今作品をネット公開版で読みました為、本書とは内容に齟齬があるかもしれません。あくまでも一意見として書かせていただきます。購入前の参考としてご覧ください。
以下ネタバレを含みますのでご了承ください。
純文学というには作者の文章表現能力は薄いです、ライトノベルと言った感じです。ライトノベルというのは批判ではなく、純文学の目指す文体とはかけ離れており、よく言えばわかりやすく単純な言語表現で構成されており読みやすい作品です。
ゲイ自認のある少年が、告白してきた腐女子と一般家庭を作ることを夢見る、意図せぬセクシャリティ暴露の問題にあう、ゲイコミュ二ティにおけるSNS上の友人がHIVになる、パートナーの男性に絶望する。と言ったテーマを扱っています。
テーマ性については、LGBTが声を大きくしてきた昨今に一般大衆に問題提起する上でとても良い着眼点でしたし、腐女子がゲイ少年に恋をするというキャッチーさはとても評価したいと思います。
ただその表現には問題があります。
あくまでも、お話は主人公である彼の自己陶酔や独りよがりな感傷を基に書かれていました。物語を彩る腐女子や友人、クラスメイト、SNSの友達、バーにおけるメンター的存在、その全ては作者が表現したかったことの記号や陶酔の道具となっており、主人公以外にこの作品の中には血の通った人間が居ないと私は感じました。
クイーンの音楽さえも、フレディの悲しみさえも、主人公の心の癒しであったり、物語を彩る音楽ではなく、陶酔を高めるための演出にしか感じられません。
特に気になったのが、腐女子の彼女が学校の集会で壇上で彼の性をカムアウトするシーンです。例え一部の人間にとっては既知の問題であり、彼がそれによっていじめを受けていても、人の性のカムアウトが本当にあれで正しいのでしょうか?なぜそのシーンが感動のシーンとなるのでしょうか?
独善的な行動は、本当に人の人生を輝かすのでしょうか?
わたしには、作中の腐女子も主人公も互いに自己陶酔しており、特に腐女子に関しては作者がこうしたいからと配置された記号にしか見えませんでした。そこに血の通った悩める人物はいませんでした。
小説ではなく、筋書きなどの媒体でこの作品を読んでいたら一蹴できたのかもしれません。
ただ物語という虚構に対して、世への問題提起として、あまりにも問題に対しての真摯さを欠いていると評価せざるを得ません。作者自身がゲイであったとしても、それは免罪符とはなりません。
LGBTについて考えた事がなく、イメージを掴みたいという程度なら良いかもしれません。
本当に主人公や周りの行動はLGBT問題に対して、社会のLGBTに対して真摯なものだったでしょうか?勿論、人が1人ずつ異なるように正しいLGBTなどはいませんし、社会的概念としてのLGBTと1人のLGBTとは対応するものでなくても良いものです。その上でただ作者の自己陶酔のみが悪目立ちしていました。
これは本作で語られるLGBTの苦しみへの評価ではなく、本作に対する文学作品としての構成・表現、また社会的意義、に関しての評価です。
お読みなる時に、感動とはまた別にそうした視点を持ってください。
LGBTの問題というよりも、作者の個人的な稚拙さに問題意識を感じました。
- 単行本: 320ページ
- 出版社: KADOKAWA (2018/2/21)
- 言語: 日本語
- ISBN-10: 4040725131
- ISBN-13: 978-4040725130
- 発売日: 2018/2/21
- 梱包サイズ: 18 x 13 x 2.4 cm
- おすすめ度: 21件のカスタマーレビュー
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