上位の肯定的レビュー
5つ星のうち5.0おもしろい!訳も良い。
2019年12月27日に日本でレビュー済み
○これは面白い本を見つけた。ギリシャのペロポネソス戦争の時代の歴史書であるが、著者の記す言葉の豊かさと洞察の深さには舌を巻く。人の心理を呼んでそれに応じた対応をしている。また要所々々で語られる演説がすばらしい。ギリシア文化の伝統を引き継ぐ人々が、このような演説の伝統も引き継いでいるとするならば、我々はこの演説を良く研究しておかなければならないと思う。彼らに対抗するためにも、また彼らを説得する方法を身に付けるためにも。
○上巻には10の演説が収められているが、例えばこんな具合だ。
○第4演説:ラケダーモーンがアテーナイに譲歩を要求してきた際のペリクレースのアテーナイ民議会に対する演説。「譲歩してはならぬ」と説く。冷静な判断と熱い心が伝わってくる。強攻策を主張するにあたって、万が一の失敗の可能性にも言及し、それをも含めて結果を受け入れる覚悟を求める。そのうえでなぜアテーナイが優位にあるのかを具体的に説明する。その目の配り方は行き届いており(普通の人には思い至らないような点に言及する)主張は具体的である。これを聞いた人はリスクを受け入れる覚悟を固めたうえで心を打ち震わせて賛同したはずである。
○第5演説:ラケダイモーン王の出陣に当たっての訓辞。人間の性質についての洞察が示されており(戦いは予測を許さぬところがある、多勢であるとおごりを生じがちなもの等)、また敵アテーナイの力を冷静に評価したうえで、短い指示を与えている(俊敏に動け、指揮官に従順たれ等)。気が利いた訓示だと思う。
○第9演説:ペロポネソス軍との海戦を前に、多数の敵船に動揺している兵士に対しておこなったアテーナイ軍司令ポルミオーンの訓示。「数で劣っても力量でははるかに勝っているのだから負けるはずがないのだ、気概をもて、奮起せよ」と士気を鼓舞したのち、なぜこちらから攻め込まないかという理由(船艇の自由な動きを確保するため狭い湾内ではなく広い外海で戦いたい)を説明している。この説明を加えたことによって、司令と兵士の距離を縮めている。