「研究するとカラダにいいぞぉ」「でもマジメにやるなよぉ」という帯のセリフにググッと魅了され、近頃の思想業界などでよく耳にするようになったが詳しくは知らなかった「当事者研究」なるものについていっちょ勉強してみっかという軽妙な気持ちで購入し読んでみたが、これはかなり面白い本である。精神障害を持つ人々による当事者主体の「研究」として始まったこの実践が、参加する当事者たちの増加をうけながら現在どのように拡がりつつあり、またその思想的な深みを獲得しつつあるのか、ライブ感たっぷりに学ぶことのできる良作であるといってよいだろう。
「自分自身で、共に」。既存の医療的・世間的な言葉では語りきれぬそれぞれの個性的な痛みや困難を抱えた人々が、似たような痛みや困難を経験している仲間たちと言葉を交換し、語りを紡いでいくことで、自らの身体に生じている現象を的確に捉え、痛みや困難を和らげていくための、いわば腑に落ちる言葉を創造していく。その自らを主体としながら共に語り合う実践は、制度的な医療のあり方を全面的に否定するものではないが、その杓子定規さを脱構築して各自に固有の生活世界の感覚を取り戻させ、また、「健常者」が自明とする常識的な世界を批判するわけではないが、彼らの(私の)身体感覚がなぜそのようにして当たり前のように出来上がっているのか、それを根底的に反省させ、彼らが(私が)自らの身体に改めて向き合うためのヒントを提供してくれる。
本書で述べられているとおり、こうしたプロセスは、非常に優れた自己教育の方法であり、自己回復への道である。こんなにも興味深い実践が、あるいは現代をよりよく生きていくための思想が、今まさに驚くような勢いをもって展開中なのか。と、妙な感動をおぼえること必定の一冊であろう。
当事者研究の研究 (シリーズ ケアをひらく) (日本語) 単行本 – 2013/1/31
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本の長さ310ページ
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言語日本語
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出版社医学書院
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発売日2013/1/31
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ISBN-10426001773X
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ISBN-13978-4260017732
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商品の説明
出版社からのコメント
「で、当事者研究って、いったい何?」 そんな疑問に応える、本邦初の論文集の登場です。当事者研究の理念と概要、親和性が言われる現象学との関係、実際の方法、そして実践までを一冊で網羅。 「現代思想の総展望2013」でも耳目を集めた当事者研究を知るための格好のガイドブックでもあります!
登録情報
- 出版社 : 医学書院 (2013/1/31)
- 発売日 : 2013/1/31
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 310ページ
- ISBN-10 : 426001773X
- ISBN-13 : 978-4260017732
- Amazon 売れ筋ランキング: - 23,303位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- カスタマーレビュー:
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発せられた音は言葉として聞かれることで意味を持ち、紙の上のインクの染みは言葉として
読まれることで意味を持つ。(綾屋と熊谷が強調するように)「共有されなければ意味は生ま
れない」。(2.研究とは何か(2))
...共有するという意味で、私はカウンセラーとしてクライアントさんの言葉を受けとめ
きれているのだろうかと考えさせられたり、
(向谷地は、)「「自分のことは自分で決める」という基本的な権利を奪われてきた人たち」
としての障害者という描像を牽制している。「当事者主権」と呼ばれるこの当事者理解は、政治
的な概念として機能しうるが、当事者研究における「当事者性の原則」はこれとは正反対だと言
う。むしろポイントは「自分のことは自分で決めない」ということであり、この原則は、「いく
ら、「自己決定」といっても、人とのつながりを失い、孤独と孤立の中での「自己決定」は、危
ういという経験則が生み出した」とも言う。(2.研究とは何か(2))
...このあたりになると、私の中でついていけないくらいの混乱と深さを感じますし、
自閉症スペクトラムの診断基準は「相互的社計的能力の限界」「コミュニケーション能力の限
界」「想像力の限界(こだわりが強い)」という三つ組みと呼ばれる特徴が表れていることとさ
れているのだが、これは本人の内面で起きている現象というよりも、外から判断しうる、見かけ
の特徴に過ぎない...(4.ズレを共有する当事者研究)
...外からの分類は(外部の)専門家同士での検討では意味があるのかもしれないが、そん
な時に、私は、当事者の存在を意識できているのだろうかと自分に問いかけたり、ここは...
診断名によってまとめられた同質の仲間が集まることが、自分の体験や状態を理解する上で、
必ずしも最良の結果をもたらすとは限らないことが知られている。... ...むしろ診断名による区別
ではなく、実際に体験した苦労の種類でつながることが研究を促進する上で重要とされている。
(2.研究とは何か(2))
...に立ち返って理解できるように思います。
脳性まひ者はそうでない人に比べて、疼痛障害の発症年齢が早く、しかも慢性化しやすいこと
を報告している。この報告で特に注目すべきは、痛みの悪化因子について、過労が原因になるだ
けでなく、安静もまた原因になるということだ。さらに多変量解析の結果、痛みが慢性化する危
険因子は、「生活・職業スキルの喪失」「人生に対する満足度の低さ」「身体に関する日常役割
機能の低さ」など「できなくなること」にかかわるものばかりだった。
...ここは、『無力感』が痛みを悪化させることにあらためて気づかされますし、
痛みには「情動的側面」と「分析的側面」の二種類があると考えられている。痛みにともなう
快・不快の程度、つまり、「痛みの価値」を担うのが前者であり、痛みの場所や質、強さの程度
といったいわば「痛みの意味」を担うのが後者である。... ...個体発生学的には、まず、情動回路
が先にできあがり、あとから分析回路が育ってくることが知られているが、個々の研究から慢性
疼痛の状態においては、末梢神経のレベルでも、大脳レベルでも痛覚経路の「脱発生・幼若化
(赤ちゃん返り)」が起きていることが報告されており、痛覚情報処理系が「分析回路<情動回
路」という状態になっているといわれている。分析回路が「意味化」の過程を担っていることを
考えれば、慢性疼痛において「分析回路<情動回路」の状態になっているという研究報告は、
「慢性疼痛においては意味化の不全による」という綾屋の報告から導かれた仮説を裏付けている
だろう。(意味が痛みを緩和する)
...これは、これほど真剣に『痛み』と向き合ったことがなかったことを思い知らされます。
当事者研究に共通する5つのエッセンス...
1)<問題>と人との切り離し
2)自己病名をつけること
3)苦労のパターン・プロセス・構造の解明
4)自分の助け舟や守り方の具体的な方法を考え、場面を作って練習すること
5)結果の検証
これは、カウンセリングの中で起こっていることをふり返らせてくれます。
『当事者研究』にはいろいろなことを教えてもらっていますし、これからもまだまだたくさんの
ことを教えてもらえるのではないかと思います。
読まれることで意味を持つ。(綾屋と熊谷が強調するように)「共有されなければ意味は生ま
れない」。(2.研究とは何か(2))
...共有するという意味で、私はカウンセラーとしてクライアントさんの言葉を受けとめ
きれているのだろうかと考えさせられたり、
(向谷地は、)「「自分のことは自分で決める」という基本的な権利を奪われてきた人たち」
としての障害者という描像を牽制している。「当事者主権」と呼ばれるこの当事者理解は、政治
的な概念として機能しうるが、当事者研究における「当事者性の原則」はこれとは正反対だと言
う。むしろポイントは「自分のことは自分で決めない」ということであり、この原則は、「いく
ら、「自己決定」といっても、人とのつながりを失い、孤独と孤立の中での「自己決定」は、危
ういという経験則が生み出した」とも言う。(2.研究とは何か(2))
...このあたりになると、私の中でついていけないくらいの混乱と深さを感じますし、
自閉症スペクトラムの診断基準は「相互的社計的能力の限界」「コミュニケーション能力の限
界」「想像力の限界(こだわりが強い)」という三つ組みと呼ばれる特徴が表れていることとさ
れているのだが、これは本人の内面で起きている現象というよりも、外から判断しうる、見かけ
の特徴に過ぎない...(4.ズレを共有する当事者研究)
...外からの分類は(外部の)専門家同士での検討では意味があるのかもしれないが、そん
な時に、私は、当事者の存在を意識できているのだろうかと自分に問いかけたり、ここは...
診断名によってまとめられた同質の仲間が集まることが、自分の体験や状態を理解する上で、
必ずしも最良の結果をもたらすとは限らないことが知られている。... ...むしろ診断名による区別
ではなく、実際に体験した苦労の種類でつながることが研究を促進する上で重要とされている。
(2.研究とは何か(2))
...に立ち返って理解できるように思います。
脳性まひ者はそうでない人に比べて、疼痛障害の発症年齢が早く、しかも慢性化しやすいこと
を報告している。この報告で特に注目すべきは、痛みの悪化因子について、過労が原因になるだ
けでなく、安静もまた原因になるということだ。さらに多変量解析の結果、痛みが慢性化する危
険因子は、「生活・職業スキルの喪失」「人生に対する満足度の低さ」「身体に関する日常役割
機能の低さ」など「できなくなること」にかかわるものばかりだった。
...ここは、『無力感』が痛みを悪化させることにあらためて気づかされますし、
痛みには「情動的側面」と「分析的側面」の二種類があると考えられている。痛みにともなう
快・不快の程度、つまり、「痛みの価値」を担うのが前者であり、痛みの場所や質、強さの程度
といったいわば「痛みの意味」を担うのが後者である。... ...個体発生学的には、まず、情動回路
が先にできあがり、あとから分析回路が育ってくることが知られているが、個々の研究から慢性
疼痛の状態においては、末梢神経のレベルでも、大脳レベルでも痛覚経路の「脱発生・幼若化
(赤ちゃん返り)」が起きていることが報告されており、痛覚情報処理系が「分析回路<情動回
路」という状態になっているといわれている。分析回路が「意味化」の過程を担っていることを
考えれば、慢性疼痛において「分析回路<情動回路」の状態になっているという研究報告は、
「慢性疼痛においては意味化の不全による」という綾屋の報告から導かれた仮説を裏付けている
だろう。(意味が痛みを緩和する)
...これは、これほど真剣に『痛み』と向き合ったことがなかったことを思い知らされます。
当事者研究に共通する5つのエッセンス...
1)<問題>と人との切り離し
2)自己病名をつけること
3)苦労のパターン・プロセス・構造の解明
4)自分の助け舟や守り方の具体的な方法を考え、場面を作って練習すること
5)結果の検証
これは、カウンセリングの中で起こっていることをふり返らせてくれます。
『当事者研究』にはいろいろなことを教えてもらっていますし、これからもまだまだたくさんの
ことを教えてもらえるのではないかと思います。