謳い文句にあるように、中心は「平安クライムサスペンス」なのだけれど、
そこかしこに挿入された歴史小ネタがうまく筋に絡んでいて、
相変わらず、歴史好きならより楽しめる構成になっている。
本巻では、伴善男によって引き合わされた謎の貴族として、
後に道真と共に宇多天皇を支えることになる源能有が登場する。
能有は「食えない」人物ながら憎めないキャラクターに描かれている。
この時代の特徴でもある文徳天皇の子だくさんと臣籍降下に触れたり、
さりげなく惟喬親王の名前を出して皇位を巡る朝廷内の暗闘をほのめかしたりして、
キャラ設定が史実によってうまく味付けされている。
能有の昼行灯然とした振舞と、妻の張り切りぶりとが対比されているのは、
後の娘たちの運命を考えると、コミカルなだけでない、大事な伏線になっている。
他にも、没落貴族(たぶんチョイ役)の、長岡京時代には繁栄していた、
なんてさりげない回顧も、当時の時代性をうまく取り入れている。
このように下敷きとなった小ネタや後々への伏線を拾いながら読むのは楽しい。
惜しむらくは、肝心の事件がどうも似たような繰り返しで単調なところ。
そもそも本筋が何の話なのかもよく分からなくなってきた。
応天門の変に向けて(?)善男との関係が描かれるなど少しずつ進んではいるけれど、
腹の探り合いが多くて間延びしてしまった感がある。
作中に貞観6年の富士山噴火の記述があるので、応天門の変まであと2年か。
クライマックス(?)へ向けた舞台づくり・キャラづくりをしっかり行っているところ、
と前向きに解釈しておこうかと思う。
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