マイクロソフト創業の地はシアトルでなく、ニューメキシコ州のアルバカーキだった。当時はアルバカーキの方がIT産業が進んでおり、年収水準も高かった。だが、創業者のビル・ゲイツとポール・アレンは「故郷で仕事がしたい」という全くの個人的理由でシアトル近郊へ引っ越した。シアトルはIT産業でも居住者の年収でもアルバカーキを上回る。MSがIT産業で支配的な力を持ったことから、MSの下請、MSが採用したエンジニアもシアトルに集まり、やがてMSからスピンアウトしても仲間の多いシアトルで起業する。ベンチャーが多いので、ハイテクエンジニアも自分向きの仕事を探すためシアトルへ向かい、ベンチャーを求めるファンド・弁護士もシアトルに集まり起業しやすくなる。アルバカーキ出身のジェフ・ベゾスが、Amazon.comを出身地でなく縁もゆかりもないシアトルで創業したのは象徴的であるが、起業しやすさを考えればそれも当然だ。
本書はこのようにITやバイオなど、ハイテク産業がどのように集積されるかを実証的に論じた本だ。農業、工業の立地は地理的条件に左右される。ラストベルトといわれる中西部で重工業が盛んだったのは、五大湖周辺で水運がよく、付近に炭鉱があり原材料確保に便利だったからだ。だが、頭脳産業の立地はイノベーターが決める。イノベーターとその成果を求めて研究施設・企業、人材、ファンドや弁護士が集まるからだ。シアトルがビルゲイツの故郷でなければハイテク産業の中心にならなかったし、シリコンバレーも半導体開発者・ショックレーがスタンフォードにいなければ、電子・計算機工学のトップ校だったカルテックやバークレー周辺が「シリコンバレー」になっていたかもしれない。
従来、オンライン化が進めば世界どこでも同じ仕事ができるようになる「収入は世界中でフラットになる」と予測されていたが、現実は米国内でも収入格差が広がる一方だ。頭脳産業は知識の伝播が重要だ、という。会社も人材も同じ街、同じ空間で優れた隣人と語り合い、知識・アイデアを交換しあう方が自分の創造性・生産性も上がるのだ。また、ハイテク技術者は、事業が成功したり高い年収を得て、衣食住に高い費用を払う。すると、ハイテクと全く無関係な、ウエイターの収入水準が上がりヨガインストラクターも増える。
逆に製造業中心のラストベルトは、工業の生産性が上がるにつれ人手が不要になり海外に移転する。労働者が減るので起業も減り、イノベーションもないので所得水準は低いままという負のスパイラルを描く。著者は「金を稼ぎたいなら、大学を卒業し年収の高い都市で仕事を探すべきだ」と助言し、「失業率の高い街は、住人に引っ越し代を払ってでも高年収都市に移住させるべきだ。そうすれば残る人の失業率も下がる」とまでいう。なお大卒者に比べ、高卒者・中退者の移住率は低いため、地域格差の影響をより受けやすい。
イノベーションのカギはなにか。大学・研究機関の存在も、企業の立地補助金も決定的ではない。著者は2つの要素を挙げる。1つは「高技能の移民」だという。移民が多い州は特許取得数が多い。グーグル・ヤフー・テスラなどはいずれも移民が創業している。移民の創業率は非移民より30%高い。高技能移民は非移民の職を奪うどころか、創業することで中低技能の米在住者に職と知識を与え、生産性を向上させてくれる。本書では、移民政策の失敗でハイテク世界トップの地位から滑り落ちた残念な国を取り上げている。いうまでもなく日本である。バブル期に世界を制した半導体・ハイテク産業は今や見る影もない。米国が世界中から研究者を集めていたのに比べ、日本人だけで厚みのない人材で戦う日本が勝てるわけがなかったのだ。もう1つは教育だ。経済成長には人的資本が重要であり、大卒者を増やすのがいい。
洋書にありがちな、似たような話の繰り返しが多くてくどいのがやや難点。しかし、都市に格差が生じることと、その解決策を考える本書は、21世紀の産業立地論として読み解ける。都市間格差は広がるのは必然だ。年収の低い・職のない人は「現住所にしがみつくな、街を離れろ」という従来とは全く異なる、刺激的なメッセージを受け取るだろう。
年収は「住むところ」で決まる 雇用とイノベーションの都市経済学 (日本語) 単行本(ソフトカバー) – 2014/4/23
エンリコ・モレッティ
(著)
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本の長さ360ページ
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言語日本語
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出版社プレジデント社
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発売日2014/4/23
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ISBN-104833420821
-
ISBN-13978-4833420822
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
「イノベーション都市」の高卒者は、「旧来型製造業都市」の大卒者より稼いでいる!?新しい仕事はどこで生まれているか?「ものづくり」大国にとっての不都合な真実。
著者について
エンリコ・モレッティ
カリフォルニア大学バークレー校経済学部教授。専門は労働経済学、都市経済学、地域経済学)
。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス国際成長センター・都市化プログラムディレクター。
サンフランシスコ連邦準備銀行の客員研究員、などを務める。イタリア生まれ。
カリフォルニア大学バークレー校経済学部教授。専門は労働経済学、都市経済学、地域経済学)
。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス国際成長センター・都市化プログラムディレクター。
サンフランシスコ連邦準備銀行の客員研究員、などを務める。イタリア生まれ。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
モレッティ,エンリコ
経済学者。カリフォルニア大学バークレー校教授。専門は労働経済学、都市経済学、地域経済学。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)国際成長センター・都市化プログラムディレクター。サンフランシスコ連邦準備銀行客員研究員、全米経済研究所(NBER)リサーチ・アソシエイト、ロンドンの経済政策研究センター(CEPR)及びボンの労働経済学研究所(IZA)リサーチ・フェローを務める。イタリア生まれ。ボッコーニ大学(ミラノ)卒業。カリフォルニア大学バークレー校でPh.D.取得(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
経済学者。カリフォルニア大学バークレー校教授。専門は労働経済学、都市経済学、地域経済学。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)国際成長センター・都市化プログラムディレクター。サンフランシスコ連邦準備銀行客員研究員、全米経済研究所(NBER)リサーチ・アソシエイト、ロンドンの経済政策研究センター(CEPR)及びボンの労働経済学研究所(IZA)リサーチ・フェローを務める。イタリア生まれ。ボッコーニ大学(ミラノ)卒業。カリフォルニア大学バークレー校でPh.D.取得(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
登録情報
- 出版社 : プレジデント社 (2014/4/23)
- 発売日 : 2014/4/23
- 言語 : 日本語
- 単行本(ソフトカバー) : 360ページ
- ISBN-10 : 4833420821
- ISBN-13 : 978-4833420822
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2017年8月22日に日本でレビュー済み
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2017年12月27日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
(18ページより)
「ある人が地理的にどこにいるかは、大きな意味を持たなくなった」
トーマス・フリードマン (フラット化する世界)
しかし、著者は言います。
189 「現実の世界では、これと正反対のことが起きている。これまで以上に "場所" が重要になっているのだ。」
場所が "イノベーション" と "人的資本" に与える影響を都市経済学の観点から考察した本です。
興味深かった内容を簡単にまとめます。(先頭の数字は参照ページです)
第1章~なぜ "ものづくり" だけでは駄目なのか~
37 ある土地で製造業の雇用が1件減ると、非製造業の雇用は1.6件減る。
43 途上国の工場の強みとは?
44 失業率が増えると国民全体にしわ寄せがいく理由とは?
50 すべての国がいくらか金持ちになる「比較優位」とは?
53 グローバル化に伴い、低所得の働き手に生じるパラドックスとは?
第2章~イノベーション産業の "乗数効果" ~
74 向こう10年で最も雇用が増えると予想される職種とは?
81 貿易部門のイノベーションが国の成長にとって重要である2つの理由とは?
83 ハイテク関連の雇用が1つ生まれると、5つの新規雇用が生まれる。
85 とりわけハイテク産業が雇用に与える影響が大きい2つの理由とは?
91 インターネットが創出する雇用の問題点とは?
94 グローバル市場で見返りを劇的に増やすビジネスの特徴とは?
98 1人分の雇用をアウトソーシングするたびに、2人分近くの雇用が生まれる。
第3章~給料は学歴より住所で決まる~
109 成功が成功を呼び、敗者は弱体化する「多重平衡」のメカニズムとは?
121 イノベーションが集積する都市の共通点とは?
131 頭脳集積地では、教育レベルが低い人達の平均年収が高くなる理由とは?
137 大学教育の費用を、地方自治体も負担している経済学的な理由とは?
147 健康状態、喫煙率、寿命にも影響する「社会的乗数効果」とは?
第4章~"引き寄せ" のパワー~
164 イノベーション産業の集積地を決める3要素とは?
168 労働市場は "出会い系サイト" と似ている?
175 アメリカのイノベーション集積地の2つの強みとは?
183 ベンチャーキャピタリストも地理的位置を重んじている?
192 イノベーション集積地がアメリカの豊かさを支えている理由とは?
195 イノベーションの拠点は、簡単に移動できない理由とは?
第5章~移住と生活コスト~
209 教育レベルの高い人ほど移住する確率が高い。
214 低所得者を2つの意味で救う「移住クーポン」とは?
231 イノベーション集積地では、新規住宅を作ったほうがよい理由とは?
第6章~ "貧困の罠"と地域再生の条件~
238 バイオテクノロジー企業の成功を左右する土地の条件とは?
248 経済的に苦しむ都市を救う2つの方法とは?
252 創造性と生活の質の高さを兼ね備えたベルリンの一つの問題点とは?
262 優れた研究者が弱体化した大学に移籍しない理由とは?
第7章~新たなる "人的資本の世紀" ~
289 研究開発に補助金を支給する経済学的な効果とは?
298 "大学進学" ほど利回りの良い投資は存在しない?
314 日本のハイテク産業が世界のトップから滑り落ちた理由とは?
315 高技能の移民がもたらす2つの効果とは?
タイトルの内容以外の深い考察も大変勉強になりました。
「ある人が地理的にどこにいるかは、大きな意味を持たなくなった」
トーマス・フリードマン (フラット化する世界)
しかし、著者は言います。
189 「現実の世界では、これと正反対のことが起きている。これまで以上に "場所" が重要になっているのだ。」
場所が "イノベーション" と "人的資本" に与える影響を都市経済学の観点から考察した本です。
興味深かった内容を簡単にまとめます。(先頭の数字は参照ページです)
第1章~なぜ "ものづくり" だけでは駄目なのか~
37 ある土地で製造業の雇用が1件減ると、非製造業の雇用は1.6件減る。
43 途上国の工場の強みとは?
44 失業率が増えると国民全体にしわ寄せがいく理由とは?
50 すべての国がいくらか金持ちになる「比較優位」とは?
53 グローバル化に伴い、低所得の働き手に生じるパラドックスとは?
第2章~イノベーション産業の "乗数効果" ~
74 向こう10年で最も雇用が増えると予想される職種とは?
81 貿易部門のイノベーションが国の成長にとって重要である2つの理由とは?
83 ハイテク関連の雇用が1つ生まれると、5つの新規雇用が生まれる。
85 とりわけハイテク産業が雇用に与える影響が大きい2つの理由とは?
91 インターネットが創出する雇用の問題点とは?
94 グローバル市場で見返りを劇的に増やすビジネスの特徴とは?
98 1人分の雇用をアウトソーシングするたびに、2人分近くの雇用が生まれる。
第3章~給料は学歴より住所で決まる~
109 成功が成功を呼び、敗者は弱体化する「多重平衡」のメカニズムとは?
121 イノベーションが集積する都市の共通点とは?
131 頭脳集積地では、教育レベルが低い人達の平均年収が高くなる理由とは?
137 大学教育の費用を、地方自治体も負担している経済学的な理由とは?
147 健康状態、喫煙率、寿命にも影響する「社会的乗数効果」とは?
第4章~"引き寄せ" のパワー~
164 イノベーション産業の集積地を決める3要素とは?
168 労働市場は "出会い系サイト" と似ている?
175 アメリカのイノベーション集積地の2つの強みとは?
183 ベンチャーキャピタリストも地理的位置を重んじている?
192 イノベーション集積地がアメリカの豊かさを支えている理由とは?
195 イノベーションの拠点は、簡単に移動できない理由とは?
第5章~移住と生活コスト~
209 教育レベルの高い人ほど移住する確率が高い。
214 低所得者を2つの意味で救う「移住クーポン」とは?
231 イノベーション集積地では、新規住宅を作ったほうがよい理由とは?
第6章~ "貧困の罠"と地域再生の条件~
238 バイオテクノロジー企業の成功を左右する土地の条件とは?
248 経済的に苦しむ都市を救う2つの方法とは?
252 創造性と生活の質の高さを兼ね備えたベルリンの一つの問題点とは?
262 優れた研究者が弱体化した大学に移籍しない理由とは?
第7章~新たなる "人的資本の世紀" ~
289 研究開発に補助金を支給する経済学的な効果とは?
298 "大学進学" ほど利回りの良い投資は存在しない?
314 日本のハイテク産業が世界のトップから滑り落ちた理由とは?
315 高技能の移民がもたらす2つの効果とは?
タイトルの内容以外の深い考察も大変勉強になりました。
2017年6月19日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
E.Moretti氏の著書の翻訳書である。
タイトルが奇をてらっている感があるが、内容はまともである。
収入と都市居住との関係を様々な観点から分析している。
立地の重要性が説かれているが、
誤解を恐れずに言えば、世田谷区に住むか足立区に住むか、
というミクロレベルの立地でなく、
東京圏に住むか地方圏に住むか、というマクロレベルの立地について議論している。
タイトルが奇をてらっている感があるが、内容はまともである。
収入と都市居住との関係を様々な観点から分析している。
立地の重要性が説かれているが、
誤解を恐れずに言えば、世田谷区に住むか足立区に住むか、
というミクロレベルの立地でなく、
東京圏に住むか地方圏に住むか、というマクロレベルの立地について議論している。
ベスト500レビュアーVINEメンバー
Amazonで購入
これは面白い視点で書かれた素晴らしい良書だと思います。
すむ場所という視点から経済を捉えていく。
アメリカの製造業に対する一般的イメージとやや違う現実も土地柄から考えていくと違う景色に見えてきます。
「アメリカの製造業の規模は中国と同じでイギリス経済全体よりも大きくまだ伸びている。雇用が減っているのは技術が革新されているから」
「エレクトロニクス産業ですら形あるものの製造を行っている雇用は減少している」
AIの発達により職が奪われると恐れている声ばかりを聴くが実は全く逆だという事も面白い。
「インターネットが創出した雇用は消滅させた雇用の2.5倍。問題は雇用の創出がいくつかの地域に集中すること」
というのが本書のある意味肝ではないでしょうか。
「アメリカにおける賃金格差は社会階層よりも地理的要因によって決まっている」
という事実をじっくりと実例を交えながら伝えてくれます。
そしてとにかくいい地域に住む高卒者のほうが悪い地域の大卒者よりいい収入を得るチャンスが高いということですね。
「技能の低い人ほど大卒者の多い都市で暮らす恩恵が大きい。」
「高技能の移民がやってくれば特に恩恵を被るのは技能レベルの低いアメリカ人」
そして規模そのものとその土地が持つパワーの重要さも説いています。
「100万人以上の土地で働いている人の平均賃金は25万人以下の土地で働いている人の1.3倍」
「世界規模の競争力を持ちたければシリコンバレーで存在感を持たなくてはいけない」
そして面白かったのはアメリカ人がいかに引っ越す国民性なのか、ということ。
「アメリカ人はよく引っ越す国民。いい経済状況の町があればすぐに移る。」
「学歴が低い層ほど地元にとどまる。あまり移住しないせいで失業する確率が高まっている」
そして最後は教育から更に世界中の優秀な頭脳を集めることが出来るそのパワーとその土地の持つ重要さを説いていくれています。
「アメリカの歴史的強みは優秀で野心的な移民を引き付ける力。傑出した人材に報酬で報いることをやめていない」
「大学進学の利回りは15%。もしウォール街に大学進学という銘柄があれば大人気だろう」
「大卒の移民が1%増えると特許創出件数が9~18%増える」
寿命に関する凄いデータも一つ
「アメリカの平均寿命の地域格差はすさまじい。ボルチモアの平均寿命はパラグアイやイランよりも短い」
生活環境から寿命までよくよく考えれば当たり前な住んでいる場所によって年収が変わるということをあらゆる角度から平易な文体で綴ってくれています。
面白かったです。
すむ場所という視点から経済を捉えていく。
アメリカの製造業に対する一般的イメージとやや違う現実も土地柄から考えていくと違う景色に見えてきます。
「アメリカの製造業の規模は中国と同じでイギリス経済全体よりも大きくまだ伸びている。雇用が減っているのは技術が革新されているから」
「エレクトロニクス産業ですら形あるものの製造を行っている雇用は減少している」
AIの発達により職が奪われると恐れている声ばかりを聴くが実は全く逆だという事も面白い。
「インターネットが創出した雇用は消滅させた雇用の2.5倍。問題は雇用の創出がいくつかの地域に集中すること」
というのが本書のある意味肝ではないでしょうか。
「アメリカにおける賃金格差は社会階層よりも地理的要因によって決まっている」
という事実をじっくりと実例を交えながら伝えてくれます。
そしてとにかくいい地域に住む高卒者のほうが悪い地域の大卒者よりいい収入を得るチャンスが高いということですね。
「技能の低い人ほど大卒者の多い都市で暮らす恩恵が大きい。」
「高技能の移民がやってくれば特に恩恵を被るのは技能レベルの低いアメリカ人」
そして規模そのものとその土地が持つパワーの重要さも説いています。
「100万人以上の土地で働いている人の平均賃金は25万人以下の土地で働いている人の1.3倍」
「世界規模の競争力を持ちたければシリコンバレーで存在感を持たなくてはいけない」
そして面白かったのはアメリカ人がいかに引っ越す国民性なのか、ということ。
「アメリカ人はよく引っ越す国民。いい経済状況の町があればすぐに移る。」
「学歴が低い層ほど地元にとどまる。あまり移住しないせいで失業する確率が高まっている」
そして最後は教育から更に世界中の優秀な頭脳を集めることが出来るそのパワーとその土地の持つ重要さを説いていくれています。
「アメリカの歴史的強みは優秀で野心的な移民を引き付ける力。傑出した人材に報酬で報いることをやめていない」
「大学進学の利回りは15%。もしウォール街に大学進学という銘柄があれば大人気だろう」
「大卒の移民が1%増えると特許創出件数が9~18%増える」
寿命に関する凄いデータも一つ
「アメリカの平均寿命の地域格差はすさまじい。ボルチモアの平均寿命はパラグアイやイランよりも短い」
生活環境から寿命までよくよく考えれば当たり前な住んでいる場所によって年収が変わるということをあらゆる角度から平易な文体で綴ってくれています。
面白かったです。