日本人はいわゆる島国根性のなせる業で、従来からグローバルな観点や世界文明史を踏まえた観点で物事を考えることができない民族とも言われてきたが、本書は経済書でありながら、ついに、これを打破して、世界文明史を論拠として過去、現在および将来の世の中のありようを教えてくれる、すばらしい着目点の書となっている。物事を総合して考えることをリベラルアーツとも言うが、物事を細分化して分析することだけでは不十分であり、それらの結果を統合することの価値が、日本の世の中ではあまり理解されていない節があるので、この機会にこれについて考えてみた方がいいだろう。さて、本書が紹介あるいは示している「すばらしい着目点」であるが、出色なのは、本書228ページで紹介されている「世界中のあらゆる文明圏を説明するたった1枚のチャート」であろう。これは、縦軸を合理主義的傾向 VS 伝統主義傾向、横軸を自己保存重視 VS 自己表現重視にとった二次元のチャートの中に、文明や宗教のグループをマッピングしたもので、まさに目から鱗である。なぜなら、前述の日本人の発想の傾向も、これのなせる業であることがただちに理解されるからである。もちろん、現実のあらゆる事柄がこれだけで説明しうると主張するものではないだろう。さらに、ここで非常におもしろいのは、合理主義(自由主義)の権化と思われているアメリカの住民(大衆)が、実は、かなり宗教に縛られた伝統主義的な考え方をする人間の位置にマッピングされていると言う点である。なぜなら、衆目の一致するところ、20世紀はアメリカの時代だったと言い切っていいはずだが、アメリカの経済覇権(=ドルの信任)が終わりを迎えつつあると多くの人に認識されている現在、これからの時代がどうなるのかは、アメリカ大衆の発想に基づくアメリカ文明とも言えるものの性質に大きく依存していることを意味するからである。
「すばらしい着目点」の第2点は「資源国の発想」、第3点は「気候文明史観」、第4点は、アメリカの過去半世紀の連続株高と年金資産流入の因果関係。そして第5点が軍事と経済の関係についてである。ただし、アメリカが世界の警察官役を降りつつあるとの見方(=多極化)への解説がみられなかったのが惜しい気がする。
以上のように本書は単に経済だけでなく、環境も含めての人間の活動の歴史を統合したものとなっており、これからの世の中がどうなるのかに関心のある方には必読の書となるであろう。
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