脈々と受け継がれてきた血が、その歴史と共に流れている。
(略)大抵の人は父母を思い、祖父母を思い、せいぜい曽祖母あたりまでを
血の流れの具体的な象徴としてながめ、あとは想像の世界に雲散霧夢させて
納得する。」
ダヴィットが自分に流れるユダヤの血を自覚し守ろうとしているのに比べ
ニーナは自分には何もないという、こころもとなさを感じるのです。
祖国を持たないニーナは、初めてデヴィットと結ばれた時に叫びたかった
「お母さん」という言葉にも躊躇します。
しかしひょんなことから、ニーナは日本人だと判ったのです。
「ニーナとアリナはしばし涙にくれた。」
民族がわかったことで泣くとは、元々自分の国籍を当然のように
持って生まれた私達には、なかなか実感しずらいところです。
物語のラスト、ニーナは忘れたはずの日本語で言います。
無意識に。「お父さん、お母さん」と。
自分が生まれた原点である生き物の呼び名が、牡丹江の空気と共に
潜在意識の中での眠りから目覚め、発音として現われたのでしょう。
私も遺伝子の操作するままに、今年の夏、大陸を感じに行きます。
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